1133 はじめてのリスクアセスメント @school (1) まだ誰も気づいていない

2024年4月30日

 学校で化学物質管理、というと「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」への対策あたりが先に来るのではないでしょうか。もちろんそれも学校全体のことで大切なことではあります。
 その一方で、学校の理科室の薬品庫には塩酸や水酸化ナトリウムのような医薬用外劇物、硫黄やエタノールのような危険物も存在します。これらはそれぞれ毒物及び劇物取締法、消防法に基づく規制ですが、化学物質に関する法規制は、この他、労働安全衛生法(安衛法)なんかも絡んできます。そして、安衛法の化学物質に関する規制が、ここ何年かで大きく変わりつつあることはご存じでしょうか。リスクアセスメント、やってる?
 「なにそれ、おいしいの?」って人もいらっしゃるのではないでしょうか。
 だいたい労働安全衛生法って、公立学校は適用除外じゃないの?という方もいらっしゃるかもしれません。 
 しかし、労働安全衛生法は労働基準法と違って、教育公務員を含む地方公務員は適用除外になっていません。つまり公立だろうが私立だろうが国立だろうが関係なく適用されるわけです。
 とはいえ、衛生委員会の設置や衛生管理者・衛生推進者の選任等、たとえ法令で定められた義務があっても、必ずしも遵守されていない現状があるなかで、ここ何年かの法改正まできちんと把握し、対応しているほうがレアケースだと思います。

 とりわけ、私がこれ放置してたら全国の理科の先生が突然無茶振りされてヤバいことになるだろう、と思っているのが労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))に基づく化学物質管理者の選任があります。

 令和6年4月1日から設置義務アリ、ということですが、ずっと前から必置義務あった衛生委員会などの現状、そして現在私の知る限り理科の先生の間でもそんな話題が全くないことから考えると、4月からすぐに選任ということはなく(だったら何らかの動きがすでにあるはずですから)、周知徹底がなされない以上、義務がありながらも長期にわたってホーチミンとなると考えられます。

 ただし、学校に限らずどこかで化学物質に関する大きな事故が起こって、例によってマスコミが「学校は大丈夫か?」などと騒ぎ立てると、教育委員会あたりが「化学物質管理者?何それ?」からの~「すぐに選任しろ!」…と突然、現場が阿鼻叫喚となる事態も予想されますので侮れません。

なので、化学物質管理者の選任についてもう少しだけ詳しく見てみましょう。

基発0531 第9号 令和4年5月31日
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について

第4 細部事項(令和6年4月1日施行)
1 化学物質管理者の選任、管理すべき事項等
(1)安衛則第12条の5第1項関係
ア 化学物質管理者は、ラベル・SDS等の作成の管理、リスクアセスメント実施等、化学物質の管理に関わるもので、リスクアセスメント対象物に対する対策を適切に進める上で不可欠な職務を管理する者であることから、事業場の労働者数によらず、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う全ての事業場において選任することを義務付けたこと。

 リスクアセスメント対象物を取り扱うすべての事業場で専任義務があるのです。
 一応言っておくと、労働安全衛生法上の「事業場」は各学校を指し、「事業者」は学校の設置者を指すこととなるので、学校は「事業場」ではない、という論理は通じません。

 で、リスクアセスメント対象物というのは、現在の安衛法では、ラべル表示・文書交付対象物質とイコールと考えてよく(安衛法第57条の3)、2023年8月30日現在、667物質あります。その中には、アルミニウム、エタノール、塩化アンモニウム、塩化水素(つまり塩酸)、過酸化水素、水酸化カルシウム(石灰水もですね)、水酸化ナトリウム、銅、塩化銅(Ⅱ)、硫酸銅(Ⅱ)五水和物、水酸化バリウム、塩化バリウム、二酸化マンガン(Ⅳ)、硫酸など、中学校の実験でもおなじみの試薬も数多くあり、これらが一切ない学校というのも考えられないでしょう。

 つまり全国の中学・高校どころか小学校ですら(塩酸や石灰水がありますから)化学物質管理者を選任しなければならないわけです。
 ま、学校の中で化学物質管理者が誰になるかと言ったら、当然理科の先生ということになりますよね。

 そうするとどういう職務でどういう責任があるのか、そもそもどんなことを知っていないといけないのか、不安になりませんか。
 本シリーズでは、小中高の先生向けに特化して、化学物質管理者として必要な知識とスキルをこのシリーズで解説していきたいと思います。

今日のまとめ
 転ばぬ先の「はじめてのリスクアセスメント @school 」