大掃除をしていたら、理科準備室の本棚からまた香ばしいものが発掘されました。
平成3年度用の東京都立高校入試問題の過去問です。昭和60年度から令和2年度までの東京都立高校の入試問題が掲載されています。
東京都立高校入試では、昭和57年度入試からそれまでの3教科に理科・社会が加わり5教科になりました。その前は3教科だったので、理科・社会はなく、現在に至る「都立の理科」の初期の問題です。
昭和41年までは理科も出題されていましたが、そちらは追いきれないのでスルーします。理科教育史マニアとしてはそれはそれで気になりますが…。
問題を見てみましたが、やっぱり社会の問題が面白い。
3⃣ 右の略地図を見て、あとの各問に答えよ。
昭和61年度 東京都立高校 入試問題 社会3⃣
〔問3〕略地図中に(グレーの色塗り)で示した国々について述べているのは,次のうちではどれか。
ア OPEC(石油輸出国機構)に加盟して,石油の価格について情報を収集し,協議を行い,生産の調整を 図っている。
イ EC(ヨーロッパ共同体)に加盟して,加盟国間の関税を廃止するなど経済の統合を図っている。
ウ COMECON(経済相互援助会議)に加盟して,社会主義諸国間の経済協力を図っている。
エ IMF(国際通貨基金)に加盟して,加盟国間の貿易の拡大を図っている。
略地図、ドイツが東西に分かれている…(ドイツ統一は1990年)。正解は選択肢ウなのですが、あのスターリンが創設したCOMECONは1991年に解散しています。選択肢イのECも1993年にEUに発展しています。冷戦終結前の時代を感じさせる一問でした…。(注)地理分野の出題です。
他にも昭和63年度の問題には、ある鉱産資源の輸入相手国別輸入量の割合の帯グラフの中に、「ソ連」という文字がありました。
では、理科には昭和らしい出題はあるのでしょうか。現在の学習指導要領では扱っていない、というものは別にしておきますが、それでもポチポチあります。
6⃣ 右の図は,ある年の6月13日午前3時の天気図である。このとき山陰沖にあった低気圧は,毎時50kmくらいの速さで進み,およそ12時間後の午後3時ごろに 東京付近を通過して,14日午前3時には990 ミリバール となって図のPの付近に達した。 上の説明と天気図をもとにして,次の各間に答えよ。
昭和60年度 東京都立高校 入試問題 理科6⃣
〔問2〕東京都内のある地点で,13日午前3時から14日午前3 時までの気圧を調べた。その結果をグラフに表したものとして最も適切なのは,次のうちではどれか。
ヘクトパスカルという単位が使われたのは1992年12月1日からで、それまではミリバール(mb)が使われていました。一応言っておくと正解はウです。
2⃣〔問4〕右の図のように,A, B二つの抵抗を並列に接続し,これを電池につないで回路をつくった。このとき,それぞれの抵抗を流れる電流の強さを同じ規格の電流計①,②で調べたところ,電流計①の示す値の方が電流計②の示す値よリ大きかった。 この回路の電気抵抗の大きさと抵抗の両端の電圧についての説明として 適切なのは,次のうちのどれか。
昭和61年度 東京都立高校 入試問題 理科2⃣
ア 電気抵抗の大きさはAの方が大きく,抵抗の両端の電圧もAの方が大きい。
イ 電気抵抗の大きさはAの方が大きく,抵抗の両端の電圧はA, B とも等しい。
ウ 電気抵抗の大きさはBの方が大きく,抵抗の両端の電圧もBの方が大きい。
エ 電気抵抗の大きさはBの方が大きく,抵抗の両端の電圧はA, B とも等しい。
電気抵抗の電気用図記号が現在のものと違いますよね。1952年に制定された JIS C 0301によるものですが、1997年と1999年の2回に分けて改正されていて、現在は、JIS C 0617(JIS検索で閲覧できます)で規定されています。どうでもいいいけど正解はエです。
1⃣〔問3〕純粋なパラジクロロベンゼンの粉末約5gを試験管に入れてゆっくり加熱し,加熱した時間と温度との関係を調べる実験を行った。その結果をグラフに表したところ,右の図のようになった。 パラジクロロベンゼンの量を約2倍にし,他の条件を変えないで同じ実験をすると,前の実験と比べて,パラジクロロベンゼンの溶け始めるときの温度はどのようになるか。また, 溶け始めてから溶け終わるまでの時間はどのようになるか。 次のうちから適切なものを選べ。
昭和62年度 東京都立高校 入試問題 理科1⃣
ア 溶け始めるときの温度は高くなる。また,溶け始めてから溶け終わるまでの時間は長くなる。
イ 溶け始めるときの温度は変わらない。また,溶け始めてから溶け終わるまでの時間は長くなる。
ウ 溶け始めるときの温度は高くなる。また,溶け始めてから溶け終わるまでの時間は変わらない。
エ 溶け始めるときの温度は変わらない。また,溶け始めてから溶け終わるまでの時間も変わらない。
パラジクロロベンゼンはパラゾールなどの防虫剤やトイレボールに使われているのですが、その有害性への懸念が指摘され、多くの学校で使われなくなりました。文部科学省「健康的な学習環境を維持管理するために-学校における化学物質による健康障害に関する参考資料-」(平成24年1月)では、パラジクロロベンゼンを便所の消臭剤として使用している場合など、揮発性有機化合物の発生が懸念される場合に測定する旨書かれているので、文科省的には禁止まではしていないものの、都道府県レベルで使用しないように通達があるところも多いようです。
そんなわけですから、かつては1年の融点を測定する実験をパラジクロロベンゼンでやっていたのですが、高濃度で室内に揮発し、生徒たちが吸入する恐れがあるため、一部から使用中止を求める声が高まり教科書から立ち消えになりました。そこでパルミチン酸ですよ。
もう1点ツッコミ。「溶ける」という表記はいかがなものか。溶解ではなくあくまでも状態変化な、のだから漢字で表記するならば「融ける」だろうに。関係ないけど正解はイです。
2⃣〔問1〕ヒトのからだでは,水,ブド ウ糖,アミノ酸,分解された脂肪 (脂肪酸とグリセリン)は腸で吸収される。これらの物質は,それぞれ主に小腸と大腸のうちのどち らで吸収されるか。右の表のア~エのうちから適切なものを選べ。
昭和62年度 東京都立高校 入試問題 理科2⃣
脂肪が分解されてできる物質は平成24年度から現行の「脂肪酸とモノグリセリド」になりました。それまではこのように「脂肪酸とグリセリン」だったのですね。このあたりの詳しい話はこちら。忘れるとこだったけど正解はエです。
1⃣〔問2〕陰極線について述べたものとして適切なのは,次のうちのどれか。
昭和63年度 東京都立高校 入試問題 理科1⃣
ア 陰極線は,放電管内の+極(陽極)から一極(陰極)へ向かう,+の電気(正の電気)をもった小さな粒子の流れである。
イ 陰極線は,放電管内の一極(陰極)から+極(陽極)へ向かう,+の電気(正の電気)をもった小さな粒子の流れである。
ウ 陰極線は,放電管内の+極(陽極)から一極(陰極)へ向かう,-の電気(負の電気)をもった小さな粒子の流れである。
エ 陰極線は,放電管内の一極(陰極)から+極(陽極)へ向かう,-の電気(負の電気)をもった小さな粒子の流れである。
これもちょっと気になる。電池のような電源側は+極は「正極」、ー極は「負極」であって、放電管や電気分解では、電源の+極につながっている方を「陽極」、ー極につながっている方を「陰極」と厳密に区別しているのですがねぇ。でないと、自分から電流を流す電源と、外からやってきた電流を使う放電管や電気分解の区別が明確につかずグダグダになってしまうのですよ。特に3年のイオンでは電気分解と電池の両方が出てきて混乱しやすいし。そういえば解答はエです。
3⃣右の図のような大きさの直方体の木片が二つある。木片の重さは、いずれも150g重である。次の各問に答えよ。
昭和63年度 東京都立高校 入試問題 理科3⃣
〔問2〕右の図のように,ゆかに固定した水平な板の上に置いた木片をばねはかりを用いて,60g重の力で真上に引いた。 このとき,板が木片をささえる力の大きさについて述べたものとして適切なのは, 次のうちのどれか。
ア 板が木片をささえる力の大きさは,真上に引く力の大きさに等しいので,60 g重 である。 イ 板が木片をささえる力の大きさは,木片にはたらく重力の大きさに等しいので, 150 g重である。
ウ 板が木片をささえる力の大きさは,木片にはたらく重力の大きさと真上に引くカの大きさとの和に等しいので,210 g重である。
エ 板が木片をささえるカの大きさは,木片にはたらく重力の大きさと 真上に引く力の大きさとの差に等しいので,90 g重である。
〔問3〕ゆかに固定した水平な板の上に置いた木片を図1のように,ばねはかりを用いて板に平行にまっすぐに,静かに引き始めた。引く力をしだ いに大きくしていき,引く力が50g重になったときはじめて,木片は静 かにゆっくり動き出した。
次に,図2のように二つの木片を重ねて,図1と同じように静かに引き始めた。
引く力が,ある大きさになったときはじめて,重ねた木片は静かにゆっくり動き出した。
この大きさの力で,重ねた木片を静かに引きつづけて板の上で10cm移動させたときの仕事の大きさは, 次のうちのどれか。
ア 500 g重cm イ 1000 g重cm ウ 1500 g重cm エ 3000g重cm
最後にg重について。平成14年度からニュートン(N)、パスカル(Pa)、ジュール(J)とSI単位が導入されたため駆逐されてしまったのですが、質量100gの物体にかかる重力の大きさが100g重というのは、1Nとするよりわかりやすいのではないかと思うのですが、どうでしょう。質量の単位がgなのに対して、力の単位がg重というわけですが、この「重」は重力加速度gのことだと考えれば、g重というのは質量×重力加速度ということで、F=maから考えるとすごく理にかなっている表現です。さらに100g重の力で10cm引っ張れば、100g重×10cm=1000g重cm というのもすごくわかりやすくありませんか。ちなみに圧力の単位も g重/cm2 のようになって、これも単位を見れば公式がわかっておいしかったのですがねぇ。てことで問2の正解はエ、問3の正解はイです。
こうしてみると、理科も昭和の時代からちょこちょこ変わっているのですね。
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