コンサル屋さんが用いるフレームワークの一つに「空・雨・傘」というのがあります。
空―「空はどんより曇っている」(事実認識)
雨―「このあと、雨が降りそうだ」(解釈)
傘―「だから、傘を持っていこう」(判断)
こういうステップを経る問題解決の思考パターンのことだそうです。
中学校理科で行う課題解決は、「空・雨・傘」の例でいうと、空から雨のステップに該当するといえます。
平成20年改訂の指導要領では中学校理科の観点別評価の2つめは「科学的な思考・判断・表現」ではなく「科学的な思考・表現」になっていました。当時、文科省の教科調査官のある先生は、これについて、「ここでいう『判断』は価値判断を指すので入っていない。中学校の理科で判断をしていないという意味ではない」という旨のことをおっしゃっていました。
つまり「雨が降るから傘を持っていこう」という部分は、基本的に扱っていません。
問 次のア~エから最も適切なものを選びなさい。
ア. 雨が降るから傘を持っていこう。
イ. 雨が降るからレインコートを着ていこう。
ウ. 雨が降るから外に出るのはやめよう。
エ. 雨が降ろうが気にしないでいつも通り。
たしかに、これは理科じゃないだろう。
実際「大地」や「気象」の単元でも、地震や台風などについてその特徴やメカニズムなどに主眼が置かれています。防災的な視点などはコラムなど傍流の扱いといっていいでしょう。もっとも、地震や台風などの自然現象を「学問」として研究する分にはこれでいいのかもしれません。
一方、「防災教育」は、どうしてもその目的から、どちらかというと「災害が来たときは(来るときにそなえて)こうしましょう」というところに主眼がおかれがちです。少なくとも「どうして○○(災害名)は起こるの?」という子どもの疑問には、探究的活動や思考を促すものではなく、最初から説明、つまり答えが与えられます。モデル実験をしたとしても、しょせんは「知識」を与えるための道具にすぎません。
いうならば、防災教育は、生徒が「雨が降りそうな時は傘をさす」と判断できるようにする教育です。災害から自分の命を守る、という目的ならたしかにこれで十分かもしれません。
だとすると、理科では「空から雨」、防災教育は「雨から傘」ということで、どちらも「空・雨・傘」の一連の流れを作れず分断されたままです。
でも、第7単元で防災をやれば事実を根拠に分析し解釈して、それをもとに行動を決定するという「空→雨→傘」が一気通貫に展開できるとみています。これは、学問の研究者や一般市民のみならず、警報の発令や、避難を勧告・命令をするような政策決定者(ちなみに温暖化に関連したIPCCの評価報告書に「政策決定者向け要約」という文書があります)を育てるのに重要な意味を持ちます。
そんな意義を感じさせるような授業が展開できるといいのですがね。
コメント