2034 原因は「ヘリウム」か?

※旧ブログで 2015-02-06 に更新された記事です。

 アイドルグループの12歳の女性メンバーが、番組収録中にヘリウム吸引で救急搬送され重体となる事故がありました。

テレビ朝日は4日、都内で会見し、1月28日に本社スタジオ内で、BS朝日で放送している「3B juniorの星くず商事」の収録中にアイドルグループ「3B junior」の12歳の女性メンバーが倒れ、意識不明となったため、救急搬送されていたことを明らかにした。
 倒れたメンバーは病院で現在も専門医の治療を受けているという。専門医によると、脳の血管に空気が入り、血流を妨げられている状態で「脳空気塞栓症」だという。
 テレビ朝日によると、収録時、26人のメンバーが5人1組で、ヘリウムが入った声を変える市販のパーティーグッズを使ったゲームを行っていた。メンバーの1人が意識不明となったのは、ガスを一気に吸ったことによるものとみられる。パーティーグッズには「大人用」と記載されていたが、番組スタッフが見落としていた。「吸うと声が変わる」というガスが入っていた缶は5000cc。ヘリウムが80%で酸素が20%だという。商品は日本製で、市販されているもの。警視庁の実況見分が行われた。
 武田徹常務取締役は「当初は早い回復が見込まれ、容体の推移を見守っていたことなどから公表を控えていたが、専門医の診断結果を得ることができ、新たな治療によって回復の兆しも見られ始めたことから、ご家族のご了解もいただき、皆さまにお知らせすることにした」と説明した。専門医の説明によれば、4日には食事をすることもできるようになったが、意識は十分には戻っていないという。現在完治を目指している。
 番組は2月24日に放映予定だが、中止も検討している。テレビ朝日は「収録時の安全管理に問題があった可能性もあり、深く反省している」とした。3B juniorのメンバーは10歳から16歳。(2015年2月4日17時50分 スポーツ報知)

そんなことを12歳にさせていた番組制作者などに対する批判が集中していますが、アイドルといえば時代的に後藤真希あたりのモーニング娘。で時代が止まっている私には、それ以降のAKBだのなんだのはとてもついていけません。いわんや3B juniorをや。ぶっちゃけ事故のニュースがなければ存在すら知らなかった…。

それよりここはたしか理科のブログだったことを思い出したので、科学的な視点からヘリウムについてみていきたいともいます。

ヘリウム自体は希ガスの一種で、反応性に乏しい気体なので、他の物質と結合して…という悪さはしません。そういう意味で、化学的な毒性はないと言えます。

ところが、ヘリウムを吸引することによる死亡を含む事故は多く、オーストラリアでは2005年7月から2009年12月までの間に79人、2013年にはイギリスで62人という死者が出ているという報告があります。

日本でも、2007年10月25日茨城県ひたちなか市の勝田工業高校で文化祭の準備をしていた男子高校生がヘリウムガスで膨らんだ容量45リットルのポリ袋をかぶって死亡した事例が有名です。亡くなった男子生徒は、先生に「ヘリウムを吸うと声が変わるんですよね。ガスを入れたら、明日まで持つのかな」と話していた事から、声を変えようとしてやっていた可能性が高いと言われています。ちなみに、その先生はヘリウムガスは安全だと思い、使用上の注意などを男子生徒にしなかったため、業務上過失致死容疑で書類送検。その後不起訴となっています。

原因は、「ヘリウム」を吸ったからではなく、「酸素0%の気体」を吸ったからなのです。

どういうことか。

赤血球に含まれるヘモグロビンは、酸素が多い(酸素濃度が大きい)ところでは酸素と結合し、少ない(酸素濃度が小さい)ところでは酸素を放出します。だから空気を吸い込んだときの肺では、酸素濃度が大きいので、ヘモグロビンは周囲の酸素と結びつきます。

一方、全身の細胞では、酸素を使うので酸素濃度は小さく、血液中の(ヘモグロビンの持つ)酸素濃度の方が大きいので、ヘモグロビンはここで酸素を放出します。結果、ヘモグロビンは肺から全身へ酸素を運んでいることになるのです。

ちなみに吸気(吸う空気)の酸素濃度は21%、呼気(体から吐く空気)の酸素濃度は約16%と言われています。吸う空気の酸素の濃度が18%未満になると、体に取り込める酸素が少なくなるので、酸素欠乏症(いわゆる「酸欠」)の危険性が生じてきます。

そこに、肺に吸い込まれたのが突然、空気ではなく純粋ヘリウム、つまり酸素0%の気体だったらどうなるでしょう。このとき、肺よりも血液中の(ヘモグロビンの持つ)酸素濃度の方が大きいことになります。したがって、血液中のなけなしの酸素を、こともあろうに肺で放出してしまうのです。そうすると、本当に酸素の必要な全身の細胞はどうなるか…。

しかし、今回の事故はこれとはちょっと違うのです。というのもニュースによると、使っていたヘリウムは純粋なヘリウムではなく、ヘリウムが80%で酸素が20%の市販品。つまり、酸素はきちんと供給されていたはずなのです。

さらに不可解なのが、病名が、「脳空気塞栓症」。脳の血管に空気が入り、血流を妨げられている状態ということですが、ヘリウムで、それが起こるのでしょうか。というのも、ヘリウムは窒素よりも血液中に溶け込みにくい性質をもっているのです。潜水時に呼吸用として空気を使用すると、窒素が血液中に溶け込んで、水面浮上時に気泡が生じて潜水病になりますが、それを避けるため、わざわざ空気の代わりにヘリウム・酸素の混合ガスを使用するくらいですから。

なので、ヘリウムが一度血液にとけて、脳の血管で血液にとけていたヘリウムが気体となって出てきた…というようなシナリオは、空気の80%を占めている窒素以上にありえない話なのです。

どういうことなのだろう?とさらにニュースをよく読んでみると気になったところが。

メンバーの1人が意識不明となったのは、ガスを一気に吸ったことによるものとみられる。

そうしてネットの海をさすらって見つけたのがこの事故事例(英語)。やはりヘリウムを吸い込んで亡くなった女の子の死因が空気塞栓症だと判断されたケースです。

そこでの空気塞栓症になった理由のお医者さん(解剖医?)の説明を訳してみます。

ヘリウムを肺へ送るタンク内の圧力は大きく、肺を破裂させることもできます。一度肺が破壊されると、空気は血管に入ることができ、他の主要臓器へ小さな気泡を送って、それがさらなる損傷を引き起こします。

ダイビングの世界でも、口をポンプのようにして息を詰め込んでゆくパッキングの危険性が指摘されています。(

いずれにしろ、今回の事故はヘリウムの危険性に基づくものではない、と私は解釈しています。

それはともかく、12歳の女性メンバーの一日も早いご回復をお祈りいたします。


追記(2015/6/20)
日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)にこの事案が載っています。
ヘリウムガス入りスプレー缶の吸引による意識障害
Full Text(PDF)

 2015年2月の事故が公表された直後は、上述の記事のように当該の「12歳の女性メンバー」が誰かということ公表されなかったので、誰だろうとSNSや掲示板などで特定班による邪推が繰り広げられていました。
 その後、同年6月に公表されたInjury Alert(傷害速報)によると、「年齢 12歳 5か月」とあるところから、事故のあった2015 年1 月28 日から逆算すると、誕生日は2002年の8~9月生まれとなります。で、それに該当する人を探すと、9月1日生まれ、すなわち事故当日に12歳 4か月27日となり、「12歳 5か月」といえるメンバーがいました。N・Mさんです。しかも、プロフィールによると身長148cmで、Injury Alertに記載されている「身長 149cm」とほぼ一致します。
 たしか、2月のネット民の特定では確定はされなかったものの、別の人が有力視されていたような…

2025年追記
 事故当時はヘリウムガスの危険性が一般に知られておらず、番組スタッフがこのような事故を予見することは困難、ということで立件せずに容疑者不詳で書類送検。番組も打ち切りになった。一方、「12歳の女性メンバー」は無事に芸能活動を再開したらしい。

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