1533 はじめてのリスクアセスメント @school (14) 簡易ツールの限界

 さて、スクリーニング支援ツールにしろ、コントロールバンディングにしろ、たかが、と言っちゃいけないのだろうけど、飲む人はお酒として飲んでる、コロナのときは消毒液として手にかけた、あの「エタノール」が危険性、有害性ともに最上級にやべー奴認定されてて代替物質を検討しろ、せめて厳戒態勢で取り扱うようにしろ、とい結果は、いくらなんでも過剰防衛やりすぎではないかという疑問がわかないでしょうか。

 それと、前回までではエタノールだけで触れなかったのですが、「塩酸」についてスクリーニング支援ツールとコントロールバンディングでそれぞれリスクの見積もりをしようとしたところ、水溶液としての塩酸(だとしてもエタノールの見積もりからいえば、どうせ最大級の警戒を求められるのだろうけど)ではなく、気体としての塩化水素扱いされて、分圧がどうのこうのとずれたアドバイスをいただきました。

 これらの結果から導けたのは、「ツール使ったところで、GHS分類でエタノール程度以上物質なら、どう転んでも危険有害性MAXだからもうこいつは使うな!という結果が見えてるんだから、わざわざツール使う意味なくね?」ということ。「あんたが神か」と言ってた頃が懐かしいぜ。

 そりゃ、安全第一ということで、もっと言うと危険なものを安全と判断してしまう「見逃し」は人命にかかわるから絶対に避けなければならないのに比べて、安全なものを危険と判断してしまう「空振り」は、まあしょうがないよねとなんとなく許されてしまう現状があり、とりあえず迷ったら「危険」と言っといた方がいう人の立場上「安全」であるってことは、百どころか億も承知です。

 だけど、一方で、たとえばパスワードはサイトごとに別のものに変えて、かつそれぞれのサイトのパスワードには複雑で推測できないものを使っていますか。あるサイトにログインしようとしたらパスワードを忘れて困ったり面倒な手続きをする羽目にあったことはありませんか。世の中にはこんな深刻な事例もありますけど、自分を(ここでは自分の財産を)守るためにしていることが、逆に自分にとって敵となっている、なんてことはないでしょうか。

 そういえば、スクリーニング支援ツールと、コントロールバンディングのツールを使うとき、いきなりツールの画面をみて、操作方法が分かったので、取説類を見ていませんでしたね。てへぺろ☆(・ω<)。そこで、いまさらですがの特徴や注意点などの説明を見てみましょう。

爆発・火災等のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール   対象:危険性

 SDS交付対象物質を取扱うすべての事業者に対し有害性だけではなく危険性(化学物質に起因する爆発・発火など)についてリスクアセスメントを実施することが求められています。

 このツールは、取扱う化学物質や作業に潜む代表的な危険性やリスクを「知る」ことが可能なウェブシステムで、次のような特徴があります。

特徴
・SDSに記載のGHS情報を活用しているため、危険性に関する専門的な知識があまりなくても利用可能。
・対象物質や危険性ごとに代表的な事故事例を例示し、事故に至るシナリオの検討を支援。
・リスク低減措置の内容を検討できるよう、危険性に応じた代表的な対策についても例示。
・従業員への周知に活用できるよう、リスクアセスメント評価結果をひとつのファイルに出力。

手法
・「はい」、「いいえ」で答えるだけの簡便なシステム。
・チェックフローの質問に答えていくだけで、代表的な爆発・火災等の危険性、リスクについて知ることができる。

注意点
・このツールは、リスクを「知る」ためのツールであり、代表的な危険性のみを対象としています。そのため、すべての危険性を網羅しているというわけではありません。「リスクの程度は大きくない」と判定された場合であっても、どこかに危険性が潜んでいないかという意識を持ち、常に安全性の確保に努めてください。

スクリーニング支援ツールの場合、シロートさん向けに簡単に使えるように作ったため、あんまり細かい危険性までは指摘しませんよ、というスタンスだということが分かります。たしかに、SDSとかGHSとかがわからないような人に些細な危険性まで指摘すると、どれが重要でそれが些末な事か判断できないでしょうから、これはこれで正解なのだと思います。もう少し詳しい人向けのツールが別にあれば。

厚生労働省版コントロール・バンディング 対象:有害性

コントロールバンディングとは
 化学物質の健康有害性についての簡易なリスクアセスメント手法として、「コントロール・バンディング」があります。 これは、ILO(国際労働機関)が、開発途上国の中小企業を対象に、有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するために、簡単で実用的なリスクアセスメント手法を取り入れて開発した化学物質の管理手法です。
 厚生労働省版コントロール・バンディングは、この手法をわが国で簡易的に利用できるようにウェブシステムとして開発されたものです。
 【液体または粉体を扱う作業(鉱物性粉じん、金属粉じん等を生ずる作業を除く。)】と【鉱物性粉じん、金属粉じん等の生ずる作業】の2つのシステムがあり、次のような特徴があります。

特徴
・労働者の化学物質へのばく露濃度等を測定しなくても使用できる。
・許容濃度等、化学物質のばく露限界値がなくても使用できる(粉じん等が生ずる作業は値設定が必要)。
・化学物質の有害性情報は必要。

手法
・作業条件等の必要な情報を入力すると、化学物質の有害性とばく露情報の組み合わせに基づいてリスクを評価し、必要な管理対策の区分(バンド)が示される。
・バンドに応じた実施すべき対策及び参考となる対策シートが得られる。

注意点
 得られる対策シートはあくまで安全衛生対策の参考としていただく材料です。労働安全衛生法令によりばく露防止対策が規定されている場合は、それに基づいた対策を実施することが必要です。

 化学物質の健康有害性に対するリスクについては
 有害性の「有害性」×「ばく露」=健康障害のリスク
という式が示されることがよくあります。
 コントロールバンディングも、化学物質の有害性とばく露情報の組み合わせに基づいてリスクを評価し、必要な管理対策の区分(バンド)が示される仕様になっています。
 化学物質の有害性は、物質が分かればOKですが、「ばく露」については正確にやるなら労働者の化学物質へのばく露濃度等の測定、なんてことが必要になってきます。
 しかし、中学校でばく露濃度の測定なんてやりませんし、やったところで基本限りなく0に近い値のような気がします。そういう意味では労働者の化学物質へのばく露濃度等を測定しなくても使用できるコントロールバンディングは、大変便利なツールと言えます。
 中学校ではその物質を扱った実験をやるのが年に1回、なんてものもありますから、そうすると年に数時間程度のばく露時間となると、例えば工場で毎日扱っている人に比べれば、単回ばく露はともかく、反復ばく露による人体有害性はかなり小さくなるはすですが、その点については目をつぶります。

 コントロールバンディングは、スクリーニング支援ツールほどではないかもしれませんが、やはり簡単に使えるように作ったため、あんまり正確には指摘できませんよ、とう話をしています。

 一方。ちょっと古く2017年の記事ですが、安全教育センターの「化学物質のリスクアセスメントに、改良型コントロールバンディングを使ってはいかがでしょうか?」と題するコラムでは、コントロールバンディングをこのように評価しています。

とてもありがたいのですが、難点があります。
それは、対策が非常に安全側に配慮しまくった結果が出るというものです。
例えば、エタノールを少量使用する場合でも、局所排気装置を使えなどの結果が出ます。
対策としてオーバーですね。
手軽なのはメリットですが、結果として採用し難いのです。

だよね!だよね!だよね!よく言ってくれた!カタルシス!!

加えて、混合溶剤のコントロール・バンディング~リスクアセスメント支援ツールの使い方②~(有機溶剤情報局まっすーチャンネル)によるとアルコール類はリスクレベル4になりやすいという解説が。

さらに岡山労働局労働基準部健康安全課までもが

コントロール・バンディングは、有害物質に対する知識が少なくても、情報を入力
するだけでリスクアセスメントできるなどの利点がありましたが、簡易的な評価法なので、作業環境などによっては誤差が大きい、有害物質の情報がなければ測定できないなどのデメリットもありました。

と、本省にたてついてコントロール・バンディングのデメリットを指摘。大丈夫か担当官!出世をあきらめたのか?

そう、「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」
いよいよ真打登場だな。

参考リンク

NEW RISK ASESSMENT(福井大学工学部技術部安全衛生管理推進グループ)
 本文で引用した安全教育センターのコラムに詳細されていました。ツール以上に、これは勉強になる感半端ない。

まとめ
スクリーニング支援ツールもコントロールバンディングも、簡単に使えるように作ったため、細かいところまで正確には判定できません。