みんな知ってるDNA
考えてみれば、これってすごいことじゃないかと思います。
DNAについては中学3年生で学習します。ちなみに中学校でDNAが登場したのは、ゆとりからようやく解放された平成20年告示の学習指導要領からの話で、それまでは高校からの登場で、義務教育にはなかったのです。
にもかかわらず、DNAについては中学3年で学習する前の段階から、言葉はよく知っています。また、高校で生物を選択しなかった・しても苦手だった人もDNAという言葉は知名度が高そうです。細かい意味が分からなくても、なんとかく生物の遺伝に関係している大切なもの、というニュアンスも含めて知られているように思えます。その証拠に、特撮のDNAとか「わが社のDNA」とか「みそ汁の味や香りは、日本人のDNAに…」とか、世代を超えても変わらず受け継がれている価値観や信念などを表現するときに「DNA」という隠喩がしばしば使われます。
どうも日本だけらしい
カンボジアの中学生にDNAの授業をしに行った先生が「DNAを知っていますか」と聞いたら、知っている生徒は全然いなかった、という話を聞いたことがあります。
ということは、日本だけの事情なのかもしれません。
では、日本ではどうしてこんなにDNAが有名なのでしょうか。
DNAの歴史的背景
DNAの歴史といえば1953年のワトソン・クリックによる二重らせん構造はあまりに有名ですが、DNAの発見はさらにさかのぼり、1869年にスイスのヨハネス・フリードリッヒ・ミーシェルが包帯から得た膿からリン酸の多い物質を分離することに成功し、これをヌクレオチドと呼びました。
他にもDNAの歴史としてはいろいろあるのですが、日本の知名度につながってくる話としては、1973年にスタン・コーエンとハーブ・ボイヤーによる組換えDNA技術が大きいでしょう。この技術はそれまでの例えば微生物による発酵や品種改良などの「オールド・バイオテクノロジー」に対して「ニュー・バイオテクノロジー」と呼ばれることがあるように、バイオテクノロジーの歴史に大きな転換点となりました。
そして1980年代、日本ではバイオ・ブームが発生し、ベンチャーを含む様々な業種からバイオ・テクノロジー分野に進出してきました。日本でのバイオ専門メディア「日経バイオテク」も1981年に創刊しました。
一般への認知
で、問題は研究者界隈だけでなく一般人に対するバイオ・ブームの話。
たとえば、こちらのCM、当時22歳、神田正輝と結婚する直前の松田聖子が「バイオ口紅」を宣伝していました。
CM カネボウ化粧品 バイオ口紅 1984年 – YouTube
昔、テレビで「金儲け商品」と言ってたからなんだと思ったら、カネボウ化粧品だった…
【参考】
昭和末期 懐かしの化粧品 ① カネボウのBIOリップとファンデーション | 化粧の日本史ブログ by Yamamura
他にも1985年の科学万博・つくば’85では水耕栽培を利用して、一本で1万3000個もの実がなるトマトが展示され、花王は洗剤のニュービーズが1988年に「バイオニュービーズ」、89年に「バイオビーズ」と改名しました。
さらに90年代になると、親子(父子)の血縁関係を立証する手段として、それまでの「DNA鑑定」が登場します。
ただしプラスの面だけでなく、遺伝子組み換え食品などに対する不安なども、かつての食品添加物など食の安全性への不安の一環としてありました。が、これさえもバイオテクノロジー、遺伝子工学とならんでDNAという謎のキーワードを一般人知らしめるにはプラスに貢献していたはずです。
実はこの頃私は中学生から大学生だったのですが、当時のバイオブームで理系の友達が生物系に流れる人も多かったなぁと…自分は化学に残りましたが…。
この時の日本における、とくにマーケティング上のバイオブームが、DNAの異常な知名度につながっていったのではないかと思います…。
2004年に日本のサントリーが青いバラを開発したのもインパクト大でしたね。
DNA抽出実験への疑問
いや、この話をするとまた多くの生物の先生を敵に回してしまいそうなのですが、物理・化学・地学に比べて生物の知識が浅いもののたわごとと流してやってください。
ブロッコリーとかレバーを材料に、エタノールとか中性洗剤を使ってDNAを取り出す実験ってあるよね。それこそ有名になりすぎて子供も知っているDNAなので、興味をもっている子供たちにもできるDNAに関する実験はできないものか…と思った先生が考案したんだろうなと拝察します。
それはとても良いことなのですが、逆にこの実験で取り出された糸状のものが純粋なDNAそのものとして誤ったイメージが独り歩きしてしまいそうな危惧もしています。
その糸状のものが絡まっていて「これが二重らせんか!」と感動する生徒に、分子レベルなんだからこんなにでかくないよと水を差す必要もあるし、「これ本当にDNA?」と疑われても中学校の理科室レベルでは確かめようがないし。この糸っぽいのをとりあげて「この中にDNAがある」というのと、ブロッコリーそのものを取り上げて、「この中にDNAが含まれている」というのと本質的には変わらない、というとさすがに言い過ぎかもしれないけど、何かそれでいいのかとモヤるんですよね。
結局、実験結果から考察するんじゃなくて、正しい知識を得るのは先生の誘導だったりするんで、この実験の意味は…と考えると、私のかたい頭では「DNAを取り出せてワクワクする」以上のものが浮かばないんですよねぇ。はい、ひとえに私の精進不足です。


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