0184 学習指導要領の変遷 (9) 平成20年改訂

小学校学習指導要領(平成20年3月告示)
中学校学習指導要領(平成20年3月告示)
高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)

 教育基本法が改正され、その下にある学校教育法では学力の三要素が「基礎・基本的な知識・技能の習得」「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」「学習意欲」と示されました。

 「生きる力」理念は継承されていますが、「ゆとり教育」は是正の方向へ進みます。

 とくに「ゆとり教育」の是正としては、学習内容と授業時数の増加があります。とはいえ、時数をどうやってかくほするかがもんだいとなり、毎週でないにしろ土曜日に授業がある公立校も増えてきました。

 「総合的な学習の時間」は縮小され、小学校外国語活動が導入されます。
 中学校では選択科目が必須ではなくなり、保健体育では武道が必修となります。

 総則では道徳教育の目標として「…我が国と郷土を愛し…主体性のある日本人を育成する…」と示されている。
 小学校音楽では、国歌「君が代」は,いずれの学年においても歌えるよう指導すること、と「歌えるよう」と結果責任が求められました。

突然ですがクイズです。

 次の(  )に当てはまる単語を考えてみましょう。
  エネルギー (    ) 生命 地球
 理科教員で現行(平成20年改訂)の学習指導要領を詳しく知っている人でなければ、「物質」と答えるんじゃないでしょうか。
 エネルギー→物理 生命→生物 地球→地学
 なので、化学に当てはまるものはと考えると、「物質」が思いつくでしょう。

 ところが平成20年改訂の学習指導要領的には、(  )に入るのは「物質」ではなく「粒子」なのです。
 エネルギー、粒子、生命、地球が、小中高の理科の内容を構成する柱なのです。

小学校学習指導要領 第2章 第4節 理科

 小学校でそれまでは高校のみで中学ですら扱っていない「コンデンサー」が突然入ってきました。「なんだこれは!」と小学校の先生方はさぞかし驚いたでしょうが、導入の経緯を当事者の一人である、物理を専門とする中学校の理科の先生から聞いたことがあります。ただ、それをブログで暴露していいものか。散々お世話になった先生だし…。

中学校学習指導要領 第2章 第4節 理科

〔第1分野〕
(1) 身近な物理現象
(2) 身の回りの物質
(3) 電流とその利用
(4) 化学変化と原子・分子
(5) 運動とエネルギー
(6) 化学変化とイオン
(7) 科学技術と人間

〔第2分野〕
(1) 植物の生活と種類
(2) 大地の成り立ちと変化
(3) 動物の生活と生物の変遷
(4) 気象とその変化
(5) 生命の連続性
(6) 地球と宇宙
(7) 自然と人間

 「内容の取扱い」においては、「~は扱わないこと。」「~には触れないこと。」のような、いわゆる「歯止め規定」が撤廃されました。
 また、両分野(1)(2)は1年、(3)(4)は2年、(5)~(7)は3年で扱うことだけ規定され、学年内での順番、たとえば1年では(1)→(2)の順にやらなくてはならない、という縛りが取れました。なので、特に1分野については、各社の教科書の単元構成は化学→物理の順番に戻っています。

 教科書といえば、この指導要領が適用される平成24年本より、それまでの1分野上・下、2分野上・下の4冊構成から、各学年1冊ずつの3冊構成になりました。教科書が1・2分野に分かれていた時代は、教科書の採択で、たとえば1分野はT社、2分野はD社と別々の会社の教科書を採用することも可能でした。普通は使い勝手が悪いのでわざわざそんなことしないと思いますが、採択の時、理科の教科書を多数決で決めようと投票したら2社が同率一位で、1分野と2分野で別々の教科書を採択したという事例があります。

 学習指導要領の実施は小学校では平成23年度、中学では平成24年度からでしたが、理科や算数・数学に関しては21年度から段階的に移行措置が取られていました。その移行措置ですが、これまでのように学習内容が減っていくならば、該当箇所を飛ばせばすむ話です。ところが、今回は教科書に載ってない新しい内容をやるということで、その内容が載っている教科書が必要です。

 そこで、「補助教材」というものが登場しました。つまり、新しい学習指導要領で増えた部分だけをまとめた薄い本です。
 1年生は平成21年度から、種子を作らない植物や、プラスチック、浮力、断層としゅう曲などを新たに学習します。
 2年生は平成21年度はそのままで、22年度から酸化還元、細胞、電力量、日本の天気などが入ってきます。
 3年生は平成21/22年度は遺伝の規則性、仕事とエネルギー、化学変化とイオン、月の見え方など、23年度はそれに力の規則性やエネルギーの移り変わり、エネルギー資源の利用など、完全に新学習指導要領になっています。
 つまり、平成19・20年度に入学した生徒は、3年生の一部だけを、21年度入学生は完全な平成20年版学習指導要領で進めたというわけです。

 今度はなぜか2年生の分がない…。(右端は教師用指導書)
 

 で、「補助教材」は教科書5社からそれぞれ出されたのですが、普通の教科書と違って、時間もなく新学習指導要領について完璧には理解してないまま、突貫工事で作られたもので、さらに教科書検定をしていなかったそうです。たとえば「水中では物体に浮力が働くことにも触れること。」と「扱うこと」よりも軽い「触れる」という表現なのですが、補助資料では各社、浮力の大きさを公式化していました。ただし、平成24年本では、そのあたりは粛清され、浮力の大きさを式で表していません。
※もっとも、プラスチックの扱いは24年本でも、どこまで扱うか(実験するか)教科書によってまちまちだったけどな!

 平成20年9月発行の「中学校学習指導要領解説 理科編」では,以前は「ばねはかり」と表記されていたものが「ばねばかり」に変更されています。これに合わせて各社の教科書も「ばねばかり」となっています、

高等学校学習指導要領 第2章 第5節 理科

「科学と人間生活」(2単位)
「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」(各2単位)
「物 理」「化 学」「生 物」「地 学」(各4単位)
「理科課題研究」(1単位)

必修条件:
「科学と人間生活」,「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」及び「地学基礎」のうちから2科目(うち1科目は「科学と人間生活」とする。)又は「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」及び「地学基礎」のうちから3科目

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学習指導要領・生きる力

学習指導要領等の改訂の経過
中学校学習指導要領解説総則編の97ページ以降に
(資料)として掲載されています。文科省の立場から学習指導要領全体の各改訂の要点としてはこれを参照するとよくわかります。

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