2月24日に東京都立高等学校入学者選抜学力検査がありました。理科の問題を見てみたのですが、今年は少々難化した感じがします。
問題・正解→ 東京新聞 ReseMom
その中で気になった問題を取り上げます。
2〔問4〕
固形燃料が完全に燃焼したときに発生する物質と、パルミチン酸の融点についてについての出題です。
気になった点① 「パルミチン酸は固体」だとどうやって判断するのか?
パルミチン酸の融点は63℃か-115℃か。パルミチン酸は常温で固体なので、63℃が正しいです。しかしこれはどうやって判断するのか。
「パルミチン酸は常温で固体」という知識は、「有機物が燃焼すると二酸化炭素と水が発生する」という知識と違い、中学生が必ず知っていなくてはならない知識では決してありません(教科書には1社を除いてパルミチン酸を使った融点測定の生徒実験が載っていますが、仮にそうだとしても)。かといって「パルミチン酸は常温で固体である」ということをこの文から読み取れ、というのはそれはそれで酷かと。
気になった点② この文は、日本語としておかしくないでしょうか?
固形燃料は、有機物である液体燃料を、有機物である脂肪酸を溶かしたものと混ぜて固めてつくられていることがわかった。
脂肪酸を加熱して固体から液体にしたものと混ぜる、という意味なら「溶かす」ではなく「融かす」だし、脂肪酸を(水に)溶かしたものと混ぜて…ということだったら不親切すぎます。実際の固形燃料のつくり方から考えると、
固形燃料は、有機物である液体燃料に、有機物である脂肪酸を溶かしたものと混ぜて固めてつくられていることがわかった。
と表記すべきではなかったのかと考えます。
気になった点③ なぜステアリン酸ではなくパルミチン酸?
これは解答にはもはや関係ないことですが、固形燃料を作るなら、ふつうステアリン酸を使うんじゃないかと思うのですが、なぜわざわざ炭素数の少ないパルミチン酸をあえて使うのかと小一時間いつ(ry お前、パルミチン酸って言いたいだけちゃうんかと。
1社を除く教科書に載っていたからなのでしょうが…
3〔問3〕
天体の問題です。太陽の日周運動は定番ですが、そこに「月の日周運動」を重ねたところに出題者の工夫を最初は感じ取りました。しかし問題をよくよく見てみると、つっこみどころがいくつか…
気になった点① いつの話だよ?
去年の夏至(2013年6月21日)の月齢は12.5、もうすぐ満月というところです。今年の夏至(2013年6月21日)は月齢 23.3、ほぼ下弦の月です。去年や今年にそういうことが起こった・起こるというのなら話は別ですが、「夏至の日で、かつ上弦」という、かなり特殊なケースをとりあげてわざわざ問題にする意味があるのかと。ただ、問題そのものには影響ありません。
気になった点② 気づくかふつう?
で、その日(夏至)の月(上弦)の道筋と、秋分の日の太陽の道筋が似ていると気づいたそうですが、気づくかふつう?!どんな天体観測マニアやねん!まぁ図3の真東から出て真西に沈むところが秋分の太陽と似ているところなんでしょうけどね。もっとも、これも問題そのものには影響ありません。
気になった点③ ミスリードを狙え!
これはもう問題をみていただきたいのですが、
月の道筋が図6のように秋分の日の太陽の道筋とほぼ同じになるときの月と地球、太陽と地球の位置関係
という文がなかなかのミスリードです。
観測した月の道筋については、月と地球の位置関係、秋分の日の太陽の道筋については太陽と地球の位置関係は秋分の日ということをよみとらせています。ちょっとわかりにくいので、この文の構造を図にして整理してみました。
もしここで「月の道筋が」の「が」につられて、「月と地球(の位置関係)」も、「太陽と地球の位置関係」も「月の道筋を観測した日」とミスリードに引っかかると、「垂直」と書かれた誤りとされる選択肢を自信を持って選んでしまう仕様です。えげつな~。
ただ、その解釈の場合、わざわざ地球を2回も出さず「月と地球と太陽の位置関係」とまとめて表示するでしょうし、選択肢にある「月の中心と地球の中心、太陽の中心と地球の中心を結んだ直線がほぼ平行になる位置関係」という表記は「月の中心と地球の中心、太陽の中心を結んだ直線がほぼ一直線になる位置関係」と表記されるはずです。だいいち垂直を選ばせる問題なら、それは〔問2〕で図で聞いたことを文に直しただけの問いとほぼ同趣旨の問題になってしまいます。もちろん、受験生がテスト中にそこまで気づくかどうかは、別にして(もはやそれは読解力や受験テクニックのようなもので、本質的な理科の学力ではないだろうし)。
ということで、問題文の解釈についての問い合わせ(クレーム?)が東京都教育委員会に多数あったみたいです。最初は強気でこのままいくようでしたが、ついに折れて一律加点措置になりました。
そうなると気の毒なのは都立高校です。ただでさえミスが許されない神経を使う仕事なのに、27日に指示があって、採点し直してもう一度合否判定して、28日午前9時に合格発表って…。
教訓
他人の批判ばかりしていられません。今回の記事は旧ブログからの移転による改訂であって「理科教師のための作問入門」シリーズではありませんが、問題を出すことのある立場の者ならば、ここからの教訓を読み取って他山の石にすることは、同じ轍を踏まないためにもやっておきたいところです。
一般に文章を、複数の(著者の意図と異なった)解釈をする余地がないよう気をつけてつくると、結果的に長くなってしまいます。法律関係の文章などはそのような印象を持ちます。一方、長い文章はそれだけ読者に負荷をかけ、読解力や注意力を要しますから、そのような問題文を出した試験では、肝心の理科の学力が測りにくくなってしまいます。また、文章が長いと出題者側も今回のように別解釈の見落としや、もっと単純に誤植のリスクも高まり、それにより確認する手間も増えてきます。したがって、なるべく文字数は減らせるだけ減らした方が望ましいといえます。
と思いきや、少ない情報量で事実的な知識を問う問題ならともかく、思考・判断・表現の力が測れるのか、また今後「理科教師のための作問入門」シリーズで取り上げますが、大問にストーリー性をもたせることを考えるとそれなりの分量が必要になってきます。
このあたりのバランス感覚が、作問者とその試験問題を統括する担当者の腕の見せ所となるのです。。。
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