1072 菜の花や

菜の花や 月は東に 日は西に 
与謝蕪村の有名な句です。

では、このとき蕪村が見た「月」はどんな月でしょうか。
これも今までの学習を組み合わせてみるとわかるのです。

次の太陽・地球・月の位置と満ち欠けの図に

昼と夜を作って

地球の時刻

そしてそれぞれの位置からの北と西の方位を書いてみます。
このとき、「西」の先に太陽があるのは…夕方ですね。つまり、この句で詠まれているのは夕方ということがわかります。
…「日は西に」だから夕方というのはすぐわかるわけですが、きちんと裏付けられたということで。

では、夕方の位置で「東」はというと、東の先にあるのは満月ですね。

蕪村が見たのは満月だったのです。


では、新月、上弦、満月、下弦の4つの月の状態が東・南・西に見える時刻(朝・正午・夕・真夜中)を下の表に入れてみましょう。正午は、明らかに太陽が明るくて見えませんが、考えやすくなると思うのでひとまず入れてみてください。

例として、「菜の花や」の例、「満月は夕方に東に見える」を入れておきます。

表が完成したら続きを読むで確認してみましょう。

こんなふうになります。

この表を縦・横・斜めにじっくり鑑賞すると、いろいろなことに気がつくと思います。
新月は朝に東→昼に南→夕方に西と、ちょうど太陽と同じ動きですね。そりゃ見えないわなと。
満月は夕方に東→真夜中に南→朝に西と、ちょうど逆に動いています。だから「月は東に日は西に」が満月なわけですね。
下弦は真夜中に東の空に出て、朝方に南中し、お昼に西に沈みます満月から新月までの半月、程度の違いはあれど、太陽が出てからも月が見える時間帯があり、そのような月を明けて有る月、すなわち「有明の月」と言われています。

ちなみに、百人一首で「有明(の月)」は次の4首に登場します。

21 今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな   素性法師
30 有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし  壬生忠岑
31 朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪      坂上是則
81 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる   後徳大寺左大臣

注目したいのは21番。現代語訳すると「すぐ来るって言ってたから9月の夜長にずっと待ってたのに、有明の月が出ちまったぜ、まったくもう」って感じです。「まったくもう」は詠嘆の終助詞「かな」に相当する部分です。

古典の世界では「有明の月」とは陰暦の二十日以後の月を指しています。ざっくり下弦から新月までの時期と考えてよいでしょう。
そんな「有明の月」が東の空に出てくるのは下弦で真夜中、新月で朝です。つまり「有明の月」が出てきたということは、真夜中(午前0時)を過ぎてしまったということで、相当待ったんだな~ということがわかります。

こんなふうに、天体の知識を使って古典を読み解くっていうのも、意外性があって面白いですね。

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