1161 鯨の話

 理科準備室の本棚を整理していたら、古そうな本が何冊か出てきました。そのうちの一冊です。

小川鼎三「鯨の話」

中央公論社。昭和25年。初版本ですね。

裏表紙。ボコッと凹んでいます。

 著者の小川鼎三先生は東大(帝大時代から)医学部の名誉教授で、東大退官後に順天堂大学の教授になっています。で、専門は脳比較解剖学、医史学。
 そうなると、「鯨の話」はちょっと専門から外れる感じがします。実際に前書きで本業の解剖学や脳の研究とは直接のつながりが少ないといっています。
 しかし、この本には立派なクジラの分類が書かれています。

 では、なぜ「鯨の話」を書けるほどにいたったのでしょうか。最初はクジラの研究を余技でやっていたし、医学者がクジラの研究をするのは邪道だというのも受け入れていました。が、のちにクジラの研究が人間の医学の進歩にかなり大きい役目をもつと信じ、本業の中に取り込んでしまったのです。

 魚市場から届けられたイルカの種類を「マイルカ」と言われ、後日また魚市場から届けられた前とは特徴の違うイルカも「マイルカ」と言われ、どちらが本当のマイルカなのか、クジラの分類に悩む…というところから、今風に言えば「沼っていく」様子が描かれています。

 そう考えると、この本は戦後間もないころに繰り広げられたクジラオタのトークとも言えます(絶賛)。令和の今でも十分に読む価値ありです!

 と思ったら、2016年に文庫で出版されたのね。さすがに今は絶版になってるけど。
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神谷敏郎:日本の鯨類の比較解剖学の基礎を築いた小川鼎三先生,哺乳類科学40(1):103-114,2000

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