やっば。
この前の理科教育の学習会で、硫黄と鉄の実験は昭和44年改訂の学習指導要領、つまり現代化カリキュラムの時代に登場したと報告したのですが、もっと前からあることが分かりました。
水の合成に隠れて
まさかの昭和33年告示の指導要領下の昭和41年(1966年)版、大日本図書の教科書「新版 中学校理科 1」に載っていたのを見つけました!
大日本図書の古い教科書はここでいつの時代かわかるので、大変助かります…。他社もやらないかな…。
いや、鉄とイオウなんて指導要領になかっただろ!と思ったら、水の合成のところで、水以外の化合の例として出ていました。フェイントが過ぎる~。
〔第1学年〕第1分野
キ 水の成分
(ア) 水の分解と合成
a 水を電気分解して,その成分を調べる。
b 酸素と水素とで水が合成されることから化合の概念を理解し,また,化学変化と物理変化の違いを知る。
しかも本家の水の電気分解の前にやってるの。まじっスカラー波。

昭和18年の教科書に?!
さらに、このブログをご覧になっている先生から、板倉聖宣「理科教育史資料5理科教材史Ⅱ」とうほう、を見るといいよという情報をいただきました。ありがとうございます!こういう情報は大変貴重で、ブログをやっててよかったと思うときです。
ということで早速大学の図書館から借りてきました、「理科教育史資料5」百科事典のように分厚いです。いや、昭和の頃につくられた理科教育の分厚い本って、ほぼ外れはないですね。すごく勉強になります。
ちなみに、こういう本を見ると「今はこんな本がとても作れない」という声をよく聴きますし、私もそう思います。それはネットの普及だとか出版不況だとかもあるかもしれませんが、もしかしたらいわゆる「ゆとり」の影響も大きいのではないかと思っています。学習内容が削られ、教科書から消えたことで、その部分に関する指導法や教材などは先生たちの間では情報共有されなくなり、あまつさえ、その部分の指導に詳しい先生が定年で退職してしまっう。その結果、教師集団の中で削られた学習内容に関する重厚なノウハウが途絶えてしまったわけです。そのあとにあわてて指導要領を改訂して学習内容を復活させたところで、後の祭り。もう巨人はいないので肩に乗れなくなった小人は、ゆとり世代で自分が学ばなかった内容について、一から教材や指導法を考えなくてはならなくなりました。そりゃ、本質的なところは昔に比べれば見劣りする罠。ICTとかで一見見栄えはよくしてごまかしてあるからシロートは気づかないかもしれないけど。
理科教育史資料の第5巻、理科教材史2は第1分野の教材についてで、鉄と硫黄の実験についても載っています。
1943年、つまり昭和18年の中等学校教科書(株)著「物象(中学校用)2」に「硫黄と鉄を混ぜたものの加熱」などが載っていることが書かれています。


ということは、戦前、あるいは明治や大正の教科書もチェックしてみる必要がありそうです。
とりあえず今回はここまでということで。
ニュートンの「光学」にも?!
さらに、鉄と硫黄の実験はニュートンの「光学」にも載っているという話まで聞きました。
「光学」というから物理系や数学の話だろうというイメージがあったので、まさか鉄と硫黄の反応のような化学変化が載っているというのはつゆにも思いませんでした。ということで、さっそくアイザク ニュートン 堀信夫・田中一郎訳「光学」槇書店 1980 を入手して探してみたわけだ。
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そしたらありましたよ。ほんとに。
そして粗大な硫黄本体でさえも、粉末にされそれと等しい重さの鉄のやすり屑および少量の水と混ぜて糊状煉物にされると、鉄に作用して、五六時間で手を触れられない程熱くなり、炎を発する。
(アイザク ニュートン 堀信夫・田中一郎訳「光学」槇書店 1980
第3篇 第Ⅰ章 疑問31 252ページ)
第1篇、第2篇は、まっとうな光学、すなわち物理学や数学の話だったのですが、第3篇で異変が起こります。第Ⅰ章だけなのですが(第2章は挫折して亡くなったらしい)、途中から「疑問」が31個ほど述べられていて、最初は光についての「疑問」だったのが、熱というちょっと光ではない話が出てきて、さらに燃焼、硫黄質、音、視神経、宇宙…と自然科学全般からワードが飛び出し、しまいには自然哲学がどーのこーのという神学的な話になって終わるのです。ニュートンの物質観、神学観についてはさておき、18世紀初頭の段階では鉄と硫黄が熱を出す反応を起こすことは知られていたことになります。
そしたら原書を調べたくなるじゃないですか。これですよ。

And even the gross Body of Sulpher powder’d, and with an equal weight of Iron Filings and a little Water made into Paste, acts upon the Iron, and in five or six hours grows too hot to be touch’d, and emits a Flame.
なんかfのように見えて、よく見ると縦棒の右側の横棒が消えている文字はsではないかと推定。
別の物質に代わるとか硫化鉄がどうのこうのとかの実験の話ではありませんが、現象としてはこのころすでに知られていた、ということなのですね。
こんど訂正しなくちゃ。



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