2080 オルトトリジン

オルトトリジン o-tolidine 3,3′-ジメチルベンジジン 4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルビフェニル
「オルトトルイジン」は別物質。
C14H16N2 = 212.30  CAS.No 119-93-7

固体で水には難溶、エーテル、アルコールに可溶。
色は白色 – 黄色(東京化成工業のSDS)、無色結晶又は赤色~茶色の薄片(職場の安全サイト)、ライト・ブラウン(chemicalbook)、薄茶(Sigma-AldrichのSDS)と表記はバラバラですが、大体のニュアンスは伝わるかと思います。

アミノ基があることから推察できると思いますが、塩基性です。
そのため、水には難溶でも、酸性の水溶液には溶けます。なので、オルトトリジンを5.3~6%(会社による)の塩酸に溶かした0.1%オルトトリジン(塩酸塩)溶液が出回っています。

残留塩素の測定法としてオルトトリジン法がよくつかわれていました。
子どもの頃、学校のプールで先生が塩素の濃度をこれで調べていました。

オルトトリジン溶液は無色透明ではありますが、

調べたい水に数滴たらすと、黄色の濃さで残留塩素の濃度がわかります。
左から、精製水、理科室の水道水、水飲み場の水道水、そして塩素系漂白剤を薄めた水です。
漂白剤は濃すぎてもはやオレンジ色ですが、水道水は薄い緑色って感じかな。というか理科室の水、塩素足りなくないか。

この色が比色板という濃度と色の対応表の中から、最も近い色を選んで濃度を判定するという仕組みですが、この比色板がありません…。

 もう少し丁寧にやってみましょう。塩素系漂白剤

があって、標準使用量にそって、水5Lに対し漂白剤12mLの濃度をとり、そこから10倍ずつ希釈したものにオルトトリジン溶液を加えたところ…

一番右はオレンジ色、その隣は黄色、3本目はわずかに黄色、4本目はもう色が確認できないかな。
さすがに10倍間隔では違いが大きすぎて、もう少し細かくしていったほうがいいかな。

ではあらためて。
漂白用の、水2Lに対し漂白剤20mL(つまり1%)をスタートに、2倍ずつ希釈していきました。
今度は左側の方が濃く、右になるにつれ薄まっていきます。きれいですね。


 しかーし、現在、オルトトリジンは残留塩素の検査方法としては削除されています。
 というのも、オルトトリジンは発がん性物質であり、アメリカでは残留塩素の測定方法としては1980年に削除されているのです。とはいえ、日本では、操作が簡単かつ安価なことに加え、1%以上は規制されるのに対し、検査で使っている濃度は0.1%と低く、さらに試料となる水で数十倍に薄められますから、「そんな物質で大丈夫か」という心配もありながらも「大丈夫だ、問題ない」と使われ続けていました。(むしろ塩酸のほうが危ないよね)
でもさすがにどうなのよ、ということで代わりに吸光光度法も加えたし、他の方法でやってね…と平成12年12月26日、厚生省生活衛生局水道環境部長の名前でオルトトリジン法を削除する通達が出されて今日に至ります。

 ところがどっこい、残留塩素測定キットの中には物質名は書いていないものの、黄色の比色といい、塩酸(約6%)といい、どうみてもオルトトリジンだろうな、と思われる商品もあります。いや、公式な測定法として採用されてないだけで、測定は可能だし、所持や使用を法律で禁止しているわけではないからいいんだけどね。発がん性などのリスクを書いていないけど、1%以下だからセーフなのかな(未確認)。

 ま、気になるところと言えば、使った後の廃棄方法くらいかな。0.1%オルトトリジン溶液のSDSをみると、基本は産業廃棄物処理業者に委託、参考として、次のようなものがあるけど

 中和法 :徐々に石灰乳などの攪拌溶液に加え中和させた後、多量の水で希釈して処理する(関東化学
 焼却法:おがくず、ウエス等に混合し、アフターバーナー及びスクラバー付き焼却炉の火室で、できるだけ高温(ダイオキシン発生抑制のため850℃以上)で焼却する。(昭和化学

きっとちゃんと守って廃棄処分をしてるんじゃないかと。まさかそのまま下水に流してるやつ、いねぇよなぁ(圧)。
 もっともSDSもSDSで、危険なものを安全と記述してしまうと、それを読んで危険な目にあったりすると責任を問われてしまうので、それを避けるために過剰に安全側に傾いてしまうこともあるあるです。もちろん、そうせざるを得ない立場なのもよくわかりますのですが、あまりめんどくさいことを言うと、「そこまでやらんでいいだろ」と中和もせずにそのまま下水に流すなどいい加減な方法に走ってしまうのもまたあるあるだったりします。

Check it now!

残留塩素測定–オルトトリジン法に関して「機能水とクスリ箱」
簡易有効塩素測定法の変遷が歴史好きな私に刺さりました…。

永瀬ほか :遊泳プール永中の遊離残留塩素測定法の基礎的検討,学校保健研究 42;283-291(2000)
同じく。引用論文をチェックだ!

飲料水・プール水等の水質検査法の改正について オルトトリジン法の削除|小牧市学校薬剤師会
平成ヒトケタで時代が止まっていますが、だからこそ当時の様子がありありと伝わってきます。

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