0269 出題及び採点に誤りがあった阪大の問題を解いてみる(後編)

いよいよ問題の問4、問5です。

A-Ⅲ. 2 つ目の実験として,音叉を固定壁の近くに置き,壁からの反射音を利用してみよう。図3のように,壁面に垂直にとったy軸に沿って音叉を移動 させる。また,壁から遠く離れたy軸上の位置にマイクロフオンを固定する。 マイクロフォンは,音叉から直接達する音と壁からの反射音を観測する。こ の実験では,音叉は十分小さく,点音源と見なせる。


                図3

問4 y軸の正の方向に音叉の位置を少しずつ変えながらマイクロフォンで 観測すると,音の強さが周期的に変動した。マイクロフォンで観測された音が強くなるときの,音叉と壁の間の距離dと音の波長λとの関係を 表せ。必要であれば,自然数としてn (n=1,2,3…)を用いてよい。

問5 25 cm≦d≦100 cmの範囲で2度の実験を行ったところ,強い音が, 1度目はd= 50cmと81 cmで,2度目はd = 49 cmと83 cmのそれぞれ2 か所で観測された。これらの実験データから,音速を有効数字2 桁で推定せよ。

問4
まず、「マイクロフォンは,音叉から直接達する音と壁からの反射音を観測する。」というところの解説。「音叉から直接達する音」とは下の図の赤で描いた①のこと。「壁からの反射音」とは青で描かれた②のこと。
ついでに、この図を見ると、②は①より音叉と壁を往復した分だけ遠回りしているのがわかるだろうか。その距離は音叉-壁の距離dの2倍、2dとなる。

音叉の振動でつくる粗密の位置関係は問1であったようにこんな感じです。つまり、①の波が密なら②の波も密、2の波が疎なら②の波も疎と、同じリズム(変位とか位相)で、密粗密疎密疎…と、粗密波を四方八方に(実際にこの問題で必要なのは①と②の方向だけですが)送り出していきます。

で、「音が強くなるとき」とはどんなときか。マイクロフォンは①と②の音を両方拾うので、①の密と②の密が、①の疎と②の疎も同時になる、つまりリズム(変位と位相)が合えば、疎密の差が1つの音だけのときより激しくなり大きな音となる。逆に、①の密と②の疎が、①の疎と②の密が重なれば、粗密で打ち消し合って、音は1つの音だけのときより小さくなってしまう。

——ここから出題ミスの原因の考察に入ります。単純に解き方だけを知りたい人は、「ここから問4の解説に戻ります」まで飛ばしてください———-

で、問題は、というか出題ミスの核心と考えられているところは、ここからです。
②の波が「固定壁」で反射するとき、波(疎密)はどうなるのか、というところです。

高校物理のこの手の話のときは「固定端反射」とか「自由端反射」とか言われて議論がされており、実際、この問題の議論についても、その論点がポイントになっています。
・壁による反射は固定端反射になるので位相が反転すると(山だった部分が谷に、谷だった部分が山になる)思い込んでいた。
・でもそれは変位の位相の話で、今回の密度の位相の話は、また別なのだというところを見落としていた。
・出題者にとって不幸なことに、この場合密度の位相はずれない。つまり「密」が入射するば「密」が反射してくる…というのが正しかった。
というのが今回の出題ミスの原因ではないかと推定されています。

縦波を壁に反射させた実験の動画を作ってみました。「密」は反射しても「密」ですね。
壁で反射する縦波

密度の位相はずれない。つまり「密」が入射するば「密」が反射してくる、というのは、音波、つまり空気の粗密波の例で考えてみればよくわかります。
壁に当たったからと言って密、つまり空気の濃い部分が疎、つまり空気の薄い部分になったら、うすくなった分の空気はどこ行ったんだ!ってことになりますよね。壁自体は固定されていて微動だにしないわけですし。

——ここから問4の解説に戻ります—————————————-

 下の図は①②の音を破線にしましたが、線のある部分を「密」、線が途切れている部分を「疎」と考えてください。「波」の表現よりわかりやすいかもしれません。音叉より右側では①と②で線のある部分と途切れている部分がそろっていますよね。これだとマイクロフォンに大きな音が入ります。

 これが成り立つためには、②が遠回りする2dの長さが、波長の整数倍であることが必要です。遠回りしたことによって①と②の疎密の位置がずれないければ、音叉より右側(y軸の正の側)で①と②の音の疎密のリズムが一致します。
 これを式で表すと 2d=nλとなります。これは大阪大が追加で正解にした2つの正解のうちのひとつです。

 ちなみにもう一つの新たに加わった正解は2d=(n-1)λというもの。これはd=0を考慮したものです。自然数nは0を含まないので波長λも正である以上、nλ>0は譲れない。そうするとd=0なら2dも当然0となり、2d=nλが成り立たなくなってしまうため対応。2d=(n-1)λなら、d=0ならn=1でOKです。
 もっとも、d=0って壁に音叉があるということになりますが、音叉は点音源とみなすとはいえ、アリなのか。
 ここは意見が別れそうなところですが、問題の本質とはあまり関係がないところでもあるのでよしとしましょう。したがって、2d=nλも2d=(n-1)λも正解というのは首肯できます。

——ここから出題ミスに関する雑談に入ります。———-

ただし 2d=(n-1/2)λ 、テメーはダメだ と思うのですがいかがでしょう。

 これ、当初の正解で、訂正後も正解のままですが、2d=(n-1/2)λということは、「密」に「疎」が当たってしまいます。先ほどの出題ミスの原因の考察が正しければ、間違った考えに基いた「正解」なので、再検討する必要があります。
 再検討の結果は、ここまで考察したように「2d=(n-1/2)λ は不正解」となるのではないでしょうか。というか、これが正解になる妥当な解釈を構築できないのではないかと思います。

 ただこれは、一部で指摘されているように、当初の正解を間違いとして減点してしまうと、すでに合格して入学した学生の中に、追加合格ならぬ「追加不合格」が出てしまうための「事情判決」と考えられます。

 さもないと、実は教員採用試験で合格ラインに達していなかったのに教育委員会ぐるみの不正による加点によって合格させておきながら、不正が明るみになったので、不正合格とはいえ、すでに児童生徒の前に立っていた先生をクビにした(採用を取り消した)大分県教育委員会なみの阿鼻叫喚の世界が繰り広げられること、請け合いです。

 そういえば、平成18年度公害防止管理者等国家試験で採点処理に誤りがあって、合格発表後に300人の追加合格を出したのはいいんだけど、同時に176人を「追加不合格」にして合格証書を回収したらしい…。詳細は経済産業省または環境省

——出題ミスに関する雑談はここまで———-

問5 は、大阪大の公表資料によると、 問題の数値設定に不整合があるといっています。
ごく一般的な解き方なら
λ=2(d2-d1)とかやって、1回目のλ=0.62、2回目のλ=0.68で平均はλ=0.65mとして
V=fλ=325m 3.2×10m/s と当初想定した回答と同じ答えを出すんじゃないかと思うけど、
強いて違うところをあげるとすれば、強い音が観測されるのが50cm付近と80cmちょっとのところの2か所にならないってとこかナ──

 本来、試験の前にこのような出題ミスがないようにチェックしているはずです。ですが、誤字脱字や体裁の部分は専門でない事務方でもチェックできますが、今回のような専門的なレベルのミスは専門の先生でないと気づくことはできません。おそらくは出題者を含む数人の先生が見ただけではないでしょうか。そこで思い込み(勘違い)に気がつかないと、今回のような事故が起こるわけです。
 それでは多くの物理の先生にチェックしてもらえ、ということになるかもしれませんが、試験問題という秘匿性の高い業務ゆえ、やたら何人もの先生にチェックをお願いすると、今度は「問題が漏れる」という別のリスクが高まってきます。
 今回に至っては試験後に予備校などから指摘があった時でさえ、出題者グループの先生方は思い込み(勘違い)に気がつかなったわけですから、試験前にそのような思い込み(勘違い)によるミスを100%摘出することは、ムリなんじゃないかなと思っています。

 そういえば高校生のとき、W大学入試の現代文では、ある4択問題について、高校の先生は「答えはア」だといい、予備校の先生は「イ」だといい、赤本には「正解:ウ」と書かれ、別の問題集では「エ」となるような問題ばっかりで、「まだ、くじの方が公平でいい」と文系の友人が嘆いていましたが、今は改善されたのでしょうか。

Check it out!
石川 昌司「音波の指導で気になっていること」.日本物理教育学会北海道支部雑誌「物理教育研究」Vol32 (2004.7)