さて、前回は学習指導要領の変遷や理科教育の成果と課題と、背景的な部分を見ていきましたが、今回は「だからこうしていく」という部分を見ていきましょう。
授業をするにあたって不安なこと
たとえば、今、教科書を与えられて、「明日、中学校で理科の授業をしてください。範囲は教科書のここからここまでのページです」と言われても、「今の自分にできるかな(できない)」と不安になる点は多いと思います。「できるかな(できない)」と不安に思う具体的なポイントを挙げてみましょう。複数挙げても構いません。
いろいろなパターンがありましたのでカテゴライズしてみましょう。
自分自身の知識が不足してないか
普通の中学生や保護者、他教科の先生から見たら「大学の理学部の学生なんだから中学生の理科ぐらい教えられるでしょ」と思われてそうですよね。
ちなみに、10年くらい前のIT系の転職サイトのバナー広告で『「エンジニアなんだからFAXも直せるでしょ」と言われる』というコピーがありました…。他にもいろいろな「ちくしょう、転職だ!」と思いたくなるシチュエーションで笑わせてくれてた広告でしたが、「3年間は我慢しよう 4年目からはあきらめよう」というコピーが疲れていた自分に無茶無茶刺さった記憶があります…。
ところが本当は、自分の知っていることが本当に正しいのか、間違ったことを教えてしまわないか、自分の知識に自信がない。考えてみたら中学校の理科は物理・化学・生物・地学とありますから、例えば生物学科の方がおそらく高校でとらなかった物理や地学を教えることになったら身構えてしまうことは十分にあるあるですよね。
ここはもう、授業の前に学習する内容を、周辺領域まで含めて徹底的に知り尽くして不安を自信にかえるのがいちばんの方法です。
ちなみに私は、大学院M2で私立校の非常勤講師をしていたとき、中3生物だときいてなめてかかっていたら、進学校だったので高校の生物ⅠBの教科書を渡されました。高校では生物は理科Ⅰだけで選択の生物はとっていなかったので、知らない内容も多く、大変慌てました。前日に、下手すれば授業の直前まで必死に覚えていましたが、生徒の前では「そんなこと10年前から知ってましたが?」みたいな顔して授業してました…。
質問に答えられるか
知識不足への不安の一形態で、質問に答えられるか不安、というのがあります。どんな質問が飛んでくるか、という不安でもあります。ただ、その中学生がわざわざ聞いてくる質問って、主に授業内容の未消化による内容が多く、それこそ子供電話相談室にかかってくるような質問は稀かと思います。
また、パソコンを持ち込んでいればその場でググるという手もあります。
先生、これは何という植物ですか? も読んでみよう。
効果的な教え方がわからない
さすがに教科書を棒読みするのではだめだとはわかりますが、ではどういう形式で授業をすればいいのか、というお悩みです。
導入⇒展開⇒まとめ(終末)という基本的な授業の流れや、課題の設定、発問、そして生徒を「のせる」方法などの指導技術など、論点はいくつもあります。
これは、これからの理科教育法で見ていきたいところの一つですし、実際の授業をいくつか見てみるとなんとなく見えてくるところもあるでしょう。
学習内容、特に教科書以外の部分
どこまで教えればいいのか、特に教科書以外の部分は触れない方がいいのか、という疑問。
ベースは指導要領ですが、さすがにあれだけ見ても具体的な授業には落とし込みにくいですよね。そこで教科書があるわけです。教科書は同じ本を北海道から沖縄までたくさんの学校でたくさんの生徒が使うので汎用性が高いのですが、それは同時に無難におさまっているともいえるわけで、決して目の前の個性のある生徒にとって個別最適化されているとは限らないわけです。
ちなみに教科書会社から見ると、専門家や現場の先生や香ばしい方々などからのツッコミも受けることがあり、また営業上の観点から、関係者を敵に回したり、賛否両論が生じるような尖ったものを作ったりすることはできず、どうしても無難にならざるを得ません。
そのため、目の前の生徒に合うように教科書をどうアレンジするか、という作業が必要になってきます。教科書をよりかみ砕いて説明することもあるでしょうし、逆に教科書にない発展的な内容にチャレンジすることだってあるでしょう。このあたりは慣れないうちは生徒と一緒に右往左往するかもしれませんが、生徒にとってもそれはムダではないと信じたい…。
時間配分
0354 教育実習指導:最初の授業でありがちな風景の傾向と対策 をどうぞ。
板書
板書がうまくできるかどうか不安、という方も。
板書のポイントはいくつかあります。①字の大きさ ②筆圧 ③レイアウト ④色チョークの利用
なんてところでしょうか。これも細かいことをいうときりがありませんが、一つは指導案作成と同時に黒板をどう使うか、板書計画を立てること、もう一つは生徒の座席(教室の後方)から自分の板書がどんな感じがチェックするということがあげられます。
とはいえ、最近はICT化に伴い、パワポでスライドを作る人も増えてきて、そもそも板書自体が減りつつあります。
対生徒
もしかして一番人気がこれだったかな。生徒とコミュニケーションが取れるか、教師の指示を聞いてくれるか、教師としての振る舞いがわからない、距離感の掴み方が難しい、生徒に寝られたりしないか…。
このあたりは生徒にもよるし、学校環境にもよるので一概に答えは見つけにくいけれども、他の先生と生徒情報を交換しておくことは大事なことです。他の先生から生徒の背景がきければ何かのヒントになることもありますし、逆に「あの生徒がこうでしたよ」と伝えたことが他の先生にとって重要な情報になることもあります。
あと一応言っておくと、教師にとって生徒との人間関係はいちばん簡単なレベル1です。レベル2は生徒でないということで消去法で想像つくかもしれませんが●●●で、最も怖いレベル3は、まさかの●●●です。(怖いので伏字にします)
現行の学習指導要領
現行の学習指導要領の概要
現行の学習指導要領(平成29年告示)についてみていきました。全教科共通の部分はきっと教職課程の他科目でも学習するでしょうから、理科教育法の授業では軽くしか扱いませんでしたが、前回学習した現行の学習指導要領からどう変わったのかをおさえておききましょう。
ちなみに、平成31年=令和元年、平成32年=令和2年 … です。
学習指導要領の全体像については文部科学省からたくさん出ていますからそちらをご覧ください。
平成29・30年改訂学習指導要領のくわしい内容
平成29年度 小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文部科学省説明資料 1/2 2/2
※今回の2aの資料はこの資料(1/2)の抜粋です。
平成30年度高等学校新教育課程説明会(中央説明会)における文部科学省説明資料 1/3 2/3 3/3
理科についてはこちら。
中学校学習指導要領 理科の改訂のポイント
※今回の2bの資料はこの資料そのままです。 教科調査官の先生による解説動画もあります。
藤枝 秀樹:新学習指導要領における理科教育を考える,生物教育,59(2) ,97-98,2018
平成30年改訂の高等学校学習指導要領に関するQ&A(理科に関すること)
理科教育の目的・目標
理科教育の目的・目標については根っこは一緒なのでしょうが、細かいところを挙げていくと人によって、組織によって違うところが出てくるのは当然のことです。例えば学習指導要領の目標は学校で理科の授業をするにあたっての大まかな目標・目的となりますが、例えば塾や予備校によっては、テストに出るような問題が解けるようになる、点数が取れるようになるというのが現実的かもしれませんし、博物館のサイエンスショーなんかは、来た人に楽しんでいただくというところにウエイトがおかれている場合もあるでしょう。もちろんそうでないところもたくさんあるでしょうし、学校でなければそれが悪いとは言うつもりもありませんが、それぞれで違いがある。だけど「学校で理科教育を行う」場合は、学習指導要領の目標を念頭におく必要があり、そこから大幅に外れることはできない、というような話は、組織にいる以上、基本的にその組織の方針とかルールを守る必要がある、ということだから学校に限った話ではないですよね。
なので、指導要領上の目標をおさえておきたい。できれば解説も読んでおきたいですね。
中学校学習指導要領 第2章 第4節 理科
第1 目 標
自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)自然の事物・現象についての理解を深め,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2)観察,実験などを行い,科学的に探究する力を養う。
(3)自然の事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする態度を養う。
ちなみに(1)(2)(3)という形式は今回が初です。過去の指導要領ではどんな理科の目標だったかチェックしておくのも面白いかと思います。
さて、そのような組織人としてその組織の目標達成にに貢献することが自分に求められているということをおさえたうえで、自分にとっての理科教育の目標が何であるか、それが学校の教師に求められる目的・目標とのギャップがあればそれは受忍限度の範囲内か、渡り合っていけそうか、そこはSTL(Sustainable Teacher Life ; 持続可能な教師生活*) のために、学校の教師になる前に考えておきたいところです。これは就職活動の一環で企業研究して、その会社が自分と合うか合わないかを考えるのと同じです。それを端折ると、かえって採用され就職したことが地獄の一丁目となってしまうかもしれません。
余談ですが、ある先生は採用の時に誓約書に署名しながら「これで悪魔に魂を売ったな」と感じたそうです。
*STLは別に覚えなくていいです。教採にも出ません。私の造語ですから。だったらSDGsとかESDとかをおさえておきましょう。
教育(一般)の目的・目標については、以下の条文をチェックしておきましょう。
教育基本法1条(教育の目的)
教育基本法2条(教育の目標)
教育基本法5条2項(義務教育の目的)
学校教育法21条(普通教育の目標)


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