第2回で「理科を教えるにあたって、どのような点が不安ですか。」という皆さんの回答に丁寧にコメントしていたら、半分以上すぎてしまって、課題のところが最初のところしか進みませんでしたね。
課題を意識しよう
前回皆さんに出したこちらの問題、なかなか難しかったようです。
だってたしかに考察の内容は結果から言えることなので、あとは「3匹では足りない、データをもっと増やせ」のような方法にケチをつけるしかなさそうですしね。そうなると「正解」から離れていくという鬼畜仕様です。
この問題は、平成27年度の全国学力調査の中学校理科8(3) をもとに、意地悪く改変したものです。元の問題では、方法の前にちゃんと「ほかの種類の魚でも,えらぶたの開閉回数は,水温が高くなると増えるのだろうか。」という課題が提示されたうえで「魚の種類によって…」の部分を直せという、だいぶ解きやすい問題になっていましたが、それでも正答率は48.1%と半数に届かず、報告書には「課題がある」と指摘されています。
そんな意地悪な問題ではありますが、「ちょっと待って、課題は?」とすぐに突っ込める理科の先生になってほしいなと思っています。課題あっての観察、実験や考察なのですから。
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で、同じ平成27年度の全国学力調査の中学校理科7(2)ではキウイフルーツがゼリーを溶かす現象をもとに、課題を書く問題がありました。
ということで27年度の全国学力調査は「課題」について、一般の問題集や入試問題では見られない、なかなか攻めた問題で、「課題を意識しろ!」という文科省の強いメッセージを感じましたが、令和7年の現在まで入試問題や市販の問題集などに課題を前面に出した問題が出されることは、ほぼなかったと言っていいでしょう。採点が面倒ということもでかいですし、課題としての形式を整えていれば、ほぼ何を書いても正解になってしまいそうで(微妙に感じるものもバツにできない)、点数をつけるような問題には向かない感じがします。
エネルギーを柱とする領域
理科、それも思考を積み重ねるような内容がどちらかというと苦手で、暗記でカバーしてきた人にとっては、そもそも覚える内容が少ない物理は、見ただけででシャッターを閉じてしまうほど苦手だったりします。一方で、やたらに深く納得し「美しい…」などと言い出す生徒も少数ながら存在します。
この差はいったい何なのか?
とりあえず今の自分の中では「世界観」という言葉を使っています。「電流の世界観」「力と運動の世界観」みたいなものが正しく構築できていれば「物理は美しい…」などと言い出せそうです。
生徒にこのような世界観をもたせるためには、授業でやったように、中学生にわかるように説明する(定義づける)ことが難しい「エネルギー」(「力」「電流」でやっても)について、そもそもエネルギー(「力」「電流」)とは何かということをあやふやにしたまま、どのようにイメージづくり、かっこよく言うと概念形成をしていくかにかかっています。高校ほど数式というツールが使えないので、数式に逃げず、数式でごまかさず、丁寧にイメージを作っていくしかありません。
ただ、その域に達するには、どっぷりこの世界につかる必要があるので、結局見ただけででシャッターを閉じてしまうような人には、まずどうやって沼まで連れていくか、ということろが問題になりますが。
それでもとにかく概念形成に成功すれば「簡単じゃん!覚えることも少ないし」となりますし、失敗すると「なに?物理わけわかんない!」ということになりますが、その差は案外わかっている人には当たり前すぎるような些細なことにきづいているかどうかで、そこさえ気がつけば一気に視界が開けてくるミラクルもあるのが物理だ、ということは女子中学生の物理あるあるでも話ししましたので、リンク先をご覧ください。
ところで「量的・関係的な見方」をするために数式が登場することが多いですが、数式が示す概念を十分に咀嚼しないまま数学的処理を重ねていくと、計算問題はなぜかできるけど本質を理解していないという地に足がつかない状態になることがあります。これが本当に怖いのは、「分からない」という自覚症状が時間差で起きるので、気が付いたときにはどこで躓いたのかを見つけるのが難しい、つまりわからない状態からの脱却できる可能性が低いというところです。
残念ながら、すべての物理を苦手とする生徒の「一気にわかるスイッチ」を見つけられるわけではないのです。
「つり合いの2力」と「作用・反作用の2力」って、何が違うの?
1130 つり合いの2力と作用・反作用 で語りつくしましたが、物理がちょっと苦手な方は、
0278 【力の働き6】 2力のつり合う条件 と
1126 【運動の規則性3】運動の速さと向き(3) 作用・反作用の法則 を先に見ておこう。
電流は+極から-極に流れるのに、電流の正体である電子は-極から+極に流れるってどういうこと?
さらにマニアックな話題
その他、中学理科「エネルギー」領域の教科書レベルが教えられそうだ、という方は次のような話題でさらにステップアップを目指しましょう。
実像と虚像 ~そこに光はあるのかい?~
凸レンズでできる像 レンズの公式編
「重さ」と「質量」
アラゴの円盤
液体の密度=固体の密度 の場合、どうなる?
ヘリウムの風船と慣性の法則(1)
その他の話題
言語化
結局、概念というか暗黙知というか、頭の中にとどまっているものを言語化(ここでいう「言語」は日本語に限らず、数式や図解でも構わない)できることが大切なのですね。
課題の設定にしろ、考察にしろ、振り返りにしろそういうところがあります。
ただもちろん、言語化の前提として、その中身を正確に理解していることがあげられます。結局、自分が理解していないことは他人に教えられないのです。
これは私の考えている未完成の理論なのですが、お笑いでいういわゆる「ボケとツッコミ」を理科での思考に応用できないかということを考えています。
すなわち「ボケ」とは「対象となる事物・現象への違和感」であり、「ツッコミ」とはその違和感を言語化(指摘)することではないかと。そしてその指摘に、うすうす気づいていたか、全く思いもよらなかった(その発想はなかった)かはともかく、同意したから笑うのではないかと。
したがって、課題の設定というのは特定の自然の事物・現象に対し、普通ならAのはずだけど、Bになっているという違和感(ボケ)を見つけて、それを「なんでやねん」と指摘することなんじゃないかと考えています。課題を見つけるスキルを、お笑いにおける「つっこみ」の技法から借用できないかなぁと。
色覚の話
色覚の話題に興味を持った方も何名かいらっしゃいました。せっかくなので紹介しておきます。
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