0846 CBTで変わる中学校理科の出題  何ができるか、何に留意すべきか

9月24,25日と日本理科教育学会があり、課題研究で発表してきました。
今年もコロナの影響でオンライン発表です。

「課題研究」という複数の研究機関に所属する者が,1つのテーマについて議論する研究発表形式です。
課題研究のテーマはCBT,Computer Based Testing
その中での私の発表が
課題研究1B04 “CBTで変わる中学校理科の出題  何ができるか、何に留意すべきか

で、その後に、「理科教育の学習会」という理科の先生が参加するオンラインでの学習会があるのですが、そこで同じ話で話題提供をしてきました。

CBTで変わる中学校理科の出題 何ができるか、何に留意すべきか

CBTの出現によって、中学校理科では、それまでPBTで行われていた出題がどのように変わるのか、何ができるか、何に留意すべきかを具体的な問題例を出しながら示しました。

動画の活用

 特に理科では、具体的な出題の前に、観察した事象や、科学的な探究があり、それをもとに出題がなされていくパターンが多くあります。出題の場面となる事象や科学的な探究を説明するにあたって、PBTでは文章や図を用いて説明しますが、丁寧に説明しないと、生徒が状況を理解できない可能性があります。一方で丁寧に説明をすると、文章が長くなり、特に読解力が弱い生徒に大きな負荷がかかってしまいます。
 そこで、CBTですよ。動画を視聴することで出題の場面を提示できます。特に、身近な現象を想起させたり、生徒が体験したことのない新場面などを示すのには効果的です。

 例えば、雷が光ってから音が鳴るまでに時間差があるということについては、経験のある生徒も多いでしょう。それを実際の動画で示すことで事象への関心を高めることができそうです。

他にも、直接、動きを見せられたり

実技調査でしか行えなかった、観察実験の技能を測ることも可能になります。

 た・だ・し、出題にあった動画をうまく入手もしくは作成できるかという問題があります。特に気象・天体のような珍しい現象は撮影のチャンス自体が少なく、動画やカラー写真の作成(準備)が大変になりそう(作問だけでは手に負えなさそう。)ですね。
 さらに、たとえば上の動画では、雷が光った現象と音が鳴った現象のほかにも、建物の映像や、雷鳴とは別の警報みたいな音やギーギーいう音(すみません撮影時に座っていた椅子の音です)がありました。こういう音なんかも取り除かないといけませんね。

色や音の活用


 PBTでは色をを示そうとするとカラー印刷となり、費用がかかります。CBTなら、静止画はもちろん、動画で色の変化を見せることもできます。
 
とはいえ、色については、モニターによる色の再現性や色覚の配慮が課題です。これもあって私は色彩検定 UC級をとってみました。

音も活用できます。

キーボードなどによる入力にまつわる問題

・元素記号や化学式では、アルファベットの大文字か小文字かで意味が変わってきますので、どちらか区別を厳密にする必要がありますが、CやOなど大文字と小文字の形が同じものについて、手書きの場合は微妙な大きさでどちらか判別がしにくい(大文字と解釈するには小さすぎる)場合があります。でも、キーボードなどによる入力では明らかに判別され、なんだったら採点まで機械がやってくれます。
・化学式の上つき・下つき数字は、よくCOみたいなやらかしを見かけますが、これは
①本当に上付きで書くのが正しいと信じていた
②下付きと分かっているのに、つい(数学の累乗の影響?)上付きで書いてしまった
ということでしょうが、CBTの解答で、COとあったら、
①本当に上付きで書くのが正しいと信じていた
②上付きの入力ボタンと下付きの入力ボタン(おそらくこの2つは隣に並んでいるはず)を間違えた
ということで…あまり変わらないな。

 一方、日本語変換ソフトの余計なサービスで、アルファベットの文字列の最初を大文字、2文字目から小文字に勝手に変換され、結果的に正答が誤答に書き換えられるという悲劇が起きる可能性も指摘しておきたいです。

 これはミリアンペアのような単位だけではなく、遺伝子の記号でAAかAaかaaか、ただでさえ大文字、小文字の入力を間違えないように気を遣う必要があるのに、勝手に変換されたりしていイラっときそうです。

 ただ逆に、日本語変換辞書をうまく育てると、正しい理科用語を変換候補の前の方に来るようにしたり、もっというと、「えんそ」を変換すると「Cl」と出てくるような、「みつど」と変換すると「単位体積当たりの質量」「質量÷体積」と出てくるなど、ズルい登録をすることもできそうです。

問題の分岐

 また、CBTでは、前の問題の答えによって、次の問題が変わったり(つまり分岐する)こともできます。

たとえば、食塩かデンプンかを見分け方を考えるときに
加熱すると答えた生徒には、加熱した時の様子を、ヨウ素液を食わると答えた生徒には、ヨウ素液を加えた時の様子をそれぞれ示してどちらが食塩でどちらがデンプンかを問う、という分岐も可能になってきます。

さらにまた、こういう出題はどうでしょう。

望遠鏡を使って太陽の黒点を観察したい。
(1)望遠鏡を使った太陽の観察の仕方として正しいものはどちらですか。
 〇 望遠鏡を直接肉眼でのぞいて観察する
 〇 遮光板と太陽投影板を取り付け、太陽投影板にうつったものを観察する。
(2)図は、太陽投影板にうつった太陽を観察した記録である…(以下略

 これは露骨な例ですが、(2)が(1)のヒントになっている例です。もしこれをPBTで出題した場合、(1)で「肉眼でのぞく」を選んだカンがいい生徒は、(2)で自分の誤りに気付いて(1)の解答を修正するでしょう。あ、ここで、そもそもカンのいい生徒は「肉眼でのぞく」を選ばないというもっともなツッコミはご容赦を。
 CBTの場合、(1)を解答して次の画面で(2)が出題されたとき、(1)の間違いに気づいても、前の(1)の画面に戻れなくしたり、戻れても選びなおせないように設定することは可能です。CBTのプラットフォームであるTAOにはそのような機能もあります。とはいえ、前の問題で間違えが確定したとわかっている状態で次の問題に取り組むのも回答者のメンタル的には、引きずる人もいそうです。どうしたらよいでしょうか。
 モーダルフィードバックの利用です。モーダルフィードバック(Modal feedback)とは、答えを選択したときに、提示されるメッセージなのですが、これを利用して、(1)で肉眼でのぞく方を選択したら「それは危険だ!そんなことをしたら、目を傷めてしまうよ!別の方法を選ぼう」みたいなメッセージを出して、投影させる方に誘導して(2)に行く、という方法が考えられます。(1)を最初どちらを選んだかはログで記録されるので実質(1)の正誤をチェックできながら、(2)以降も解けるという塩梅です。

というお話をしたのですが、こんな感じでブログの動画や画像を駆使して発表しました~。

 で、学会では、「テスト」なのか「調査」なのかという議論がでてきました。しかし「全国学力・学習状況調査」を「全国学力テスト」とマスコミはもちろんのこと、教育産業までが呼んでいる現状では、「え?テストも調査も同じでしょ?」と、ごく一部の学力調査の中枢に携わった専門家以外は、なかなかこの議論を理解してもらえなさそうな気がしています。。。
実は、私も「テスト」と「調査」は違うことはわかっていても、ぼんやりしたイメージだけで、その違いを正確に説明できる自信がない…。