0783 理科教師のための作問入門(11) ストーリーのメリデメ

 問題文の最初からに「太郎君は光合成に必要な物質は何かを調べるために…」などと、無駄に登場人物を出している問題って、よく見かけますよね。
 また、単に登場人物を出すだけでなく、一度観察や実験などをしたあとに、何か展開があって、また別の観察や実験をするなどの登場人物が科学的な探究を行うストーリーを立てているような問題も見かけます。

ストーリー問題の登場の背景

 断言するためには詳しく調べなくてはいけないのですが、ストーリー性のある問題が目立ち始めたのは、おそらく平成10年代後半から20年代前半にかけての学習内容が最も精選されていった「ゆとり教育」の時期ではないかと思われます。このころ学力の低下と相まって理科離れについて叩かれ議論され、理科を学ぶことの意義や有用性を実感させることが理科教育の大きな課題として突き付けられました。
 もちろん理科を学ぶことの意義や有用性を実感させるために理科教育側も――すでに理科離れどころか重症な理科アレルギーになってしまった方には鼻で笑われるどころか、無反応なものばかりかもしれませんが――様々な工夫をしてきました。学習指導要領で。教科書で。授業改善で。教材類で。授業以外の活動で。社会教育で。
 その一つに、問題文にストーリー性をもたせる、ということがあったのではないかと考えます。
 ストーリーをもたせる、つまり問題文中の人物(ゆくゆくはそこを問題を解く生徒自身に重ねたい)が科学的探究を行う流れを作ることによって、理科と人間(自分)は関わりがある、自分事である、という雰囲気を醸し出したかった。

 一方で、平成14年から絶対評価と観点別評価がスタートし、「科学的な思考(平成14年~)」「科学的な思考・表現(平成24年~)」「思考・判断・表現(令和3年~)」の観点についての評価を求められるようになったので、その材料となる問題を用意する必要が出てきました。
 と同時に、「目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探究する能力の基礎と態度を育てる」「自然の事物・現象を科学的に探究する」という歴代の学習指導要領の目標の一部にある「科学的な探究」、つまり知識ではなくそれを導く過程が、単なるお題目だったものがだんだんと「探究の過程」などといってチヤホヤされるようになり、「思考・判断・表現」の観点の問題にもなることから、「探究の過程」にそって出題したいというニーズがでてきました。
 このとき、探究の過程に沿って科学的に探究する主体となる人物が必要になってきます。そうしてその人物が課題を設定したり実験を計画したり結果を予想したり実験したり考察したり振り返ったりするような、ストーリーが必要になってくるわけです。

 ストーリー問題が目立つようになってくると、これとは別の目的をもつストーリー問題もありますが、それは後述します。

ストーリー問題のメリット

 このような問い方はいくつかのメリットがあります。

 まず、先ほど述べたように理科を学ぶことの意義や有用性が実感できる感じがする点。実際に誰かが科学的な探究をしている様子を見せて、生徒自身にもその疑似体験をすることで、生徒が問題の内容に興味をもち、問題を解くモチベーションを上げる効果や、同業者など対外的には単なる知識の詰込みの問題とは一味違った問題に見えるという効果があります。
 

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 また、内容的に離れた複数の小問を一つの大問の中で自然に問いやすくなるというメリットもあります。特に入試問題の場合、広い範囲の知識を限られた問題数で問いたいというニーズがあるので、一つの大問の中で、あれこれ違う単元の話を問うことができれば便利ですが、例えば、問1で平均の速さの計算、問2で濃度や密度、問3で発生時の染色体の数、問4で太陽の日周運動や地球の年周運動の問題…とすると、脈絡なく問題を出しているようですが、生徒が、南極や北極に関して科学的に探究しようと考え,自由研究に取り組み、その成果としてのレポートに雪上車や海氷、生物の発生、北極付近での太陽の動きの話題が載っていたらどうでしょう。物化生地バラバラな問題でもストーリーで一本につながるのです。ちなみにこれ、令和5年の東京都立高校の入試問題(理科の大問2)です。
 ちなみにこのパターンの問題は、ストーリー問題という形式に、国語や社会などに見られる、文章に傍線を引いて、問1 傍線部①について…、問2 傍線部②について…という出題パターンを流し込んだという感じがします。ストーリーに時間の流れ(実験する⇒結果をまとめるとか)がなく、またほとんど知識を問う問題なところがこのパターンの問題の特徴です。
決してそれが悪いとは言っていません。

ストーリー問題のデメリット

 メリットがあればデメリットもあります。ストーリー問題の唯一かつ最大のデメリットは文字数が多くなる点です。

 活用問題のメッカである全国学力調査。中学校理科が最初に行われたのは平成24年でした。さすがに力の入った問題で、とくに化学領域の大問4は、素材といいストーリーといい良質な問題だったと思いましたが、このときの中学校理科の問題の文字数が約8000文字あったそうです。ちなみにこのときの中学校国語は約4000字だったということで、国語より理科の方が読ませるってどういうこと?というツッコミが当時あったようです。

 で、文字数が多いと何がいけないのか。もちろん、印刷やミスの点検が大変だとかいう出題者側の都合もありますが、生徒側では長文を読むという負荷がかかります。そこから解答に必要な情報を抽出する必要がありますが、長文ならそれだけ大変ですよね。もちろん時間もかかる点も大きなデメリットです。

 そしてもっと微妙なのはよく訓練された塾っ子は、問1・・・の分を先に読み、ストーリーをほとんど読み飛ばしてしまう、にもかかわらず正解をたたき出してしまうという点です。
 確かに余分なストーリーを読まないでも、問1,問2などの具体的に何を問うのかをおさえて、そこから必要な情報を集めた方が効率的に解答できてしまうのです。
 そうするとかわいそうなのが、まじめに長いストーリーを追って時間を費やし、肝心の解答に書ける時間が足りなくなり、当然結果も芳しくなくなる生徒。なんというか正直者がバカを見る世界です。

 そういうわけでストーリーを語りながらもできるだけ文字数は減らしたい。このバランスをどのようにとるのか、いや、この矛盾にどう目をつぶるのかを、私たち出題者に問われているわけです。つらい…

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