0775 理科教師のための作問入門(10) 見つけた素材をどうやって問題にするか

2024年6月6日

 「素材論」の後編です。前回は素材の見つけ方でしたが、今回は、その見つけた素材をどう育てて一つの問題(大問)として成立させるかです。

 とりあえずアイデアを出すだけならば、敢えて言おう簡単であるとジーク・ジオン!!
 それを魔の川(アイデアを問題の形にする)、死の谷(問題が実際の試験に採用される)、ダーウィンの海(公開された問題が界隈で「良問」と評価される)を乗り越えて「この1問!」にしたてあげていく方がはるかに大変だったりするのです。
 ※魔の川・死の谷・ダーウィンの海をご存じない方は適当にググってください。

 キングチーターは、メンデル遺伝についてのみ素材になりうるという、いうなれば一点突破型の素材でした。なのでメンデル遺伝だけで一つの大問が作れるような定期試験には、うってつけの素材なのです。
 しかし、例えば入試問題のように範囲が3年間の中学校理科全部、みたいになってくると、限られた問題数で、できるだけ広い範囲を問いたいというニーズもあるので、キングチーターの問題のようにメンデル遺伝だけで小問を5問も出題するのだったら、メンデル関係をせいぜい2~3問にして、残りは(キングチーターを素材にしながら)別の単元の問題を出したいという判断はあって然るべきです。
 そうしたとき、キングチーターというニッチというかピンポイントな素材だけでは作問が苦しくなってくるんですよね。

 入試問題のような範囲が広い試験で、小問数が多い大問を作るとしたら、もう少し話を広げやすい素材のほうが作りやすいといえます。
 もちろん、大問の途中で素材を変えるという手がありますが、それについては素材と並ぶ作問ポイントである「ストーリー」に工夫が必要です。ストーリーについては次回とその次の回でやります。

 ということで、今回の素材は「ヒマワリ」です。
 暑い夏に咲いているのを見ると、近づいてよく見たくなります。しかも自分の背丈くらいに伸びているので、ちょうど花の部分をジーッと観察できますしね。

 で、観察していて気がついたのは、外側の花は咲いていても中心はまだだったり、中心付近が咲いていると外側が枯れていたりと…あ、つまり外側の花から中心の花へと咲く順番があるんだなと。ちなみにヒマワリを見てすぐ察することができたのは、アオノリュウゼツランで一度気づいたからですね。
 ということはヒマワリの外側が咲いていて中心がつぼみということで、花が外から中心へと咲いていくことに思考させる問題ができそうですね。それでヒマワリを素材にしようと考えたのです。

 ただ、その前提として、ヒマワリが小さい花がたくさん集まっている頭状花序であることをぜんていにしないといけません。ただそれを問題文で説明するだけではつまらないので、このような花はヒマワリ以外でどんなのがあるかを問うと、ここでも小問が1つできます。

 で、ここでヒマワリについてあれこれ調べてみるのです。私はいちいち使いませんが、思考ツールがお好きな方はマインドマップとかマンダラートなどでまとめていくのもアリかと思います。
 思考ツールって、総合的な学習の時間の授業などで生徒に紹介したこともあるのですが、個人的には使わないんですよね~。どうも、自分のスタイルじゃないというか…。かえって思考ツールのフォーマットに落とし込むコストが大きくて、自分の中の思考のリソースを奪われてしまうんですよね…。「思考した」感が得られることは否定しないのですが、その時どれだけ結果に結びつく思考ができたかというと…。

 ヒマワリを調べていて、特に参考になったのが、牧野富太郎の「植物一日一題」「植物知識」です。さすが牧野富太郎です。だてに朝ドラに取り上げられていません。(←そこか…)
 そこでは、ヒマワリは名前から太陽の方向に向かって回ると思いきや、回っていないということをはじめに見つけたのが自分だと主張しています。特に「植物一日一題」では、

 ヒマワリすなわち向日葵の花が、不動の姿勢を保って、日について回らぬことを確信をもって提言し、世に発表したのは私であった。すなわちそれは昭和七年(1932)一月二十五日発行の『植物研究雑誌』第八巻第一号の誌上で、「ひまはり日ニ回ラズ」の題でこれを詳説しておいた。そしてこの文は『牧野植物学全集』第二巻(昭和十年(1935)三月二十五日、東京、誠文堂発行)の中に転載せられている。        牧野富太郎「植物一日一題」

と、丁寧に出典と転載された本を紹介し(もしかして宣伝か?)、さらに

 宝永六年(1709)に出版になった貝原益軒かいばらえきけんの『大和本草やまとほんぞう』には、向日葵をヒュウガアオイと書いてある。そして「花ヨカラズ最下品ナリ只日ニツキテマハルヲ賞スルノミ」と出ている。これによると、益軒もまたヒマワリの花が日にしたがって回ると誤認していたことが知れる。

 「貝原益軒はすっかり騙されてたけど俺は気づいてたぜ!」みたいなマウント感はさておき、これも面白いトピックなので問題にしたいところです。

 すなわち「ヒマワリは太陽の方向を回る」という仮説Aと「ヒマワリの向きは変わらない」という仮説Bのどちらかが正しいかということを検証する方法を問えそうです。

 とはいえ「植物知識」にあるように、実地についてヒマワリの花を朝から夕まで見つめていれば確かにわかるものの、これでは芸がありません。そこでこんなやり方で検証します。

 ①朝、東を向いたヒマワリの鉢植えの花を、花が西を向くように鉢の向きを変える。
 ②[ A ]に観察して、
   ・ヒマワリの花が[ B ]に向いていたら太陽の方向に回るといえる。
   ・ヒマワリの花が[ C ]に向いていたら向きは変わらないといえる。

 この鉢を動かして確かめるという発想、当時どこかの本で見つけたんですよね~。牧野富太郎ではなかったと思います。が、当時の資料が散逸して何の本だったか今となってはわかりません…。
 で、ここの空欄A~Cの組み合わせを問う問題。

その日の夕方西
その日の夕方西
翌日の朝西
翌日の朝西

 この2つの仮説のどちらが正しいかを判定する方法について、①どこを調べればいいか②仮説Aが正しければどうなるか③仮説Bが正しければどうなるかの3つの組み合わせの問題のパターンは、平成24年全国学力調査の4の問6でもやっていました。つまりパクリだ。

その他、ヒマワリの実のことを「ヒマワリの種」と呼ばれることがあるので、ヒマワリの実・種についてやヒマワリの葉、ヒマワリのような虫媒花の例のような知識問題をちりばめて、以下のような構成で大問を作りました。

問1 ヒマワリのように小さな花があつまって一つの花のようにできているものを選ぶ4択
問2 (1)ヒマワリの断面の並び(中心部や周辺部でのおしべ、めしべの並び方)を正しく図示したものを選ぶ4択 平成24年全国学力調査・大問1の花式図のパクリです
 (2)ヒマワリの花の並び方から、花の咲く順序に関する説明で正しいものを全て選ぶ問題
 (3)別の日に撮ったヒマワリの写真をもとに、それが最初の写真より前に撮ったのか後に撮ったのかを理由をつけて推定する問題
 ここで(3)は、(2)の正解となるポイントをもとに推定するので、チェーン問題ともいえます。
問3 ヒマワリの葉を選ぶ4択
問4 ヒマワリの向きを検証する問題(上述)
問5 ヒマワリの実と種の知識を問う4択
問6 ヒマワリと同じ虫媒花の植物を選ぶ4択

 まとめてみますと、小問が8問もあるこの大問が成立したのは、「ヒマワリ」のような一つの素材から花の咲く順序、葉の形、「日に回るか」の検証、ヒマワリの種と実、虫媒花など、いろいろな面白そうなトピックがあったからといえるでしょう。キングチーターやアオノリュウゼツランでは、たぶんこうはいきません。

 素材から問題を作るには、その素材のもつトピックをいくつ拾えるかが勝負。小問の数が2~3問なら狭い素材でも可能だが、5問以上の場合は大きめの素材でないと厳しそう。

 最後に、この問題をどこで使ったかは聞かないでおいてください。わかる人にはすぐわかるのですが、その問題を作ったのは私だ、と公表していない、デリケートな”問題”なので。