PR

0942 pHをどう読む?(前編)

pHの話題でお約束のネタです。
「ピーエイチ」派と「ペーハー」派の仁義なき戦い。

pとHの文字を英語読みにすれば「ピーエイチ」、ドイツ語読みにすれば「ペーハー」。
一般向けのpHの説明を見ると「pH(ピーエイチ、またはペーハー)」なんて記述もあります。

ここら辺の議論としてあるのは、もちろん全員が全員というわけではなく、あくまでも傾向としてですが、
年配者は「ペーハー」、若者は「ピーエイチ」とか
純粋な化学屋は「ピーエイチ」、非化学屋は「ペーハー」というとか
ペーハーの方が言いやすいとか
ピーエイチでないと国際的に通用しないとか
アクアリウム関係など一部の限られた業界では「ペーハー」でほぼ統一されているとか
いろいろ言われています。

この前の記事でもあったように、pHの概念について発表した論文がドイツ語、フランス語、デンマーク語の3か国語で英語では発表されていなかったことや、かつて世界の中でも化学についてはドイツが卓越していた時期があり、そのため日本もドイツから化学を学んだところもあり、ドイツ語読みのペーハーが一度は日本に定着したようです。現在ご年配の方はペーハーで学んだのでしょう。

ところが、その後だんだんと国際的に、そして国内的にも英語が幅を利かせるようになり、ドイツ語の立場が相対的に弱くなっていけば、pHも英語読みにすることも自然な流れです。昭和33年(1958年)に制定された日本工業規格JIS Z 8802:1958 で、「ピーエッチと読む。」と指定されたようです。

※ちなみにWikipediaをはじめとするネットで調べると、
1957年(昭和32年)にpHのJISを制定する際に読みが「ピーエイチ」と定められと多くのサイトに記載があります。
JIS Z 8802の制定は1958年3月3日なので、それとは別のJIS規格で規定されていたのでしょうか。
まさかとは思いますが、Wikipediaの1957年が誤りで、みんなそのままウラをとらずにコピペしたって事はないですよね。「pHのJISを制定する」ってちょっと日本語として違和感を感じるような表現もそのままですし。(私なら「pHについてJISに掲載する」とか「pHに関するJIS規格を制定する」と表記しますが…)
ということで、1957年に制定されたpHのJISをご存知の方がいたら、ぜひコメントにてJIS規格番号を添えてご教授くださると幸いです。

現行のJIS Z8802(2011)ではpHの用語定義がされています。

3.1 pH
この規格に規定したpH 標準液の pH 値を基準とし,ガラス電極 pH 計によって測定される起電力から求められる値。
注記 ピーエッチ又はピーエイチと読む。

ということで、今正式には「ペーハー」とは言わないことになっているものの、一度定着したものをひっくり返すのも難しいということで、「ピーエイチ」と「ペーハー」が現実的には並立しているわけですね。

あわせて、 倉島長正「正しい日本語101―言葉のセンスを磨く」PHP研究所 (1998/01)に、興味深い記述があったことにも触れておきたいと思います。

酸性アルカリ性の度合を示す PHはもともとドイツ語読みの「ペーハー」で定着したものであるが、英語化の先取りをした NHK は、昭和四十五年に「ピーエイチ」と決めた。これに一般の拒否反応が強かったために翌年には経過措置として「ペーハー」も認めることにしたという。

PHとPも大文字になっているのは原文がそうだったのでそのままにしています。出版社がPHPだけに。
でも、1998年のことですから、現在はどうなんでしょう。ちなみに前のバージョンのNHK高校講座の化学基礎ではピーエイチって言ってました。power of Hydrogen とも言ってましたけど。

それから武田鉄矢が「ペーハーセンサー」と言い切っていたタケダ胃腸薬21(1988)の懐かしいCMがありましたね。1978-1989 武田鉄矢CM集の17分30秒のところからも別バージョンのCMがありますが、こちらもペーハーセンサーです。

美品 希少武田鉄矢『タケダ 胃腸薬21』のぼり旗 販促品 タペストリー 昭和アイドル 胃腸薬

それはともかく、現在の日本ではドイツ語読みではなく英語読みが正式だということが結論付けられました。

でも、英語よりもドイツ語がまだ日本の科学用語の中で幅を利かせているものがあります。「カリウム(Kalium:英語はPotassium)」「ナトリウム(Natrium:英語はsodium)」がその例ですが、極めつけは「エネルギー(Energie)」ですよね。
最近でこそエナジードリンクのように「エナジー(energy)という言葉が使われるようになってきましたが、だからといって資源エネルギー庁を資源エナジー庁に改称しようなんて言っても、たぶん100年たっても「その発想はなかったわ」と返されるんじゃないでしょうか。まぁ100年しないうちに省庁再編されてるかもしれませんが。

しかし、pHの読みに「ピーエイチ」「ペーハー」以外の伏兵が潜んでいたとは、この時の私たちには知る由もなかった。つづく。
(なんとなくサスペンスドラマ調にしてみました)

(2017-01-20)

コメント

タイトルとURLをコピーしました