0799 理科教師のための作問入門(13) 解答形式

 次に、解答形式についてみていきましょう。

 これはもうよくご存じのことですが、解答形式には、いくつかの選択肢の中から該当するものを選ぶ選択式、簡単な用語や数値(単位を含むこともある)を書く短答式、文で答えたり、作図等で解答する記述式があります。

 これらの解答形式のバランスについては、試験によってある程度決まっていることがあります。完全マークシートの試験でしたら基本的には選択式にならざるを得ませんが、公立高校の入試問題などを見てみますと、1回の試験が物化生地4等分されて、それぞれの領域ごとに1問ずつ記述と、1~2問の短答と、残りは選択みたいなパターンなんかもよく見受けられます。一方、定期試験などでは、それこそ先生によりますが、大量に記述を出す先生もみられますね。

それそれの解答形式の特徴を見ていきましょう。

選択式

 「次のア~エの中から最も適切なものを選び、記号で答えなさい。」みたいな定型文でおなじみの、選択肢となる文や図に記号をふって、その中から該当するものの記号を解答欄に書いたりマークしたりする出題形式です。

 選択肢を1つ選ぶパターンの問題は選択肢の数が4つのパターンが多いです。

  呼吸はしているし、光合成もしている。
  呼吸はしているが、光合成はしていない。
  呼吸はしていないが、光合成はしている。
  呼吸はしていないし、光合成もしているない。

のような2択×2問の組み合わせで4通り作れるという点が大きいでしょう。

 選択式のメリットは、解答を書くのも、採点するのも非常に簡単であるということ。記述式なら長々と書かなくてはいけないし、それを丁寧に見て採点しなければいけませんが、選択式なら「ア」で済みます。採点する側も正解が「ア」なら○にできますし、正解が「イ」なら問答無用に×にできます。
 一方、考えられるデメリットとしては大きく2つあります。
 一つは、意外に間違いの選択肢を考えることが難しい。経験上、4択をつくろうとすると、正解選択肢の他に3つの誤りの選択肢が必要です。そして、その誤りの選択肢は2つならなんとか作れるのですが、3つめの選択肢に苦労することが多いです。せっかく4つ選択肢がそろっていても、一つだけ長かったり短かったりすると美しくないですし、あまつさえその選択肢が正解だったりすると、作問としては稚拙な感じがします。

 そしてもう一つはカンで選んでも偶然正解になってしまう可能性もあることがあげられます。○×問題のような二択では、ランダムで選んでも50%の確率で正解となりますから、仮にある生徒が○×問題で正解したとしても、その生徒が本当にわかっていて正しく選べたのか、それともカンで当たったのかが区別がつきません。
 ちなみに、選択問題の正答率の解釈には注意を要します。例えば、○×問題で正答率が50%ということは、50%の生徒が正しく理解していたというよりは、100%の生徒が分からないので1/2の確率に賭けたと解釈する方が妥当です。本当に50%の生徒が理解していたら、50%の生徒は正しく選べる、残り50%の人たちが1/2の確率に賭け、25%の人が理解してないけど正解するので、正答率は75%となります。もし、正答率が30%だったら、60%の人が分からないので1/2の確率に賭け、残り40%の人は誤解(間違っていることを正しいと理解)していた、という分析ができます。
 村井 健志:放射線教育の現状と放射線に関する意識調査,INSS JOURNAL Vol. 20 SR-3,pp.28-37(2013)では、放射線に関する基礎的な知識の有無を確認するため,関西電力供給区域の満 20 歳以上の男女を対象に,14 問の質問に対する正誤をききましたが、その質問の一つ「放射線が人体に影響を表す単位としてベクレルが用いられる」という質問に対し、52%が正しい、15%が正しくない、33%がわからない・無回答という結果でした。放射線が人体に影響を表す単位はベクレルではなくシーベルトですから、正しく理解できていた人は15%、そして半数以上の52%が自信をもって間違えていたということがわかります。「わからない・無回答」が許されるとこうなりますが、試験などで33%の分からない人が無理やりどちらかを選ぶと半分ずつ正しい・正しくないに分かれ、正しい69%、正しくない31%となり細かい分析が難しくなります。

 偶然による正解の確率を下げるには、選択肢の数を増やす必要があります、できるだけ2択は上述のような形で2問セットで4択にするなどの工夫が必要です。とはいえ、1つしか選ばないのに選択肢を6つ以上並べるのも、今度は正しい選択肢を探すのが大変そうです。
 だだし、該当する選択肢を複数選ぶ場合だと、選択肢の数はもっと増やしてもよいでしょう。4つのうち2つ選ぶのでも組み合わせは6通りありますから、偶然正解する可能性はかなり減ります。もっとも2つ以上選ぶとなると。問題によっては「次のア~カの中から電解質をすべて選びなさい」みたいに選択肢をもっと増やしたくなるケースもあるでしょう。それはそれでOKです。
 逆に、「すべて選びなさい」という出題は、「ただし答えが一つのこともある」と明記すれば別ですが、選ぶべき選択肢が二つ以上あるんだろうなと推定されます。その裏をかいて一つだけ、というのはさすがに鬼畜でしょう。

短答式

 用語や計算問題で出た数値(単位を含む場合もあり)を書く解答形式です。
 理科の基本用語では、漢字で答える問題の場合、漢字の誤りや、漢字で学習した用語をひらがなで書く、あるいは英語で答える(細胞をcellと書くなど)どうするか、考えておきましょう。
 個人的には、漢字で書く理科の基本用語で漢字を誤ったり書けない(ひらがなになる)場合は、その用語の意味を漢字を使ってきちんと理解していないことがうかがえると考え、×が基本かなと思っています。
 また、問題文が日本語なので、日本語で答えてほしいところです。というか、日本語の問題文の意味が分からないでcellという解答が思いつくってどういうことなんでしょう?英語を○にすると、他の言語でも○にせざるを得なくなり泥沼にはまる…という点からもcellもマルにはできないなというのが個人的見解です。(学校の定期試験などで日本語の不自由な外国籍の生徒がいて…というような個別の事情があれば別ですが)

 計算問題は、選択式にする場合、出題者側が相当慣れていないといけません。生徒がどう計算を間違えるかな、ということをある程度見通さないと、適切な誤りの選択肢が作れません。いい加減な選択肢だと、計算を間違えた生徒が「あれ、選択肢にない。ということはこの計算は間違っていたのだろうから考え直そう」と気づかれてしまうと、理科の学力を測定する、という試験本来の意味から遠ざかってしまいます。なので、オールマークの試験でもない限り、短答式が無難です。

 また、計算問題では数値に単位がつくことが多いです。単位を書かせる場合、数値があっていても単位がなかった場合、単位が間違っていた場合(たとえばhPaがhpaになっていた場合)にどうするかという点も気にしないといけません。
 また、単位を指定しないと300mAになったり0.3Aになったりして採点が面倒になるので、意図的に単位は何かを問いたいのでなければ、「P点を流れる電流は何Aですか。」みたいに単位をつけて問い、解答欄にも    A のようにあらかじめ単位をつけておく方が無難でしょう。

記述式

 文章の記述式については記述問題が苦手なのは 記述問題の問題文の記述にも大方述べましたが、入試問題なんかの解答例を見ると、あくまでも一つの解答例しか載っていません。しかし、自分の解答がその解答例と一字一句変わらないということは稀でしょうから、自分は○なのか、×なのか、△なのか(△だとしたらどれくらい減点されたのか)が分かりません。ここに記述問題の採点の不透明さがあります。
 その点、全国学力調査は記述問題の解答も画期的で、正答にする基準を明確に示しています。採点基準を言語化する以上やや複雑なのはやむを得ないとして。

 作図については、まず、定規を使った作図問題で注意したいこともチェックしておきましょう。その上で、マス目などの補助線を使わないタイプの作図問題の採点基準をどうするか、いろいろなパターンを考えておく必要があるでしょう。

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