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1822 貧乏中学・木製書架導入顛末記

 こちらも図書館教育ニュースの解説版に載せようとしたところ、ステークホルダーが多いこともあり大人の事情で投稿にストップがかかった原稿です。それから20年の歳月を経て、いい加減もう時効だろうということで、固有名詞を伏字やイニシャルにして(弱気)ここにアップします。伏字やイニシャルがもともと何だったのかは詮索しないのがお約束。

 突然ですが、-●●中学校-と聞いて、皆さんはどんなイメージをもちますか。私が「●●中学校の××です」とほかの学校の先生や一般の方に紹介すると、よくこんな反応が聞かれます。「女子校ですか!」…いえ、大学や高校は女子校ですが中学までは共学なんですが…。「優秀なお子さんばかりでしょう?」…いえ、結構フツーの中学生です。もちろん、中には優秀な人もいますが、テストを採点していると、ため息をつくこともしばしばです。でも、これらの反応はやむを得ない誤解だな、と私の方でも別段キレルことなく笑顔で流せます。私は大人ですから。しかし、大人の私をもってしても、どうしても声を大にして間違いを正したい反応があります。「じゃ、施設とか結構整ってるんじゃありません?」
 そんなことはございません!!一度来てみればわかりますが、とてつもなく年季の入った校舎、3階建ての校舎の2階なのになぜか大雨の後には雨漏りすることのある社会科室、機械が壊れたままで使えないLL教室、カギが壊れたプレハブの男子更衣室…21世紀の日本になんでこんな学校があるんだ?!というすばらしさです。上から降りてくる予算も公立よりも格段に少なく、後援会のご支援でなんとか生きながらえている状況です。だから修理もままならならず、立て替えなどは夢のまた夢?!それなのに…あぁ…。
 この物語は、ある貧乏中学が無謀にも低予算で図書室の木製書架を導入しようとし、そして成し遂げた、関係者たちの熱いドラマである(ちょっと『プロジェクトX』調)。

 かつての本校の図書室は、校内でも珍しくクーラーは入ったものの、いすや書架などは古くなっているものが多くありました。
と くに書架には関しては、灰色の鉄製のもので、さびているものもあります。また新聞の縮刷版のような重いものが入っている書架は、ねじが緩いのかグラグラして、地震の時に倒れてしまわないか心配でした。そうでなくても、昼休みや放課後は、図書室はたくさんの生徒でごった返すので、何かの拍子に書架にぶつかって倒れる…なんてことも考えられなくもありません。「新しい書架」というのは私たちにとって悲願でした。

1.後援会様のご支援

 本校には後援会があります。国からの予算配当の少ない本校では、とてもこれではやっていけない現状があり、毎年後援会からいただく予算が、顕微鏡やパソコンソフトなど授業で使う教材から、窓ガラスやカーテンのクリーニング代まで、多様な用途に使われています。図書室関係でも、司書さんの人件費や新聞記事データベースなどに使われています。その予算で、今年は書架を買おうということになりました。実は、後援会の理事の一人に、Yさんという、子ども図書館に造詣の深い方がいらっしゃったのです。そのため、Yさんは特に図書室について心配りをしてくださいました。

2.K設計事務所・K様のプロフェッショナル魂

 Yさんの紹介で、K設計事務所からKさんが学校にお見えになりました。すでにYさんからある程度の事情を聞いていたそうですが、図書室の「惨状」をみて、驚かれていたようです。しかし、Kさんはプロらしく、冷静な分析を行いました。その一つに「書架の高さがまちまちで統一性がない」という指摘がありました。普段は全く気にしなかったのですが、そういえばたしかにそうです。高い書架、低い書架がバラバラにあります。「さすがはプロ!」と感じたと同時に、「この予算で大丈夫かな…」と一抹の不安がよぎりました。

 さらに小心者の私に追い打ちをかけるように、Kさんはおもむろに一枚の大きな紙を出されました。それはびっくり仰天、リニューアルされた図書室全体の事細かな設計図だったのです!もちろん、そんなものは頼んでおりません。ただ、一定額の予算で書架を買えるだけ買おうという話だったはずです。 
 「机はここに、ここを雑誌コーナーにして、パソコンは…」と丁寧に説明していただきましたが、私の頭の中では「申し訳ございません、大変立派な設計図を作っていただいたのですが、うちの学校にはとてもそんな予算はありません。だいたい私の給料だって、これだけ働いてるのに…(以下略)」と、その場で土下座したい気分でした。一人でレストランに入って、食事を終えてほっとした後、はじめて財布がないことに気づいたときの気分って、きっとこんなものでしょう。

3.K書店様の恵み・その1

 そんななか、銀座にありますK書店様から「このたび売り場を改修するので、木製のカウンターをいりませんか」という話がありました。K書店様はキリスト教の出版物が多いのですが、6階は知る人ぞ知る「子どもの本新刊コーナー」。ここに何度か図書館に入れる本の購入に行ったことがありますが、仕事そっちのけでじっくり品揃えを見てみたい衝動に駆られる書店です。そこで見たカウンターはたしか高級そうなものだったような。。。しかも、いらなくなったとはいえ、そのカウンターは新品!もちろん、速攻でいただくことにしましたが、銀座から学校までの輸送費などもご負担くださいました。神様の恵みとはまさにこのことです。

4.教頭先生の感謝

 いただいた木製のカウンターは、この学校に不釣り合いなほどに大変きれいなものでした。図書室の中でも、新しく入った書架やカウンターは、ひときわ目立っておりました。しかし、その一方で灰色の鉄製の書架もまだまだ、大多数を占めています。これらもなんとか木製書架にしたいけれど、今年の同様の予算で、あと何年かかるでしょうか。しかも、来年以降、同じ予算がつくかどうかわかりません。図書室以外にも、もっと緊急に予算が必要なところもたくさんあります。そう思いながらグラグラの鉄製の書架がいくつあるかを数えるとため息が出てきます。
 そのころ、教頭先生は、カウンターをいただいたお礼に、K書店様を訪ねていました。そのとき、何枚かの写真をお見せしたそうです。大多数の写真には、いただいたカウンターで生徒たちが図書の貸し出しの活動をしている様子が写されています。ところが、それとは別に、いただいたカウンターも、新しい木製書架も写ってない写真がありました。それが後になって意外な展開をもたらすのでした。

5.K書店様の恵み・その2

 新しいカウンターと、後援会の予算で買った木製書架が入ってしばらくしたころ、再び、K書店様からのありがたいお話がありました。「木製書架はいかがですか-」
 それも1台だけではありません、図書室にある鉄製書架が全部入れ替わる量なのです。しかも、また銀座からの運送料や現在図書室にある鉄製書架の処分も負担してくれるというではありませんか。いや、本当にいいんですか?!志賀直哉「小僧の神様」の小僧・仙吉の「只無闇とありがたかった」という気持ちがよくわかります。

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 これには、教頭先生がK書店様にカウンターをいただいたお礼に行ったときにもっていた写真の中に、図書室にまだ残っている鉄製書架を生徒が使っている様子が写っていたものがあったのです。それを見たK書店様が不憫に思って、今回の申し出をしてくださったようです。「求めよ、さらば与えられん」(「マタイによる福音書」7章7節)とはこのことですね、きっと。

6.司書様によるミラクル

 もちろん、木製書架がやってくるのはうれしい話ですが、よく考えたら、本の入れ替えをしなくてはなりません。それも図書室のほとんどの書架が入れ替わるのですから、何千冊もあります。さらに前まで使っていた鉄製書架と違うかたちの書架もあり、どのように本を並べるかという問題もありました。 
 そこで、本校の司書さんが、独自の司書ネットワークを通じて、司書仲間のかたに手伝っていただき、数日でこちらの作業も終了することができました。

7.PTAボランティア様のご献身

 さらに本校ではPTAの方が図書室のボランティアをしてくださっています。きれいな木製書架が導入されて、図書室の壁紙などの汚れが気になり出しました。そこはPTAボランティアの皆様が整備してくださいました。

8.…そして、何もやらなかったヤツ

 このようにして、一連のリニューアルは終わりました。はじめてリニューアル後の図書室に入った生徒たちは「わー、図書館みたい!」と感動しておりました。それじゃ、今までの図書室はいったい…。
 ところで、今回の奇跡的に低予算でできた木製書架導入には、ここに紹介したたくさんの方のお力があってはじめて成し遂げた快挙と言っていいでしょう。この他にも、図書委員を中心とした生徒たちをはじめ、いろいろな人が関わっています。お金はなくとも、たくさんの人が本校の学校図書館に関心を寄せて、そしてご尽力くださることに、関係者のひとりとしてうれしく思います。
 ところで、図書室関係者の中には、今回のリニューアルにはほとんど関与しなかった人が一人だけいました。誰でしょうか?ここまでお読みになった方ならもうおわかりだと思います。そう、司書教諭の私です。それではあまりに申し訳ないので、一連のリニューアルの顛末をこの原稿にまとめ、その原稿料で、ご尽力いただいた皆様に感謝の気持ちを込めてお茶とケーキでもごちそうしようかと画策している次第です。

 だがしかし、この原稿が日の目を見なかったため、お茶とケーキは実現しないまま時は流れてしまいました…。ですが、木製書架とカウンターは今も健在です!

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