1821 ブックトーク・「月とつきあう」

 理科×図書館シリーズ 第2弾です。
 これは平成16(2004)年度の話で、学習指導要領は平成10年改訂の学習指導要領の時代でした。
あれはいったいなんだったのでしょう…。

 学校でどんなことを教えるかを規定している学習指導要領。これは約10年に一度改訂されてきました。現行の学習指導要領の内容が提示された平成10年頃には「授業時数の削減」とくに「数学・理科の内容が3割削減」という話題がマスコミで取り上げられましたので、覚えている人も多いのではないでしょうか。そして、すべてはその学習指導要領のせいだとは言いませんが、今日「理科離れ」「学力低下」が叫ばれています。
 私は、中学校で司書教諭をやってはおりますが、専任でやっているわけではなく、理科の授業も担当しております。というか、むしろそちらがメインです。ですので、その影響をもろに受けております。学習指導要領の改訂によって薄くなった教科書を使って授業をするたびに「なんだ、これも削除されたのか、かえってわかりにくいじゃないか」「えっ、この単元はたったのこれだけ?」などと思い続けてきました。
 なかでも、3年生が学習する「地球と太陽系」については、あまりに壮絶でした。「月」について、全くふれられていないのです!あわてて小学校の教科書(これもいちだんと薄くなり、まるで絵本のようになってしまっているのですが)を確認してみると、月については、「月は、日によって満月や半月のように形を変えて見えます」程度のことが書かれているだけです。月と言えば、地球、太陽に続いて私たちにとってもっとも身近な天体と言えるでしょう。それが義務教育の範囲でこの程度しか扱わないなんて…。(ちなみに高校の地学でも月についてはほとんどふれられません)
 もっとも、前回までのものも含めて、教科書、ひいては学習指導要領がその興味・関心のニーズにきちんと応えてきていたかというと、正直、疑問が残らなくはないところもあります。宇宙とか星というものは、子どもたちにとって興味深い内容でもあります。等速直線運動や化学反応式が苦手な生徒も、星の美しさ、宇宙のスケールの大きさには惹かれることが多いのですが、教科書を開いてみると、自転や公転など、天体の動き方や地球からの見え方を理解することが中心で、理解できるかどうかは別として、本当に生徒が聞きたいような話には実はあまりふれていないのではないか、という感触も以前からもっていました。
 そこで、「月」について、満ち欠けのしくみのような科学的な側面だけではなく、月の模様や月への人類の思いのような文化的な側面も含めた授業を考えてみました。それには、以前、「雲」をテーマにしたときのように1)、興味をもった人がさらに深く月とつきあってもらえるよう、ブックトークをやってみたわけです。

 授業は次のように進みました。

1.「月」を描いてみよう

「ノートに月の絵を描いてみましょう」そう指示しました。「えっ?どんな月?」「何でもいいですよ。思いついたものを描いてみてください」
 何人かがノートに描いた月をプロジェクターで投影します。満月あり、三日月あり…何も描かないで「新月」と言い張る人もいます。まずは、林完次写真『月の本』(光琳社出版)で、いろいろな月の写真を見てみましょう。

2.「月」の名前と暦

 そういえば、月の呼び名はたくさんありますね。新月、三日月、上弦、満月、十五夜、…太陽にはこれほど様々な呼び名はありません。もともと満ち欠けもしないこともありますが。で、月が満ち欠けするのは、太陽、地球、月の位置関係によるものであって…と地球儀などのモデルや小型カメラを使ってしっかりと理科の授業もします。
 さて、月の名前の由来などは…岡田芳朗・阿久根末忠編著『現代こよみ読み解き事典』(柏書房)が詳しいです。その本にも月の呼び名の多くは、暦、カレンダーに関連していることが述べられています。月をもとにした「旧暦」と呼ばれるものです。今は主に「太陽暦(新暦)」になっています。明治時代に旧暦から新暦に変わったのですが、これには明治政府のちょっとした作戦があって…詳しくは小松恒夫『こよみのはなし』(さ・え・ら書房)をどうぞ。

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3.ウサギさんがお餅をついてる?

 大きく満月の写真をプロジェクターに投影して「月ではウサギさんがお餅をついている、とよく言われますがどこがどうなっていますか?」しばらくじっくり見て「あ、ここが耳で、ここが顔で…」。「ウサギが餅をついている」というのは知っていても、実際の月の模様とあわせて知っていた生徒は少なかったです。

 地域によっては、ウサギに見えるとは限りません。「片手のカニには見えますか?」「本を読む少女には見えますか?」…いろいろな問題を出します。月の模様にはいろいろな伝説があります。竹内均編『月の不可思議学』(同文新書)から、月のもようにまつわる伝説をいくつか紹介しました。月とカエルが兄と妹だったりする設定などに、高校受験を控えておとなしくしている生徒も、さすがにつっこみを入れずにはいられませんでした。
 でも、いつも月って地球に同じ面しか見せていませんよね。考えてみれば不思議な話です。その理由は月の自転周期と公転周期が一致していて…と、また理科の授業。ブックトークもありますが、やること(理科の授業)もしっかりやってしまいます。で、同じ面しか見せてないということは視点を変えるといつも見せていない面があるわけです。そこで、「人はみな月と同じだ。誰にも決して見せない暗い面を持っている。」とジョン・P.ホームズ編集『世界一の毒舌家マーク・トゥエイン150の言葉』(ディスカバー21)から紹介。痛いところをつかれているけれども否定できないことばです。

4.月面着陸!あの感動を21世紀でも!!

 1969年、アポロ11号が月面に着陸しました。当時は、世界中がこの偉業に釘付けだったようです。と、当時の時代背景をふまえて、新聞記事やビデオ資料などを提示します。その上で、朝日新聞社編『人類が月を歩いた・アポロ11号の全記録』の登場です。この本はアポロ11号とヒューストン宇宙管制センターの交信の記録です。アームストロング船長役、オルドリン飛行士役、ヒューストン宇宙管制センター役と生徒を決めて読むと、「その瞬間」の臨場感が出てきます。アームストロング船長のあの有名な「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては巨大な一つの飛躍だ」というせりふがいかに感動的か、なぜ世界がそこまで注目したのか、35年の時を超えて伝わったような気がしました…というところで授業は終了。

 これは授業後に気づいたのですが、あるクラスでこの授業をやった日の夜は満月。翌日は、生徒たちの間で昨日見た月がきれいだったね、と話題になりました。

(1)「ブックトーク・雲をつかむような話」(図書館教育ニュース平成16年4月28日号,少年写真新聞社)

地球と宇宙

Posted by rikaniga