0375 品川区研究授業講師2012/12

昨年(2012年)の12月の話ですが、品川区に研究授業の講師に行くのも、もう4回目になります(1回目2回目3回目)。

過去3回は、「化学変化と熱の出入り」「プラスチックの性質」「気体の発生」と、私が化学の専門ということで調整してくださったのでしょうか、いずれも化学分野の授業でした。私の専門なんて特に気にしなくてもいいのに…と思っていたら、今回は地学の単元からです。

今回の授業は火成岩の斑状組織と等粒状組織になぞらえた結晶の成長のモデル実験で、教科書ではサリチル酸フェニルやミョウバンを使うのですが、今回は塩化アンモニウムを使っていました。若くて意欲的な先生の「挑戦作」です。

さて、講師としてはどういう話をしようかなと。

研修会の後で話を聞いたのですが、他の回では講師の先生は、あまり研究授業そのものにはふれないで、別の話をするのだとか。それで、パソコンやプロジェクタが必要か聞かれたのですね。いくら事前に指導案を熟読して、いろいろ考えたからと言って、パワーポイントとか作ったら、授業みての話は入れられないじゃないか、どうしてんだろ?という疑問は氷解しました。

でも、やっぱり、せっかくやっていただいた授業を別の角度から味わうことが必要だよなとも思うので、指導案などの事前の資料から話題を見つけ、さらに当日の授業からも話すことを考え、短時間に整理して皆さんにお話しする方法で行きたいなと。

それには、ポストイットに気付いたことを1枚に1つずつ書いて、まとめたり整理したりして話すのがよいのかなと。でないと、構成がめちゃくちゃでまとまらない話になってしまいます。

で、その「構成」なのですが、それは授業にも言えることで。
今回の授業の構成を私なりにまとめると、こんな形です。外側の枠が授業、内側の枠が実験を示します。

課題:斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の違いは何か
  実験してみよう
目的:火成岩によって、結晶の大きさに違いができた理由を見つける
操作:温めた塩化アンモニウム水溶液を、温度の違う2つのシャーレに入れて、結晶のでき方(時間や大きさ)を比較する。
結果
考察:冷やし方によって結晶の大きさに違いはあったか
 火成岩によって結晶の大きさによって違いがあったのはなぜか。どのような場所で火成岩ができ たら大きな(小さな)結晶ができるか。

授業の課題、「斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の違いは何か」これは、ふつうですね。

ところが、実験はあくまでも塩化アンモニウムの「モデル」実験なので、あくまでも結晶づくりの一般論の話、冷たいと(急激に冷やされると)結晶は小さいし、温かい(ゆっくり冷やされる)と結晶は大きい、ということになります。そこから斑状組織の岩石は急激に冷やされた、等粒状組織の岩石はゆっくり冷やされた、ということに気付くことはできそうです。

ただ、モデル実験だけでは、特に地学で見せたい自然事象のダイナミックさは伝わらない。つまり、斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の温度差レベルも北海道と九州の気温レベルの話と生徒が考察してしまうのも無理はありません。

じゃあ、どうしたらいいのかなぁ、と再構成してみました。

課題:斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の違いは何か
 先生「この2つの組織の違いは何か」
 生徒「結晶の大きさ」
 先生「じゃあ結晶の大きさは何で決まるのか、それをまず調べてみよう」
目的:結晶の大きさは何で決まるのかを調べる
操作:温めた塩化アンモニウム水溶液を、温度の違う2つのシャーレに入れて、結晶のでき方(時間や大きさ)を比較する。
結果:冷たい方が早く結晶ができたが、小さい結晶だった。
考察:この実験からわかることは何か?(ヒント:対照実験)
 →温かいところの方が、(結晶ができるまでの時間はかかるが)大きい結晶ができる。

モデル実験を現実の岩石に当てはめる
 実際の火山の環境(温度や斑状組織・等粒状組織の岩石の分布など)から、実際のスケールを示す。
 実物もしくは視聴覚教材の活用

授業全体の課題「斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の違いは何か」は同じ。でも、この課題は一挙に解決するには大きすぎるので、両組織の違いである「結晶の大きさは何で決まるのか」のような小課題を設定し、実験はあくまでもモデル実験として、割り切る。(特に小学校の先生から「結晶の大きさは温度によって決まる」という仮説が生徒から出てくるのか、と指摘されそうですが、それはおいといて)

これにより、植物のところでさんざんやった対照実験のロジック(条件を1つだけ変えたら、結果が違った。ということは、結果が違った原因は、変えた条件によるものといえる)で、「結晶の大きさが違ったのは冷やす温度が違ったからだ」「冷たい方ができる結晶は小さい」という結論までは導ける。

さらに、どちらが冷やす温度が低いのは、斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石のどちらと考えられるか、という全国学力・学習状況調査でいわれている「活用」の一つ、「適用」に属する質問も投げかけて、モデルから現実の岩石の話題につなげていく。

そのあとに次の小課題を示すなり、先生が解説をするなりするのだろうけど、塩化アンモニウムによるモデル実験の環境と自然事象としての岩石のできる環境の違いに注目する展開になります。といっても現実的には、視聴覚機材等を活用して地学独特のあの想像を絶するスケールのでかさを提示することになるのかなと思います。

そうそう、それと一つの課題、例えば今回の場合、「斑状組織の岩石と等粒状組織の岩石の違いは何か」を解決するのに、1回の実験などの探究活動で解決しないことも現実には多いです。たとえば、ディスカバリーチャンネルの「怪しい伝説:コーラと手榴弾」では、「コーラとメントスを一緒に飲むと、胃が破裂する」という伝説について、ロジカルに検証をしています。特に、コーラが入った胃にメントスを入れても何も起こらないときに、その原因として2つ仮説を立てて一つずつ検証しているところなどは、一つの大きな課題を解決するには、小さな課題を地道に解決していくことで初めて得られる、ということを示唆しているようにも見えます。
もっともおふざけが過ぎているこの動画を中学生に見せるのは賛否が分かれるかもしれませんが…。

理科の研究授業って、とくに提案性の高い実験のときは、実験内容の妥当性(今回でいえば「塩化アンモニウムを使ったのは適切だったのか」など)を議論することが多いのですが、そうすると授業の構成についての議論が薄くなってしまうのですよね。私自身、今回のように授業の構成を考察することは珍しく、どちらかといえば、直感的・感覚的に生徒の反応を見ながら授業をしていくことが多いです。そういう意味で、貴重な機会だったといえます。