アルコールランプは、物を温めることなどに利用しています。
これは、エタノールが燃焼すると発熱することを利用しています。エタノールでなくても、都市ガスやプロパンガスなどの有機物を燃焼しても、熱が発生し、私たちはそれを調理や暖房に利用していますね。
そう考えると、私たちは化学変化で発生する熱のお世話になっているといえます。
でも、そこで一つの疑問が。
課題:化学変化では、熱はいつも発生するのだろうか。
実はここ、課題の設定が難しいところです。
ゴールとして、化学変化には熱の出入りが伴うことを見出して理解させる必要があります。しかし、それが結論となるような課題の設定の仕方が自然に作ることが極めて難しいのです。
各社の教科書を見てみると、ここの課題の設定は2つのパターンに分かれます。
一つは、導入で発熱する化学変化の例を挙げて「これ以外の化学変化でも熱が発生するのだろうか」という課題設定です。この場合、「熱が発生する化学変化だけでなく、熱を吸収する化学変化もある」という形で結論になり、「熱の出入りが伴う」みたいな言い方(もっというと発想)は出てきませんから、ちょっと強引にまとめる(まとめの表現をすり替える)必要が出てきます。
もう一つは、「化学変化と熱の出入りにはどのような関係があるのだろうか」という課題設定です。この課題を設定するには、その前に熱の出入り、すなわち熱の「出」だけでなく「入り」に触れる必要があります。そうすると、この時点で「熱が発生する化学変化だけでなく、熱を吸収する化学変化もある」(≒「化学変化には熱の出入りが伴う」)ことはわかっているので、ある意味この課題はすでに解決しているのです。したがってこの後に行う、化学変化の熱の出入りを調べる実験をしたところで、課題解決という視点では意味をなさなくなってしまっているのです。
ちなみに、いくらたくさんの化学変化で熱の出入りを調べたところで、「熱の出入りを伴わない化学変化はない」(=化学変化は熱の出入りを伴う)ことを証明したことにはなりません。熱の出入りを伴わない化学変化はあるのだけれど、たまたま、調べた中にはなかったのではないか、と言われるとそれを否定できませんから。でも、無数にある世の中すべての化学変化を調べるわけにはいきません。つまり、「悪魔の証明」ですね。
かくして、授業では(教科書も)このあたりをさりげなくごまかしてしれっと進めるのでした…。
[予想]
生徒の知っている化学変化で発熱して(温度が上がって)いるもの、可能ならば吸熱して(温度が下がって)いるものを挙げて考えてみよう。
[構想]
では、この課題を解決する実験を考えてみましょう。「他の化学変化でも、熱は発生するのだろうか。」というのだから、他の化学変化を起こして、熱が発生したかどうか、具体的には、化学変化の前と後に温度を測ればよいわけですね。
あとは取り上げる化学変化のセレクトですが、発熱反応の例としてはカイロなどがありますが、吸熱反応の例として挙げられる塩化アンモニウムと水酸化バリウムの反応は、生徒にとって「なぜこの化学変化を?」と唐突感あふれますね。毎度のことですが…。
[実験]
A.鉄粉と活性炭の発熱反応
ちなみに実験で使ったビーカーが、活性炭のせいで黄色くなって落ちなくなることがあります。
これを嫌って使い捨てのプラスチックコップを使ったら、耐熱温度が60℃のPET製だったので、熱で変形したものがありました。
ご注意ください。
B.アンモニアの発生
傘袋に水酸化バリウム3gを入れ、温度計も入れる。そこに塩化アンモニウム1gを入れ、傘袋にふたをして、水酸化バリウムと塩化アンモニウムを混ざるようによくもむ。
※温度変化がないようだったら、少量の水を入れるとよい。
化学変化が起こるとこうなります。
2NH4Cl + Ba(OH)2 → BaCl2 + 2H2O + 2NH3
アンモニアの他、水ができるためちょっとベタッとした感じになります。
そして温度は、おおむね5℃~0℃程度になりました。
[考察]
Aの化学変化では、温度が上がりました。つまり、熱が発生したのです。
Bの化学変化では、温度が下がりました。つまり、熱を吸収したのです。
したがって、化学変化では熱はいつも発生するとは限らず、吸収するときもある、といえます。
つまり、化学変化は熱の出入りを伴うのです。
さりげなく熱が発生も吸収もしない化学変化の可能性について無視して、結論をすり替えています。
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