0512【化学変化12】化学変化と熱(後編)
[解説]
前編のAの化学変化は、温度が上がりました。温度が上がったのは、化学変化によって熱が発生したからです。このような化学変化を発熱反応といいます。
これに対し、Bの化学変化では、温度が下がりました。これは、化学変化によって周囲の熱を奪われたからです。このような化学変化を吸熱反応といいます。そして、このとき出入りした熱を反応熱というのです。
ここで「発熱反応」「吸熱反応」という新しい用語が出てきましたが、それほど難しい話ではないと思います。熱くなったのを「発熱する」とは日常でも言いますから、逆に覚える人もまずいないでしょう。
が、この説明では「熱」と「温度」が明確に分けられて使われているところに気づきましたか。もちろん両者は違うのですが、生徒にどう違うかといきなり聞かれたら、うろたえる先生もいるのではないかと思います。本題ではないのであまりここのところは準備してないだろうし。
ざっくりとイメージを伝えると、メスシリンダーみたいな円柱形の容器に水が入っていて、
水(の量)…熱
水面の高さ…温度
と考えてもらえるとわかりやすいかと。すなわち、
水(熱)を加えれば、水面(温度)は高くなる。
水(熱)を奪われれば、水面(温度)は低くなる。
と。ここでの熱は顕熱に限り、容器の底面積は熱容量に該当するとか、言いたいことは他にもあるのだけれど、本論からずれるので触れないでおきます。
ところで、化学変化によって何もないところから原子がポッと発生したり、ただ消えてったりすることがないことはすでに学習しましたが、熱はどうなのでしょう。発熱反応は何もないところから突然、熱が生まれたのでしょうか。吸熱反応で奪われた熱はどこかへ行ったのではなく、ただ消えただけなのでしょうか。
明確な理由は説明できなくても「それはなんとなく変だぞ」という感覚を持っている人は、今までの理科の学習でセンスをきちんと磨くことができた人ではないかと思います。
改めて教科書には載っていないし、授業でも説明しませんし、私の知る限り理科教育の関係者でも、このような議論がされていることはありませんが、「自然の摂理」というか普遍的な法則の一つとして「あるものはあるし、ないものはない」的なものがあるように思えます。物質でもエネルギーでも、あるものはあって理由なく消えたりしないし、最初からないなら決して出てこない。突然出てきたリ消えたりしたのは、単に出てくる前や消えた後の姿が見えないからだ…という考え方は、理科の学習の中でストンと腑に落ちる場面が結構あるのですよ。
あともう一つ私が思っている普遍的な法則は「自然は変化を嫌う(理由なく変化しない)」。レンツの法則や慣性の法則などですね。
いえいえ、そんなことはありません。詳しくは3年生の「運動とエネルギー」で学習しますが、「熱」はエネルギーの一つの姿にすぎず、エネルギーの姿にはほかにも「音」だとか「電気」だとかいろいろあるのです。
発熱反応で熱が出てきたのは、何もエネルギーのないところから「熱」の姿のエネルギー、すなわち「熱エネルギー」が出てきたのではなく、他の姿のエネルギーから熱エネルギーに変わっただけに過ぎません。
同様に、吸熱反応では熱エネルギーがただ消えたのではなく、他の姿のエネルギーに変化したのです。
そして、発熱反応で熱エネルギーになる前のエネルギーの姿、吸熱反応で熱エネルギーが変化した後の姿を、化学エネルギーと呼ぶのです。
教科書などでは「もともと物質が持っているエネルギーを化学エネルギーという」などと書かれて、読むものを「はぁ?」とさせていますが、こういうことです。
水に食塩を入れると食塩水ができますね。
水 + 食塩 → 食塩水
水に食塩を入れると、食塩は見えなくなります。でも食塩はなくなったのではなく、食塩水の中にきちんと存在しています。その証拠に、食塩水は水と違って、舐めるとしょっぱい。
吸熱反応は端的に言うとこういうことです。
物質群A + 熱 → 物質群B
ここで、物質群Aを水、物質群Bを食塩水、そして「熱」を食塩と考えるとわかりやすいかと思います。
吸熱反応がおこると、温度が下がる、つまりあったはずの(熱)エネルギーが温度計で見えなくなります。でも、それはなくなったわけでなく、物質群Bのなかに存在しているわけですね。つまり、物質群Bはかつて熱だったエネルギーを持っている。そのエネルギーを化学エネルギーというのです。
発熱反応も考え方は同じですが、吸熱反応の方がわかりやすいのでこれで説明しました。
したがって、
発熱反応は 化学エネルギーが熱エネルギーに変わった
吸熱反応は 熱エネルギーが化学エネルギーに変わった
というわけです。
化学エネルギーって、なんか、化学変化で出入りする熱エネルギーの相対的な受け皿的ポジションですが、考えてみるこの熱エネルギーと化学エネルギーの関係は、運動エネルギーと位置エネルギーの関係に似ていますね。
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