0711 理科教師のための作問入門(2) 「活用」してても「知識」

 今どきの作問は、問題と模範解答だけ作ればいいというのではなく、三つある観点のうちどの観点についての問題か、というのも示しておかなければなりません。それがきれいに判断できるものならいいのですが、評価に関して相当なスキルのある先生の間でも、一つの出題に対し、「思考・判断・表現の問題だ」「いやこの程度なら知識・技能じゃね?」と意見が分かれて議論になることも少なくありません。そういうこともあり、作問の話をする前に、観点別評価についておさえておく必要がありそうです。

 現行の(中学校では令和3年からの)指導要領下の3観点になった評価といえば、「主体的に学習に取り組む態度」という真新しいものに全部持っていかれ、そっちは情報が過熱気味なのですが(それだけ情報があれば、自信をもって正しく評価できるのか、という本質的な問題には目を背けて)、残り2観点については、せいぜい「あ、知識と技能がくっついたのね」程度で、誰も見向きもしないように思えるのは気のせいでしょうか。

 そういうこともあり、今日はあえて「知識・技能」について取り上げます。

 平成31年1月21日に中教審の初等中等教育分科会 教育課程部会から出てきた児童生徒の学習評価の在り方について(報告)によれば「知識・技能」の評価について次のように書かれています。

②「知識・技能」の評価について
○ 「知識・技能」の評価は、各教科等における学習の過程を通した知識及び技能の習得状況について評価を行うとともに、それらを既有の知識及び技能と関連付けたり活用したりする中で、他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり、技能を習得したりしているかについて評価するものである

○ このような考え方は、現行の評価の観点である「知識・理解」(各教科等において習得すべき知識や重要な概念等を理解しているかを評価)、「技能」(各教科等において習得すべき技能を児童生徒が身に付けているかを評価)においても重視してきたところであるが、新しい学習指導要領に示された知識及び技能に関わる目標や内容の規定を踏まえ、各教科等の特質に応じた評価方法の工夫改善を進めることが重要である。
 具体的な評価方法としては、ペーパーテストにおいて、事実的な知識の習得を問う問題と、知識の概念的な理解を問う問題とのバランスに配慮するなどの工夫改善を図るとともに、例えば、児童生徒が文章による説明をしたり、各教科等の内容の特質に応じて、観察・実験をしたり、式やグラフで表現したりするなど実際に知識や技能を用いる場面を設けるなど、多様な方法を適切に取り入れていくことが考えられる。

 なかなかシレッと重要なことが書いています。ここでお話ししたいことと関連する部分を太字にしました
 一つ目の○の太字は、他の学習や生活の場面でも活用できる程度にというフレーズ。その程度に概念等を理解したり、技能を習得したりしているかについて評価するのです。
 ということはですよ、活用できるかどうかをみる問題だからといって、それだけで評価の観点が「思考・判断・表現」になるわけではない、ということになりますよね。「知識・技能」の問題になることもあるわけです。

 ここで、現行(平成29年告示)学習指導要領下である令和4年版と、前(平成20年告示)学習指導指導要領下である平成30年版の全国学力調査の解説資料から、「構想」や「分析・解釈」などの視点を整理した表を、特に「活用」という言葉がどこに使われているかに注目して比べてみましょう。(視点の提示)

平成30年全国学力調査解説資料より

令和4年全国学力調査解説資料より

お分かりいただけただろうか…

平成30年の方ではまず、問題の枠組み自体が「知識」と「活用」に分けられ、「知識」は評価の観点でいうと「自然事象についての知識・理解」と「観察・実験の技能」を含み、主な視点でいえば前者が「知識」、後者が「技能」となったわけです。そして、活用はそのまま評価の観点「科学的な思考・表現」となっており、適用、分析・解釈、構想、検討・改善の4つが主な視点としてありました。
 で、4つのうちの一つ「適用」の説明に、「日常生活や社会の特定の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することを問う。」と、活用という言葉が入っています。
 このときは、まだたしかに 活用=科学的な思考・表現 だったといえます。

 これに対して、令和4年はというと、「知識」「活用」という枠組みがありません。評価の観点から始まっています。だからシンプルに1つの表にまとめられています。そして「適用」の視点がなくなっています
 なぜでしょうか。
 平成30年度の「適用」の説明をもう一度見てみましょう。

日常生活や社会の特定の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することを問う。

これと先ほどの児童生徒の学習評価の在り方について(報告)の一文

他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり、技能を習得したりしているかについて評価する

 この2つの文章、ある場面で知識や技能を活用する(しているか)ということで、ほぼ同じことを指していますよね。そうすると「適用」の問題は、現行の指導要領では「知識・理解」の範疇にならざるを得なくなったため、令和4年版には、なくなってしまったというわけです。

 やはり、現行の学習指導要領下では 活用=思考・判断・表現 ではないということが分かります。
 別の言い方をすると、前学習指導要領下では「科学的な思考・表現」だったのがそのまま現行の指導要領下での「思考・判断・表現」になるわけではない、ということになりますが、貴重な「思考・判断・表現」の材料が減るわけですから、ただでさえ「主体的な学習に取り組む態度」の評価で苦しんでいる先生方から「いらん事言いやがって仕事が増えた」といわれそうなので、というか私自身評価で苦しむ一人なので、声を大にして言わず、ここだけの話にしておきます…。

 ところで、令和4年版の「評価の観点と問題作成の枠組み」には「活用」という言葉はどこにあるでしょうか。こともあろうに、「知識」のところにあります。

「事実的な知識」の問題では,自然の事物・現象についての基礎的・基本的な理解を問う。「知識の概念的な理解」の問題では,「事実的な知識」を既有の知識と関連付けたり活用したりする中で,他の文脈で活用できる程度に概念等を理解しているかを問う。

「知識」の中にも「活用」があるとことは、もう逃げられない事実となってしまいました。あなおそろしや。

 するとですよ、例えば平成27年度の全国学力調査の1(3)

花子:でも,水上置換法では,発生した二酸化炭素の正確な体積は,はかれないよ。
(3) 下線部の理由を,二酸化炭素の性質にふれて書きなさい。
平成27年度 全国学力調査 中学校理科 1(3)  「二酸化炭素の性質にふれて」には波線のアンダーライン

 この正答例は「水に〔少し〕溶けるから。」ということで、水上置換法で気体を集めるという場面で、空気より密度が大きいとか、燃えないとか、石灰水が白く濁るとかいう数多の二酸化炭素の性質に関する知識から、「水に溶ける」という知識をセレクトするという判断(活用)ができるか、という問題です。平成27年度時点では学力調査の主な視点でいえば「適用」であり、評価の3観点でいえば「科学的な思考・表現」となっていましたが、現在の学習指導要領下では、視点でいえば「知識」になり、評価の3観点でいえば「知識・技能」に分類されます。
 つまりこの場面ではこの知識を使おう、という判断(活用)は、他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解しているかという、「知識」の範疇なのです。
 ここ、何気に大変なことだけど、みんなスルーしている気がします。まともに対応すると現場が大混乱する(私も大混乱する一人ですが)けど。

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