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0298 ユールストローム図

 「流れる水のはたらき」でおなじみの侵食・運搬・堆積の3つの作用で、都合よく上流で侵食が、下流で堆積が起こるのはどうしてでしょうか。これには流れる水の速さと侵食されたり・運搬されたり・堆積されたりする土砂の大きさ(粒径)が関係しています。

 その関係は1939年にスウェーデンの堆積学者フィリップ・ユールストロームによって示されました。それが次のグラフ、ユールストローム図(ユールストロームダイアグラム)です。今日はこのグラフを味わってみましょう。

Relationship between average current velocity in a river and sediments of uniform texture showing velocities necessary for erosion, transportation, or deposition. (出典:Hjulström, Filip. 1939. Transportation of detritus by moving water. p. 5–31 in Trask (ed.), Recent marine sediments, 1939. ただし本画像ファイルはThe Oceans Their Physics, Chemistry, and General Biology のサイトから引用)
 なお、この図はユールストロームが1939年に示した「元祖」で、その後に多くの研究によって検討・改善がなされています。
 また、礫・砂・泥の境界が2の累乗で示されるので、2を底とした対数目盛で示されることもあります(後で登場するセンター試験の問題を参照)

 ユールストローム図は、流速と粒径の条件によって侵食(Erosion)・運搬(Transport)・堆積(Deposition)のどの作用が起こるかを示した図で、横軸は粒径を0.001mmから100mmまで、縦軸は流速を0.1から1000cm/sec の範囲で両対数グラフで示しています。

で、粒径の大きさが1㎜のところで色のついた線を引いてみます。

 すると、流速が20cm/sec以上、すなわち図でAのグラフより上(青い線の部分)では、侵食作用が(運搬作用も)おこることがわかります。もっとも、正確に言うと、海底や川底に沈んでいる砕屑物を巻き上げて運ばれ始めるという意味です。

 一方、流速が7cm/secを切る、すなわち図でBのグラフより下(赤い線の部分)だと、1mmの土砂を運ぶエネルギーがなく、落としてしまう。つまり堆積の状態になるわけです。
 AとBの間(灰色の部分)は、侵食はしないが、堆積もしない、運搬だけ行う範囲です。
 つまり、流速が速いと侵食、遅いと堆積というわけです。

 一方、粒径の大きさはどのように関わっているのでしょうか。粒径が大きいと重くなるので、粒径が大きいと堆積し始める速度は大きいということが予想できます。

 実際に運搬と体積の境界線Bはそのようになっています。とくに粒径が0.015mm以下の部分(図のY)ではついにグラフが途切れています。つまり、これは速さ0、流れが止まっていても水中にふわふわしていて沈まないということ。
 ところが面白いのが侵食のグラフAで、粒径0.8mmくらいのところを谷にしてV字になっています。つまり大きすぎても小さすぎても侵食するには速い流速が必要、つまり侵食しにくい、ということ。0.8mmより大きい側は、大きいほど重くなるので削る力=流速が必要、というのはわかるのですが、小さい方はどういうことなのでしょう。小さい粒はすき間も狭いですね。水がその狭いすき間に入りこんでも、水の粘性のために動きにくくなり、ちょうど小さい粒と粒をくっつけるような働きをしてしまいます。そうするとあたかも一つの大きな石のようになってしまい、流速が必要になってくるのです。粒径が小さければ小さいほど、水が小さな砂や泥をくっつけまくって大きな塊のようにふるまってしまうのです。

これに関連して 2012年のセンター試験の地学Ⅰの第3問B を見てみましょう。

次の図3は水中で堆積物の粒子が動き出す流速および停止する流速と粒径と の関係を水路実験によって調べて示したものである。曲線Aは徐々に流速を 大きくしていった時に静止している粒子が動き出す流速を示す。曲線Bは 徐々に流速を小さくしていった時に動いている粒子が停止する流速を示す.

問5
 三つの水路に粒径1/32mmの泥、粒径1/8mmの砂、粒径4mmの礫を 別々に平らに敷いた。次に、流速0cm/sの状態から、三つの水路の流速が等しくなるようにしながら、徐々に流速を大きくしていった。このとき、図3に基づくと、水路内の粒子(泥、砂、礫)はどのような順序で動き出すと考えられるか。 粒子が動き出す順序として最も適当なものを次の①~⑥ うちからーつ選ぺ。
①泥→砂→礫  ②泥→礫→砂  ③砂→泥→礫  ④砂→礫→泥   ⑤礫→泥→砂  ⑥礫→砂→泥

問6
 次のア~ウは,前ページの図3中の領域I~Ⅲについての説明である。領域I~Ⅲと説明ア~ウの組合せとして最も適当なものを,下の①~⑥のうち からーつ選べ。
ア運搬されていたものが堆積する領域
イ運搬されていたものは引き続き運搬されるが,堆積していたものは侵食・運搬されない領域
ウ堆積していたものが侵食・運搬される領域
 領域Ⅰ 領域Ⅱ 領域Ⅲ
① ア    イ    ウ
② ア    ウ    イ
③ イ    ア    ウ
④ イ    ウ    ア
⑤ ウ    ア    イ
⑥ ウ    イ    ア

問6 の正解は⑥です。解説はいりませんね。問6だけなら紹介しませんでした。
問題は問5です。

1/32mmの泥、1/8mmの砂、4mmの礫、それぞれの、曲線Aとの交点における流速は小さい順に砂⇒泥⇒礫です。
つまり③なわけですが、粒径の小さい順でも大きい順でもなく、真ん中から、というのがなかなか渋いです。

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廣木 義久、ユールストロームダイアグラム―流水による砕屑物からなる地層の形成の理解,地学教育 2019 年 71 巻 3 号 p. 97-107 

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