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0093 石灰ふしぎ発見!(前編)

 タイトルと某テレビ番組は無関係です。

 しかし石灰は世界と同様に混乱に満ちています。
 「石灰」には「生石灰」「消石灰」「石灰石」「石灰岩」などがあり、関連して「石膏」「漆喰」などがあります。さらに肥料としては「苦土石灰」とか「有機石灰」とかなんとか。物質としても炭酸カルシウムとか酸化カルシウムとか水酸化カルシウムとか硫酸カルシウムとか、一般人にとってはもうわけわかりませんね。

 ということで石灰に関する用語を整理してみました。

石灰

 まずは権威に頼ってみようということで、日本工業規格JIS R9200 : 2016「せっこう及び石灰に関する用語」から。なお、用語のあとの3桁の数字は用語につけられた番号。さらに、参考として対応英語が書かれていたので参考までに載せておきます。
 ということで「石灰」はどう書かれているでしょうか。

石灰 084 lime
生石灰,消石灰の総称。石灰石も含める場合もある。

 「石灰」と一口に言っても複数の種類の物質をさしていることになるんですね。ややこしさの原因の一つはここにあります。
 では「生石灰」「消石灰」「石灰石」について調べてみましょう。


生石灰

生石灰(きせっかい) 021 quicklime
石灰石をか焼したもので,主成分は酸化カルシウム。水を加えると水和して消石灰となる。生(せい)石灰ともいう。

 「か焼」とは「炭酸塩,水酸化物,水和物などを二酸化炭素若しくは水の一部, 又は全部が消失するまで焼く操作。(014)」です。ちなみにこの説明は2016年版ですが、改定前の1999年版では「炭酸塩,水酸化物,水和物などを二酸化炭素又は水の一部, 若しくは全部が消失するまで焼く操作。」と、「又は」と「若しくは」が逆になっていました。超どうでもいい話ですね。

それより、「生(せい)石灰ともいう」ということは「きせっかい」が本来の読み方なのでしょうか。、「生(せい)石灰」を調べると

生石灰(せいせっかい) 082 quicklime
021 生(き)石灰を参照。

となっていますし。(単に五十音順で後だからという理由かもしれませんが)

 「生糸」「生真面目」あたりの熟語から察するに、純粋な石灰ってことなんでしょうかね。
 一方、水との激しい反応が生きているように見え、「生石灰」となったという説もあります。英語のquicklimeのquickは、古語で「生きている」.という意味で、これを和訳したというわけです。

 で、その酸化カルシウムについておさえておきましょう。

酸化カルシウム 059 calcium oxide
CaO。立方晶系。融点 2572℃。密度 3.37g/cm3 。生石灰の 主成分。カルシアともいう。

 生石灰・酸化カルシウムは乾燥材に使われています。水と貪欲に発生し、水酸化カルシウムになります。なおこのとき、大量の熱を発生するため、生石灰の乾燥材を水の多いところに置くと、無茶無茶熱くなってしまいます。
 逆にこの性質を利用してひもを引っ張ると熱くなる駅弁にも生石灰が使われています。
 さらに酸化カルシウムとフェノールフタレイン(溶液ではなく固体)を使って水の検出ができます。すなわち、これに水が入り込むと、酸化カルシウムが水酸化カルシウムになってアルカリ性、これをフェノールフタレインがキャッチして赤くなると。なるほど!


消石灰

消石灰 073 hydrated lime, slaked lime
生石灰に水を反応させて得たもので,主成分は水酸化カル シウム。

 どうして「消」石灰というのでしょうか。
 消石灰は英語でslaked lime といいます。slakeしたlimeというわけですが、この slake は水を反応させる「消和する」、名詞化した slaking には「消和」という和訳が充てられています。ただし、 JIS R9200:2016では(その前の1999年版でも)「消和」ではなく「消化」という用語で掲載されています。

消化 000 hydration, slaking
生石灰又は軽焼ドロマイトに水を反応(水和)させる操作。 工業的には乾式及び湿式消化がある。

「消化(消和)した石灰」ということで「消石灰」のようです。

 さて、消石灰の主成分の水酸化カルシウムはというと

水酸化カルシウム  076 calcium hydroxide
Ca(OH)2。六方晶系。密度 2.24g/cm3 。450~550℃で脱水し酸化カルシウムとなる。消石灰の主成分。

 水酸化カルシウムは劇物になってないものの、強塩基で、目に入って失明した事故もあります。
1)平成3年7月、農作業中に消石灰が両目に入り、2回も角膜を移植したにもかかわらず、失明となった49歳女性の事例
2)平成16年8月、小学校で運動会の練習中、隣にいた奴に消石灰をかけられ、失明は免れたものの角膜周辺の一部に混濁が残ってしまった10歳男児の事例
 そういうことがあり、日本眼科医会から文科省に学校での水酸化カルシウムを使用禁止にするよう要望し、文科省もそれに応えて通達を出しています。
なお、その後も、平成23年4月、80代女性が農作業中に消石灰が両目に入り左目を失明した事例が発生しています。
 このリンク、国民生活センターの報道発表資料だったんだけどリンク切れ。どうやら、2011年以前は削除されているようだ…安全のために周知したい重要な事例なのになぁ。予算削減のあおりだろうか。
 そういうこともあり、現在ではサッカー、野球、運動会などのライン引きに使用するラインパウダーには基本的に消石灰ではなく炭酸カルシウムが使われています。

石灰水

で、この水酸化カルシウムの飽和水溶液が、言わずと知れたあの石灰水です。

 これは、石灰水採水びんです。普通の採水びんとは違い、蛇口が一番下の位置ではなく、ちょっと上に取り付けられています。これでは底の方の石灰水は汲めなくて不便なような気がしますが…。

 それはこういうことです。水酸化カルシウムの水100gに対する溶解度は0.185g(0℃)、0.077g(100℃)。ということは、500gの水に1gも溶けないのですよ。そうすると石灰水をつくるには、はかりなんていらないわけです。採水瓶にサッと水酸化カルシウム入れて(粉末が目に入らないように注意)、水をジャーッと入れて(水酸化カルシウムの粉末が目に入らないように注意)、適当に振った後放置しておけば、底に溶け残りの水酸化カルシウムがたまって、上澄み液が石灰水という塩梅です。なので、下に蛇口がついてると、溶け残りの水酸化カルシウムのところにあたってしまうので、少し上の位置にあるわけです。

しっくい

 また、消石灰関連で「しっくい」もチェックだ。

しっくい 068 Japanese lime plaster
消石灰(貝灰を含む)に,すさ,砂,のり材などを混ぜ,練ったもの。しっくい塗りは,我が国の伝統的な左官工法である。

焼石灰

 ところで、焼石灰というまぎらわしい名称があります。
「しょうせっかい」ということで「消石灰」の誤変換、別名かなと思いきや、CaOすなわち生石灰をさすんですね。石灰石(石灰岩)を焼くと生石灰ができるところからこの名がついたそうです。
CaCO3→CaO+CO2

生石灰に水を加えると発熱して消石灰ができ、
CaO+H2O→Ca(OH)2
消石灰を加熱すると水が取れて生石灰ができます。
Ca(OH)2→CaO+H2O

「生石灰」「消石灰」だけでこれだけ長くなってしまったので、「石灰石」などについては後編で。

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