0791 理科教師のための作問入門(12) 問い・ストーリー

2024年6月6日

 なかなか長いシリーズとなっています理科教師のための作問入門。実は20回まである予定です。今日はストーリーの後半。実際の事例を見ていきましょう。

 ストーリーを導入することで、理科を学ぶことの意義や有用性が実感できる点、内容的に離れた複数の小問を一つの大問の中で自然に問いやすくなるというメリットもある、ということは前回お伝えしました。今日はストーリー性の強い具体的な問題をみていきましょう。

離れた内容の小問を一つの大問の中で問う

 これはストーリーというより問題文の形式といった方がいいかもしれません。会話やレポート、あるいは単なる文章をまず出して、会話やレポートを区切るなり傍線を引くなりして、そこにまつわる小問を出題していくパターンです。なおこの場合、ストーリーというわけですから、会話なりレポートなりで大きな一つのテーマがあるということは出題者に守ってほしい最後の砦です。
 いくつか問題例を見てみましょう。

【会話形式の例】2004

 てつや君は,右の図1のようにヘチマの花の断面をスケッチして,先生に見てもらいました。次の文章は,そのときの会話です。
てつや君「先生,ヘチマの花をスケッチしてきました。」
先生「どれ,よくかけているね。」
てつや君「これは何ですか。先に黄色い粉がついていま した。」
先生「それは(①)だね。先についた黄色い粉は (②)といって,ヘチマが実をつけるのに必要なんだよ。」
てつや君「この粉を拡大して見てみたいです。」
先生「それなら,あとで③けんび鏡で観察してみよう。
てつや君「ヘチマの実はどこにできるのですか。
先生「⑤」
てつや君 「ふーん,そうなんですか。」
先生「てつや君,この花をアサガオの花と比べてみたらどうかな。」

 これは平成16年度ごろ、つまり前回の話でいえばストーリー性のある問題が登場し始めた頃に作られた問題です。
 図1は省略しますが、ヘチマの雄花が描かれています。問1として①おしべ②花粉 を聞く問題、問2として③の顕微鏡の操作について、問3として、④の答えとなるように⑤の先生のセリフを考える、問4として⑥にあるようにヘチマとアサガオの花でどことどこが対応するかを問いています。
 ここのポイントは問3で、ヘチマの雄花のスケッチだけを見せて、てつや君も先生も「雄花」とは一言も言わないで、解答者に雌花の存在を指摘できるかどうかをみるという、会話形式を使わなければなかなか問いづらい点を出題しています。

【発表原稿形式の例】2016

 あきこさんは、気象庁にある気象科学館を見学したときのことをクラスで発表しています。下の文章はその内容です。後の各問に答えなさい。
 気象科学館では,まず,学校にもある[ あ ]を見つけました。[ あ ]は,①気温を正確に測る工夫がされていますが,実は20年以上前から気象庁では,[ あ ]を使っての気象観測はしていないと聞いて,びっくりしました。
 現在は,機械で自動的に計測されているそうです。天気予報などの雨量情報で出てくる[ い ]は,全国1300か所で自動的に計測した気温や雨量などのデータをまとめている システムです。
 次に,「ひょっとして大雨キューブ」というコーナーを体験しました。光や音,風などが起き,本物の大雨のようでこわかったです。②大雨が降って、川の水の量が増えると、流れる水の働きが変わることを思い出しました。
 大雨のとき東京のような都市部では,特に[ う ]では水があふれやすいので気をつける必要があることや,建物の中でも[ え ]は注意が必要なことも説明されていました。
 それから、去年から使われている、気象衛星の[ お ]8号の模型を見ました。
[ お ]は,③地球の周りをまわっていますが、地球自身がまわる速さといっしょにまわっているので、地球から見ると止まっているように見えるのだそうです。
[ お ]が撮影した④日本付近の台風の画像も見せてもらいました。
 他にも地震や火山のコーナーもありました。いろいろな⑤火山灰が展示してありました。
日本には火山がたくさんあり,噴火が起こると私たちに大きな災害をもたらしますが,一
方で⑥火山はさまざまな恵みを私たちにもたらしてくれることにも気がつきました。

問1 [ あ ]の写真(百葉箱)を示し、これは何かと問う問題
問2 ①に関して百葉箱の気温を正確に測る工夫を選択肢から指摘する問題
問3 [ い ]を答える問題
問4 ②に関連して水の量と流れる水の働きの関係を調べる実験を計画する問題
問5 [ う ][ え ]に入る語の組み合わせ(小さい川・地下室)を選ぶ問題
問6 [ お ]を答える問題
問7 ③のように地球の周りをまわっている星を答える問題
問8 ④日本付近の台風の画像を指摘する問題
問9 ⑤火山灰の特徴として正しいものを指摘する問題
問10 火山による恵みの例を挙げる問題

 と、気象領域のみならず、火山や流れる水の働きに関する問題も含めた地学領域の総合問題となりました。

理科を学ぶことの意義や有用性が実感できる

 離れた内容の小問を一つの大問の中で問うパターンは、無理やり力技でこじつけることもでき、比較的作りやすいのに対し、探究の流れに沿って展開することで理科を学ぶことの意義や有用性を実感できそうな問題は、なかなか難しいです。
 ここでは、前回もふれた、平成24年度の全国学力調査の中学校理科の大問4を鑑賞してみたいと思います。すごいんだからもう。

 ストーリーの最初は、弟の和宏さんが新しい卵と古い卵が混ざって困っているところを、姉の望さんが、お姉ちゃんの知恵袋ってことで、食塩水に浮くのが古い卵、沈むのが新しい卵で見分けがつくと教えてくれます。もうこの時点でへーって感じですよね。つかみはOK!

 さらに実際にやってみると、浮いた卵のとがっている部分が下になることに気づき、なぜだろうと思い、調べて、図をうつしてきたのだけれども、和宏さん、ちょっとポンコツなようで…それが問いにつながっていく。

 次に少々唐突感はあるものの、沈んでる卵に浮力があるのか疑問に思い、実際に調べます。
 それからもっと濃い食塩水で新しい卵も浮いたことから、ポンコツ和宏さんは、食塩水をどんどん濃くしていけば,卵どころか何でも浮かせることができるかもしれない、と調子こいて、お姉さんにたしなめられます。

 とどめに望お姉さんは、学校の先生からネタを仕入れて、卵が食塩水の入った水槽の真ん中で止まっている状態を作ります。こうなったのは食塩水がどういう状態だからかを二人は考えるのですが、二人の考えは違っていました。どちらが正しいか考える実験を計画したところでストーリーが終わります。

 私がこの問題で特に気に入っているのはこのラストです。実験を計画したところで問題文は終わっており、その結果は、どちらの考えが正しかったかは、問題を解いている中学生たちには知らされないままなのです。
 そうすると、ある感情が芽生えませんか。「実際どっちが正しいんだろう、確かめてみたいな」
 「さっそくやってみようよ」という和宏さんの最後のセリフは、望お姉さんに言っているのでしょうが、私には同時にこの調査を受けている中学生たちにも誘っているような気がしてならないのです。
 ただ問題を解いているだけではなく、実際に科学的に探究したくなる、そういう出題です。

 さすが全国学調!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれるあこがれるゥ!