リスクアセスメント ステップ1
(7)からだいぶ時間がたってしまいました。ここからは実際のリスクアセスメントの実践編になります。やってみて気が遠くなったために前回から間が開いてしまったのは秘密です。
さて、リスクアセスメントの実施の流れのステップ1を見てみましょう。化学物質管理者講習テキストより
ステップ1は化学物質などによる危険性または有害性の特定 ということですが、ここで早速ため息となります。
対象となる化学物質のリストアップ
ここでいう「化学物質など」は、自律的な管理という趣旨からすると、学校で取扱っている化学物質を全て、というのが原則です。はぁ~(ため息)。
したがって学校で取扱っている化学物質を全てリストアップしなければなりません。ただこれは薬品管理簿で一網打尽にできるはずです。うちの学校では大学で使っているIASOという薬品管理システムに便乗させてもらっているので、一覧がエクセルファイルにダウンロードできます。
で、これ全部調べるのか…と途方に暮れながらリストアップした化学物質を見ていくうちに、でも例えばデンプンやショ糖よりは硫酸や塩化銅などの方がヤバそうなので優先して調べた方がいいんじゃないか、という発想は理科の先生なら化学が専門でなくても自然に出てくるのではないかと思います。
このシリーズの初回でもあったように、2024年4月1日現在896物質ある リスクアセスメント対象物、つまりリスクアセスメントをすることが義務づけられている物質には、アルミニウム、エタノール、塩化アンモニウム、塩化水素(つまり塩酸)、過酸化水素、水酸化カルシウム(石灰水もですね)、水酸化ナトリウム、銅、塩化銅(Ⅱ)、硫酸銅(Ⅱ)五水和物、水酸化バリウム、塩化バリウム、二酸化マンガン(Ⅳ)、硫酸など、中学校の実験でもおなじみの試薬も数多くあり、これらは直ちにやらなくてはなりません。
なお、「この物質は対象物質なのかな?」と悩んだら、職場のあんぜんサイトの表示・通知対象物質(ラベル表示・SDS交付義務対象物質)の一覧・検索に物質名、もしくはCAS No.(「物質名 CAS」で検索すれば出てきます)をぶち込めば。判断してくれます。
「1件の該当物質がありました」と出れば、対象物質と確定します。
「該当物質はありません」なら、たぶん対象物質ではありません。
詳しい説明を読むと、「酢酸コバルト」など金属塩の場合、対象物質群「コバルト及びその化合物」の1つなので対象物質になりますが、そこまで細かいところをカバーしきれずに「該当物質はありません」とされることがある、という旨書かれていますが、塩化銅や硫酸銅(銅及びその化合物)も二酸化マンガン(無機マンガン化合物)もきちんと「該当物質がありました」と出てくるので、中学校にありそうなメジャーな物質では気にしなくてよいと思われます。
リスクアセスメント対象物になっていない、デンプンやショ糖などは現時点ではマストではありません。ただ、GHS分類により危険性・有害性が認められる物質に対するリスクアセスメントは努力義務がありますので、マストな物質のリスクアセスメントが終わったら、やろうとしましょう。
2024年4月1日現在、リスクアセスメント対象物になっていない意外な物質として、硝酸カリウムがあります。消防法では危険物なのに…。一方、「アンモニア水」では「該当物質はありません」だけど、「アンモニア」で「1件の該当物質がありました」と出てきて、表示裾切0.2%なので、10%アンモニア水は余裕で対象物質です。
さらに、「尿素」で検索すると「11件の該当物質がありました。」あとあったものの、チオ尿素とか尿素という言葉を含む物質ばかりで、ただの尿素は対象外でした。
このほか、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムは対象物質ではないのに、これらの中間的な物質であるセスキ炭酸ナトリウムがリスクアセスメント対象物というのも摩訶不思議な話です。
危険性・有害性の調査
リストアップが終わったら、それらの危険性・有害性について調査します。SDSをみれば、危険性・有害性についてGHSの判定基準にしたがって分類された結果が載っていますから、それを利用します。
前もお話ししましたがSDSは物質名と「SDS」の2語で検索すれば出てきます。
SDSの 2.危険有害性の要約 からGHSに基づく危険性・有害性が「引火性液体 区分2」とか「特定標的臓器毒性(反復ばく露)中枢神経系, 視覚器 区分1」とか出てきますので、それをコピペしましょう。
なので作業自体は決して難しいわけではありません。ただ何十種、高校だともしかしたら何百種?もあるので気が遠くなるだけです。
そこで、中学校の教科書に載っている物質についてリストアップし、リスクアセスメント対象物に該当するかどうか、該当する物質はそれらの危険性・有害性を富士フイルム和光純薬のSDSから拾った表を置いときますので自由に使ってくださいな。
リスクアセスメントする物質のリストアップで途方に暮れている先生の一助となれば幸いです。
で、さらにこれらの物質について、どう扱うか作業手順などもチェックしておく必要があります。濃塩酸なんかは、希釈する作業もあるでしょう。石灰水を買うのではなく、水酸化カルシウムから作るのでしたら粉末が目に入るというリスクも生じます。
まとめ
リスクアセスメントの第1歩、化学物質などによる危険性または有害性の特定は
①すべての化学物質の中から対象物質をピックアップする
②その物質のSDSに書いてある「危険有害性の要約」をチェックする
これらの作業にはネットのツールが便利です。
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