2019 鉄と硫黄に代わる2種類の物質を反応させる実験の検討 ―銅と硫黄、銀と硫黄の反応―(前編)

2025年8月24日に第75回日本理科教育学会全国大会(富山大会)に参加したときの一般研究の発表です。

鉄と硫黄を反応させる実験の問題点

「化学変化と原子・分子」における実験

 中学校第2学年「化学変化と原子・分子」での実験については、学習指導要領本文で行うとされている生徒実験は「物質を分解する実験」「2種類の物質を反応させる実験」など示されており、決して特定の化学変化で生徒実験をやるように指定しているわけではありません。一方、教科書では生徒実験については具体的な化学変化がとりあげられていますが、現行の中学校理科の教科書会社は5社あるものの、生徒実験で扱う化学変化には、あまりバリエーションがありません。とりわけ、「2種類の物質を反応させる実験」については、5社とも鉄と硫黄を結び付ける化学変化で、これはずっと変わっていません。

鉄と硫黄を結びつける実験

この鉄と硫黄を結び付ける実験は、鉄と硫黄を混ぜてその一部を試験管に入れて加熱し、化学変化をおこします。そしてこの化学変化がおきたあとの硫化鉄と、起きる前の鉄と硫黄の混合物の性質を、見かけや導電性、磁石、塩酸との反応などで比較し、化学変化の前後で性質が異なるから別の物質になった、すなわち化学変化が起こった、ということが分かります。

鉄と硫黄を結びつける実験の問題点

 ところがこの実験では、大変事故が多いことで有名な実験です。最後の段階で硫化鉄に塩酸を加えたときに発生した硫化水素を吸って体調不良を訴えるというのが有名で、毎年5月ごろにはこの事故がニュースになっています。今年の5月にも、東京都江戸川区で事故が起こるなど事故が起こっています。

 ただし、この実験ではこれ以外にも事故の事例があり、鉄と硫黄を反応させているときに発生した硫黄の蒸気や二酸化硫黄を吸って体調不良を訴えた事例や、これは授業後ですが、未反応の鉄と硫黄をゴミ箱に捨てていたら、水分により反応が起こり発火して小火になったという事故があります。そのため、授業者は、誰もいない理科室で一人寂しく余った大量の未反応の鉄と硫黄を加熱して反応させてから処分しなくてはならず、結構な手間がかかります。
 その他学校ではないのですが、製油所等で粉末の硫化鉄が乾燥して自然発火した事故も結構な件数あります。ただ学校の事故ではこのパターンは聞いたことがないので、石油のような極端に燃えやすいものがなければ、リスクはそれほど大きくないのかもしれません。
 それでも、化学物質のリスクアセスメント上では、化学物質によるリスクが無視しづらいレベルで見積もられます。

代替案を探す

リスク低減措置の内容の検討

 リスクアセスメント上、このようなときは、リスクを削減するための措置をどうするか検討します。
 労働安全衛生法を管轄する厚生労働省が「化学物質管理者」を養成するために作成した「化学物質管理者講習テキスト」によると、リスク削減措置にも検討する順番があり、優先すべき順から、本質安全対策、工学的対策、管理的対策、保護具の着用とあります。
 最初の「本質安全対策」は、化学物質を使わない、あるいはよりリスクの小さいものに変える、量を減らすなど使用条件を変えることなどがあります。この実験ではかつてある教科書会社では、鉄と硫黄の混合物をアルミニウム箔でキャンディのように覆い、アルミニウム箔ごと空気中で加熱するという実験をしていましたが、鉄と硫黄の混合物を脱脂綿で栓をした試験管に変えたところ、硫黄の蒸気や二酸化硫黄を吸った事故は激減しました。ただし、最初から試験管でやっていた教科書もあります。
 2点目の「工学的対策」はシステムや装置などのハード面での対策です。ここでは窓やドアを開けたり、換気扇を回すなどの換気を徹底することが該当しますが、それでも一般的な中学校の理科室では、十分な換気の効果を得ることは難しい側面もあります。窓を開けて風が入ることにより、ガスバーナーの炎が乱れてしまうため、加熱時はやむを得ず窓を閉めざるを得ない時さえあります。
 3点目の「管理的対策」はマニュアルやルール、安全教育などをさします。教科書を見ればにおいのかぎ方などの注意事項は書かれていますし、今年の5月の東京都江戸川区の事故のニュースでも、先生はにおいのかぎ方について説明していた(が生徒が誤ってかいでしまった)と報道されています。話を聞いてくれる生徒ばかりではないという現実がある以上、学校では管理的対策では限度があるといえます。
 そしてそれでも残ってしまったリスクを減らすために保護眼鏡やビニール手袋などの保護具を着用することがありますが、有害な気体を吸い込むという事故には無力です。いくらなんでも防毒マスクの着用は現実的ではありませんし。

 そこで追加のリスク低減対策として「本質安全対策」に含まれる二点を検討しました。
 一つは化学物質の変更ということで、鉄と硫黄の代わりになる化学変化をさがすこと
 二つ目は実験をマイクロスケール化して、必要となる化学物質の量を減らすこと です。

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