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0484 硫化鉄は案外危険かも

鉄と硫黄を加熱して化合させ、硫化水素を作る実験は、中学2年の定番実験の一つです。中学理科のどの教科書でも生徒実験として扱われ、中学校3年間の中でも1,2を争う臭い実験で覚えている人も多いと思います。

さて、この実験では、事故が起きやすく、新聞などでニュースになることもあります。

多くは実験で発生した硫化水素や硫黄の蒸気を吸い込んで気分が悪くなったというものです。教科書などでも換気をするようにと書いていますが、窓を開けると風が入ってガスバーナーの炎が揺らいだりするため、窓を全開にすることができないのも事実です。換気扇は回していても焼け石に水。もちろん中学校ですから、ドラフトなんてものは存在しません。なのである意味詰んでいます。

これだけ事故の多い実験なので、できればやりたくないのですが、酸化ではない化合の実験で手軽なものは他にないために、しょうがなく鉄と硫黄の化合をやっている、というのが正直なところでしょう。

余談ですが、水の電気分解を危険な水酸化ナトリウムでやるのはいかん!他の物質(たとえば硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウム)でやれ!と思うのですが、他の物質では、かけるべき電圧が大きくなったり、電極を選んだり(白金電極がベストなんだけれどプラチナだけに高い)するのでなかなか難しく、教科書などでは物質を安全なものに変えるのではなく、実験器具を工夫して安全を確保しようとしていて、いろいろな教材・教具が出ています。その方が教材会社は儲かるからでしょうか…。

それはともかく、どこかの中学校でこの鉄と硫黄の実験でまた事故が起こったようなのです。ただ、硫化水素で気分が悪くなったというのではなく、実験後に,アルミニウムはくの包みを可燃物用のゴミ箱に捨てたらボヤ騒ぎになった、という案件です。

もっともこれは、硫化鉄によるものというよりも、むしろ未反応の鉄と硫黄が水分を加えて反応した可能性が高そうです。

ただ、ちょっと気になるのは、この実験ではどうしても硫化水素に気を取られてしまいがちですが、「硫化鉄」も案外危険な物質かもしれないということは、特に学校現場では知られていないように思えます。

というのも、硫化鉄は自然発火性をもつことがあるのです。それにより、製油所で発火性(着火性)硫化鉄による火災が起こっています。

1992年10月15日 定期修理中のアスファルトタンクにおける硫化鉄による火災(資料1資料2
1991年03月05日 溶融硫黄屋外タンクの開放時の硫化鉄の着火による火災(資料

これらの事例で発火性硫化鉄ができる条件が「鉄と硫化水素、水分」とあり、そこに酸素が加わることで発熱、発火していますが、実験で硫化水素は教室中にありますし、可燃物のゴミ箱で湿ったものが捨てられていたのかもしれません。そこにアルミニウムはくの包みで酸素とあまり触れないようにしていた部分が急に酸素と触れ合って…となると今回の事故と製油所の火災が同じ原理で起こっている可能性もあるかと思います。

 一方、気になるのは平成29年6月16日消防庁危険物保安室長発の「硫化鉄に係る火災事故防止対策の徹底について」。そこにはこう書かれています。

1 硫化鉄は乾燥により発火しやすい状態となる可能性があり、この状態で大気と接触す
ると、酸化発熱が進み自然発火に至る危険性があること。
2 スラッジ清掃時やマンホールの開放時など、硫化鉄が存在する部分が大気に触れる可
能性がある場合には、作業前に当該部分を散水等により十分に湿潤させること。

 あれ、乾燥すると危険なの?水分があると発火性硫化鉄ができるのに、そのあとは乾燥か。難易度高いな。

ただ、発火性でない普通の硫化鉄もあります。試薬には硫化水素発生用の硫化鉄があって、そのSDS(安全性データシート)には、「この製品自体は燃焼しない。」と書かれているし、消防法では非該当なので、つまりは危険物でもありません。

もっとも、教科書の実験でできる硫化鉄が、発火性硫化鉄を本当に含まないのか、あるいは硫化水素の臭いがする理科室で発火性硫化鉄になりえないのか、という点は私はよくわかりません。塩酸も水溶液、つまり水を含むわけだし。専門家の人に聞いてみたいくらいです。

硫化鉄は案外侮れない物質なのかもしれませんよ。


Check it out!
硫化鉄に係る火災事故防止対策の徹底について(消防庁危険物保安室長)

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