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2061 学校気象の調べ方(東京理科大学気象研究部編,1963)

理科準備室の本棚をあさっていたら出てきたのがこちら。オレンジ色のニクい奴。
東京理科大学気象研究部編 学校気象の調べ方 気象協会 1963

 そりゃ、教科書の気象単元で「気象観測をしてみよう」みたいなページはあるものの、また、「継続的な観察などの充実」なんてあるものの、
 実際の中学校の現場で継続して気象観測のデータを取ろうとしても、ぶっちゃけ「体験」、下手したら「真似事」レベルのことを、交代で一人1~2回程度やってデータをまとめるくらいのことしかできないのではないでしょうか。微気象による不規則な挙動に加え、安物で校正もしていない機器による誤差、そしてサボりによる欠損などにより、データから特徴を見いだすには使い物にならない…というトホホ展開になりそうな学校も多いのではないでしょうか。
 もちろんそうでないところもあるかとは思いますが、悲観的過ぎますかね。

 ところが、この本ではガチなんですよね。もちろん編著者のような大人はもちろん、データを載せている小・中・高校生たちも。おそらく当時では珍しいことなのではないかと思いますが、子ども一人一人に著作権など、もっというと研究に対する敬意を表している雰囲気があり、研究した子供の名前や所属する学校名を明記しています。令和の今だったら逆に個人情報の面で心配になります。
 ちなみにその一つである成蹊高校は私も直接行ったことはないのですが、もう100年くらい気象観測を継続しているという話がギョーカイの辺境の地にいる私にさえ情報が入ってくるくらい有名です。もちろん、地学を含めた理科の施設や指導体制はいわずもがな。うらやましい以外に言葉が出ない…。

 そんなガチ勢のガチ勢によるガチ勢のための「学校気象の調べ方」ですが、出版当時、高校で地学が必修になり、地学教育に勢いのあった時代で、第1章・気象教育の在り方 §1 気象教材について において、以下のように述べられています。

 そして、ことしはエポック・メーキングな年でもあります。今まで選択課目であった地学が高等学校の必修課目として教えられることになったのです。こうして、地学教育は第二段階に入ったと云えます。今こそ、われわれは気象教育発展のあとをふりかえり、これを総合し、批判し、将来への発展の基礎としなければなりません。  1ページ

 熱い、熱いです。なのにどうしてその後の地学教育は(略

学校気象設備基準表

 さらに、当時の学校気象設備基準表も掲載されていました。

なお、巻末には付録として、学校にける気象設備の保有状況が示されています。文部省調査局統計課から刊行された「昭和35年度学校設備調査報告書」をもとにしたものです。気象以外の区分に、温度計、標準温度計、真空ポンプ、トリチェリー実験装置、マグデブルグの半球が入っています。

俺の画像フォルダが火を噴くぜ!
最高最低温度計に毛髪湿度計
U字型最高最低温度計

ロビンソン風力計に記録温度計(自記温度計)

その他、本書にはビラム微風計や中浅式風速風向計など、私も初めて聞く観測装置が登場します。いずれもオークションサイトでアンティークものとして出品されており、また、中浅式風速風向計とは中浅測器株式会社の製品ということが分かりましたが、中浅測器株式会社は現在YDKテクノロジーズという会社になっています。

ちなみに理科教育設備整備費等補助金交付要綱(一部改正 令和3年9月17日) では、気象観測用具としてアネロイド気圧計、雨量計、デジタル気圧・高度計、前線モデル説明器、記録温度計、百葉箱(デジタル製を含む)、天気の学習用具としてマグデブルグ半球、天気図用黒板、排気盤があげられており、だいぶ精選されています。(地中の温度とか学習しないしね)

天気の記号

 日本式の天気の記号。たまに追加・変更されているのですが、どこで誰が仕切っているのかが見えてきません。また、雲量による快晴・晴・曇りの扱いも現在と異なり、0~2が快晴、3~7が晴れ、8~10がくもりとなっています。

毛髪と湿度

 高生耕也さんは約7cmの毛髪を8人の人からもらい、湿度の変化によって、どのように長さが変わるのかしらべてみました。そのうち4つの例を下の図に示してあります。どうやら、女の人の方が、男の人よりも湿度に敏感なようにみえます。あなたも測ってみませんか。
   47ページ 研究問題1

 たしかに毛髪湿度計は日本女性の髪が良い、という話は聞いたことがあります。が、データが少なすぎるのと、縦軸の意味がわからないので要確認だなと。

ウオーター・ブルーという染料

 雨のふりだしのときをえらんで、雨つぶの大きさや、単位面積に単位時間にふる雨つぶの数などをしらべてみましょう。
 そのためには、薬屋でウオーター・ブルーという染料を買い、乳鉢でよくすりつぶし、500ccの石油に約3gの割合でまぜます。これに沪紙をひたしてかわかしたものをつくります。これはぬれると青く色がつきますから、上のような研究には大変便利です。  p.54 研究問題1

 ここではウオーター・ブルーなる染料に興味をもちました。このブログでも過去に様々な染料を紹介していますが、ウオーター・ブルーはなかっよなぁ…と思いググってみたところ、ちょくちょくお世話になっている長成商事株式会社で取り扱っていることが分かりました。

ウォーターブルー (water blue) は、染色に使われる有機化合物である。コラーゲンを青く染色する。別名、アニリンブルー (aniline blue)、チャイナブルー (China blue)、ソルブルブルー (Soluble blue)、CI 42755 など。コラーゲンを青く染色する。
ウォーターブルー(アニリンブルー) 25g | 長成商事株式会社

 ただお値段がちょっと…25g5500円と、酸化銀ほどではないにせよお高い。
 授業と直接関係なく試しにちょこっとやってみるには厳しいなと。むしろ何か他の(学校にある)染料で代替できないかな、と思うところです。

気象協会発行参考書

奥付の上に、出版社である財団法人気象協会(現在の日本気象協会)の出版している本の一覧があります。

 「わかりやすい天気図の話」は2005年に新改訂版が出ているようですが、出版社であるクライム気象図書出版の本がamazonや書店サイトでは売り切れ・入荷予定なしの扱いになっています。サイトが一応はあるので、販売会社(取次)を利用することをやめたのでしょうか。このあたりの経緯は謎です。
 「天気予報の手引」は現在ではやはりクライムから「新・天気予報の手引」の新改訂版が出ていますが、この時から比べると、著者も違うし、かなり改訂に海底を重ねているようですので「テセウスの船」状態になっていることが予想されます。
 でやっぱり、ラジオ「気象通報」の変遷 をまとめた身としては、ラジオ用天気図用紙に目が行きます。1枚2円とバラ売りしていたことに驚いています。昭和40年代には天気白図帳(森重出版)のように綴じられたものが販売されているのですが。

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