0079 身近なものを題材にすること
2020年の教育実習生の研究授業の講評で話した内容を改訂増補したものです。
協議会で学生から身近なものを題材にすることが多く話題に出たので、それに触れてお話しさせていただきました。
最近は、改善されたからなのか、それとも単に飽きられた(もしくはあきらめられた)のかわかりませんが、一時期に比べ「理科離れ」の議論は、あまり話題にのぼらなくなったように思えます。
一連の議論のなかで出てくる「どうして理科を学ぶの?」みたいな話、言い換えると理科教育に課せられた宿題に対する一つの回答として「日常生活との関連」というのがあり、もっと言うと身近なものを題材とすることがあります。
なので、理科教育には、これでもかというくらい「身近」もしくは「身の回り」があふれています。「身近な物理現象」「身の回りの物質」「身近な生物についての実験、観察」「身近な地形や地層、岩石などの観察、実験」「身近な自然」など身近のオンパレード。
そうなってくると、正直ちょっと「おもしろ理科」とか「楽しい理科」とかいってるやつあたりと同じニオイを感じてしまうんですよね。ま、それはおいといて。
地震や気象、人体などの単元のように、それ自体が日常生活と密接に関係しているところもありますが、多くの単元、特に第1分野では「みえないもの」を扱うことが多いため、日常の身近なものを題材にすると、教えたいことのイメージを持たせやすくする効果をもたせることが期待できます。
ですが、身近なものを題材にするにあたって、留意すべき点が3つほどあります。
1.教師が身近に思っていても、生徒にとって身近ではないものもある。
これは背景に生徒の生活体験の少なさがあります。たとえば、中1化学のいわゆる「ミステリーパウダー」でグラニュー糖を出したら、「グラニュー糖って何?」と多くの中1生に質問されました。
また、教師と生徒のジェネレーションギャップもその原因と考えられます。例えば、雲を作る実験で線香の煙を使う理由を説明するときに「たとえばみんなで●●したい人が多くても、あらためてそれを表に出さないと、それをやりたい人はなかなか集まらない。でも、そこに「この指とまれ」をする人がいれば、●●したい人が集まりやすい。線香の煙は、「水滴になりたい水蒸気この指とまれ」とやってくれる役割をするんだよ、という説明があるのですが、最近の子どもは「この指とまれ」を知らない世代なのです。ガーン。
2.身近な事例は学習内容だけでは説明できないところがある。
たとえば、力の分解の授業で、トラス橋では力の分解を利用している、という話を力の分解の作図込みでしたとします。
でも、それだけではなぜトラス橋を使うのかを説明したことにはなりません。
トラス橋のしくみを理解するには、最低でも、その分力をどこが支えているのかなどを説明する必要が出てきます。
しかし、そのような周辺部分を説明すればするほど、本来やりたかったこと「トラス橋では力の分解を利用している」という点がぼやけてくるので、難しいところです。
私だったら、力の分解の知識・技能を身につけさせてから、「橋は、どのようにして重さを支えているのだろうか。」のような課題を解決していくような授業展開を考えます。
3.「だからこうなのか!」 学んで良かった、聞いて良かった、お得感を持たせよう。
「今日学習しているこのことは、身の回りにあるこれに使われています。」これだけでは物足りない。興味関心を高めるにはもう一押しほしいところ。
例えば熱伝導。暖かいコーヒーなど保温が必要な飲料は熱を伝えにくいスチール缶が使われ、冷やして飲むジュースなどには熱が速く伝わるアルミ缶が使われることが多いです。なんていうと「そういえば確かにコーヒーはスチール缶で、ジュースはアルミ缶だな」などと納得感とか、豆知識的なので誰かに話したくなる、知ってよかったというお得感を持たせることができます。
あることを学習するのにあたって、身近なものを題材にすることは、新しい学習内容が生徒がすでに持っている知識や経験とリンクされやすいという強みがあります。留意点をおさえながらも積極的に活用していきましょう。
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