0738 「シベリア高気圧」と「シベリア気団」
某MLでの質問に回答したものを再編集して掲載します。
日本の天気のところで、「シベリア高気圧」と「シベリア気団」、「太平洋高気圧」と「小笠原気団」の違いは何か?、という質問をよく受けます。
「シベリア高気圧の中心付近できる、冷たく乾燥した大きな空気のかたまりがシベリア気団」「気圧としてみているか、気団としてみているかの違い」などと説明をするのですが、何か納得できない様子も見られます。
生徒の質問に対して
1.ごまかさずに、きちんと正対して答えた。
2.スジの通った、違和感を感じない説明である。(*)
3.その生徒だったら、いつもならこの説明で理解するはず。
4.にもかかわらず、なんか生徒が納得していないようだ。
(*)極端な話「高気圧は1013hPaより大きいところ、低気圧は1013hPaより小きいところ」というのでも2の条件は満たします。もちろん実際の定義は違いますが、初めて高気圧や低気圧について学ぶ人にとっては違和感を感じす「ふむふむ」と理解しそうじゃないですか。
こういう症状の場合、私は
「生徒が欲しいのはこの質問の答えではなくて、別にあるのではないか」
という可能性を疑います。
生徒からの「どうして理科を勉強しなくてはならないの?」という質問の真意は「お前の授業がつまらない」の婉曲的表現だったりすることがあります。
それと似た話で、「シベリア高気圧」と「シベリア気団」の違いを知りたいのではなくて(知りたいといえば知りたいのですが)もっと大事な欲求が生徒の中にあるのだと思います。
あのスティーブ・ジョブズも言っています。
It’s really hard to design products by focus groups. A lot of times, people don’t know what they want until you show it to them.
フォーカスグループ(=マーケティングの為に製品に関する意見を言う人達)によって製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ。
大人でも自分は何が欲しいのかわからないものだし、そんな中で集めた意見に対し忠実に答えても微妙な結果になるものです。
それと同じように、生徒自身も、本当に欲しい情報、何を質問すればいいのかがよくわかっていない、少なくとも言語化できていない、モヤモヤした状態なのだと考えます。だからその生徒の欲しい解答を形にして見せてやれば、すっきりしてもらえそうです。でも生徒への答えをデザインするのは製品をデザインするのと同様、とても難しいことでしょう。
ここからはあくまでも私の想像です。
学習に伴う生徒の思考の流れを推測してみました。
高気圧は、中心部が回りより気圧の高い部分→これはわかる
気温や湿度が一様な空気のかたまりを気団といい、シベリア気団とか小笠原気団とかがある→これもわかる。
冬の天気のキーワードは シベリア気団にシベリア高気圧 →ん?
シベリア気団とシベリア高気圧って同じ?
まったく同じ用語なら「このような物質を不導体または絶縁体という」みたいに「シベリア気団またはシベリア高気圧」っていいそうだし、だいたい気団と高気圧だから完全にイコールってわけではなさそうだ。
同じものを気圧の視点でみたり気団の視点でみたりしているのかな。
でもって、気団と高気圧の関係は?高気圧だったらもれなく気団になったり、気団だったらもれなく高気圧だったりするのかな。
春と秋の天気では「移動性高気圧」ってのが出てきて、ここでは気団の話が出てこない。てことは移動性高気圧は気団じゃないんだろうな。それなら移動性ではない、つまり停滞した高気圧が気団なのか?
という感じでしょうか。これをもう少し掘り下げていくと
シベリア気団とシベリア高気圧が微妙に違うことがわかりつつも
「なんで冬や夏の天気の説明に同じところに気団と高気圧の2つが出てるんだ?片方だけじゃダメなのか?」
「気団と高気圧をどう使い分ければいいんだ?たとえば冬の天気図で北西にあるアレはシベリア高気圧というのかシベリア気団といえばいいのか」
この辺りが生徒のモヤモヤの核心でないかと想像します。
それがうまく言語化できずに、「シベリア高気圧」と「シベリア気団」の違いは何か?という質問にとどまっているのではないでしょうか。ところが、すでに生徒自身が高気圧と気団という着目点が違うのではないかと、この答えにうすうす気づいている可能性もあります。その場合、先生が質問にうすうす気づいていた内容の通りに答えたところで、何のサプライズもなく、生徒はちっともすっきりしませんよね。
もし、私の想像が正しいとすると、生徒の本当の欲求は、先生に「シベリア高気圧?シベリア気団?どっちも冬の天気だ!こまけぇこたぁいいんだよ!! 」と啖呵を切ってもらい、「あ、別に気にしなくてよかったんだ」と安心したかったのかもしれません。。。
もちろん、純粋に素朴な疑問に思ったケースもあるでしょうが、「この説明で(生徒が)納得できないのが(自分は)納得できない」と感じたら、インタビューしながら深堀りしていくと、生徒の本当のニーズが明らかになるかもしれません。
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