0785 女子中学生の物理あるある
※この記事は旧ブログで 2017-09-03 に更新されたものです。
9月2日、お茶の水女子大学のお茶の水女子大学 理系女性教育開発共同機構が「女子生徒にとっての物理・数学」というテーマでシンポジウムを行いました。
そこでパネルディスカッションの進行役を仰せつかり、さらに、テーマへのご自身のスタンスや取組などを簡単にお話ししました。
その中身をさらします。
本日のシンポジウムのテーマは「女子生徒にとっての物理・数学」ということで、中学校で物理を含めた理科を教えている立場から、特に女子生徒に物理を教えているときによくあること、「女子中学生の物理あるある」を3点ほどとりあげます。
一つ目。最初からシャッターを閉じてしまう。
「時間割に たえて物理の なかりせば 私の心は のどけからまし 文系女子」
物理で苦労している女子高生である作者の悲痛な嘆きが感じ取れる佳作です。…嘘です。私の創作です。すみません。
元ネタ 『世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし』 在原業平(古今和歌集)
訳:もし世の中に桜が全くなかったら、春の人の心はのどかだろうに。 (実際はそうではない)
※「せば~まし」は反実仮想(事実と反対のことを想定すること。「 もし~だったら…だろうに」)
「桜」と「春」の部分(今回は「世の中」も変えましたが)をいろいろな言葉に変えても成り立つ、汎用性の高い歌かと。
例: 世の中に たえてニャンコの なかりせば 下僕の心は のどけからまし
それはともかく、物理っていうと、もう全力で頭のシャッターを閉じてしまう女子生徒は少なくありません。
そんな生徒の気持ちにどう割り込んでいくのかというのは、教師の腕の見せどころではないかと思います。
SSHとか科学オリンピックとかで優秀な生徒をさらに伸ばすのももちろんいいのですが、物理に苦手意識があったり関心がなかったりするあの子のハートをつかんで何とか振り向かせることにも、捨てがたい魅力を感じます。
小数の割り算が苦手な子には、分数で計算したらどうだろうと考えますし、電流と磁界の向きの関係を示す右ねじの法則がわからなければ、模型を作ります。ちなみにこの右ねじの法則の模型ですが、最初は矢みたいな大きな模型だったのですが、小型量産化に成功しました。それにより、コイルの磁界も説明できるようになりました。
続いて2つ目。「一気にわかるスイッチ」がある。
数学なら「三角形とは何か、3つの頂点を3つの辺で結んだ図形である」みたいに明確な定義をして話が進むでしょうが、中学校の物理的領域は、「力とは何か」「電流とは何か」という定義からはじまるのではなく、実験などで特徴をつかみながら、少しずつ力や電流のイメージというか概念を形成していくことになります。
そのような中で、例えば「豆電球の並列回路において、それぞれ電球の両端にかかる電圧は電池の電圧に等しい」ということがなかなか理解できなかった人が「並列回路は2つの回路が一部重なっている」という言われてみれば当たり前なことを指摘してやるだけで「そっか!」と深くうなづきます。この指摘したポイントこそが、ぱぁっと視界がひらける「一気にわかるスイッチ」です。しかしこれ、わかっている教師側にとっては意識すらしないような当然のことであり、それゆえにスルーしてしまうのです。
自転車のカギみたいなものですね。そのこころは、小さくていつも軽く扱われてしまうのだけれども、実は意外に大切でそれがないと、わからない生徒のように苦労すると。
そして、そのようなポイントのほとんどは私自身、他の先生や参考書などから教わったのではなく、わからないという生徒を前にしていろいろ探りを入れてはじめて「そこかぁ~」と見出したようなもので、ほとんど教師間では共有されていないのかな、とも思っています。
3つ目、ノートがやたら美しい。
絵がうまいし、横道にそれた話もしっかり記録しています。先生の似顔絵やキャラクターなんかにポイントを言わせています。
参考書としてお金を取っていいレベルです。
でも一つだけ問題があって、そういうノートを作る生徒はテストでまず平均点に行かないんです。
ノートをとることに一生懸命で授業の流れ、聞くときに聞く、考えるときに考える、それをしていないんです。
以前は私もそういうノートを書く生徒に対し結構注意していたのですが、こちらの意図が伝わらないのかやめる生徒ってほとんどいないんです。で、そういう生徒と学級担任として関わったり、特別活動での様子をみるようなると、「ああ、きれいに書くことがこの生徒のアイデンティティなのかもしれないな」「きれいにノートを書くことで精神の安定を保っているんだな」みたいなことを感じることも多く、そんな生徒からきれいなノートを取り上げるのは、理科教師としては正解かもしれないけど、本当にそれでいいのか、人道的にどうなのか、と考えるようになってしまう弱気な今日この頃です。
現場からは以上です。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません