もとになる生物から自分と形や性質が同じ新しい個体(つまり「子」)ができるはたらきが生殖です。今日は、受精によらない生殖である無性生殖についてみていきましょう。
無性生殖のパターン
分裂
体細胞分裂によって同じ大きさの個体ができる無性生殖が分裂です。
アメーバ,ゾウリムシ,ミドリムシ,イソギンチャク
で、分裂というと、2つに分裂すると皆さんお思いかもしれませんが、蚊を媒体とした感染症で有名なマラリアを起こすマラリア原虫は、赤血球内で分裂増殖を行うのですが、8~32個に多分裂する段階で赤血球膜を破壊して放出されます(怖!)。
出芽
個体から小さな個体が出現して分離し、新個体となる生殖を出芽といいます。
酵母菌やヒドラなどがその例に挙げられます。
ところで、酵母の単細胞レベルの「出芽」とヒドラやイソギンチャクの組織や器官の分化を伴う「出芽」は違うものとして教えるべきではないかという指摘もあります。こだわる気持ちもすごくよくわかる一方で、高校の基礎を付さない方の『生物』だとしても、学習内容全体を俯瞰した中で、そこまで細かい事実的知識に深入りすることへの懸念も感じます。
栄養生殖
体の栄養器官が分離して、新個体となる生殖が栄養生殖です。栄養生殖の例もたくさんあります。
イチゴ(オランダイチゴ)
走出枝(ランナー、ストロン) 茎が地表面を這うように長く伸びて、先端の節から芽や根が生じ、子株になってふえる。
※写真はクサイチゴ。通常食べるイチゴはオランダイチゴ。
オニユリ
芽が変形した「むかご」が,はなれてふえます。
ベンケイソウ
葉などから「不定芽」と呼ばれる芽が出てふえます。
ジャガイモ、サツマイモ
ジャガイモは塊茎[特殊な地下茎]から芽が出てふえます。サツマイモは塊根です。
マダケ
地下茎がのび、その先から新しい個体が生じます
胞子生殖は無性生殖か?
生徒が混乱するので授業では扱えない「理科教育まにあっくす」カテゴリーで扱うべき話題ですが、ついでなのでここでふれておきます。
あえてリンクははりませんが、たまに無性生殖の種類で分裂、出芽、栄養生殖のほか、胞子生殖を挙げているものがあります。しかし、カビなんかにおける、体細胞分裂でできる分生子と言われる胞子なら無性生殖としてよいのですが、減数分裂によって形成される真正胞子なら、子は親とまったく同じ遺伝子を持つことにはならないので、有性生殖となるのが正解でしょう。シダについても、生活史の図とともに「胞子による無性生殖と、精子と卵による有性生殖が交互にくりかえされる」とかいう説明がされることがありますが、結局は減数分裂して胞子がn(1倍体)になっているため、有性生殖ということになります。
原襄:減数胞子による生殖は無性生殖ではない,PLANT MORPHOLOGY,5(2),134-136,1993
言いがかり高校生物 第8回 胞子生殖は無性生殖だって教わったのに・・・
ところがどっこい、シダ植物のなかには、無配生殖と呼ばれる特殊な無性生殖をするものが存在するというのです!もうなにがなんだかわからなくなりますが、とりあえず生物って多様だなぁと。
篠原 渉「有性と無性を組み合わせて多様性を維持するシダ」(JT生命誌研究館)
石川寛・栗田子郎:シダ植物の無配生殖種における生物学的実体の複雑さ,Bunrui 3 (1):25-28,2003
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