1799 悲しいときー 銅と酸素の質量比が4:1どころか比例さえしなかったとき!
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成功率の低い実験
化学変化と物質の質量のところで、結びつく2種類の物質の質量の関係を調べる実験で、銅とマグネシウムをそれぞれ燃焼させて、金属と酸素の質量の関係を調べる実験は。なかなか教科書通りの結果が得られないので有名な実験です。4:1、3:2の比率が出せないどころか、そもそも比例のグラフにならない、というケースもみられます。
そのため、うまくいくような実験のコツは、いろいろ研究がなされています。内容的にはだいたいこのあたりの文献で語り尽くされているんじゃないかと。
実験「金属の酸化」を成功させるために(愛媛県総合教育センター)
宮内卓也: 定比例の法則に関する実験 :マグネシウムの燃焼を例に,化学と教育、 57(5),pp.244-245,2009
とはいえ、このご時世ですから、学校によっては予算の関係でステンレス金網がなかったり、銅やマグネシウムは昨年の残りを使わざるを得ない状況というのも想像がつくどころかおまおれレベルでわかります。そして、粉末を必要以上にかきまぜたくなったり、ついこぼしてしまったりするのが中学生というものです。当然、きれいなデータは出ないでしょう。
そのため、授業を担当する先生としては、うまくいかないデータを前にして、どうやって考察からのまとめにもっていくか対策を立てることが現実的です。しかし、経験の浅い先生は、そのアイデアが少ないかもしれません。今日はこの切り抜け方を考えてみましょう。
被害状況に応じて対応は分かれる
まず、生徒の実験結果を把握します、生徒の実験結果がうまくいかなさそうだと察知したときは、いつもここから始めましょう。
そのデータから得られるグラフのかたちが次の①~③のどのレベルになりそうかをチェックします。
①4:1や3:2という質量比が求められそう。
②正確な質量比は求められないものの、ほぼ比例のグラフになる
③そもそも比例するには無理がある
この上で、作戦を立てます。
もちろん、①は問題ありませんので、計画通り考察を進めて行きましょう。
②ならば、金属と酸素が一定の質量比で結びつく、というところまではまとめられます。その上で教科書などの理想的なグラフとの違った理由を考えていきます。
③ならば、教科書のグラフを見て、金属の質量が2倍、3倍…となれば、必要な酸素の質量も2倍、3倍…となる、すなわち金属と酸素の質量の比はいつも(金属の質量によらず)一定だというデータを分析し解釈したところで実際そうならなかった理由を考えていきます。
②③いずれも、酸化物の質量は本来の値より小さくなっていることが普通です。②の場合は一定の割合で結びついているので、どの班も同じ割合だけうまく酸化できなかった、というところで落ち着くと思います。
③の場合は②に加え、グラフに無理矢理でも直線を引いたときに酸化物の質量が直線より大きく下回っている点があるはずですから、その班にこぼしたりしなかったかを聞いてみるとよいでしょう。たいてい、かき混ぜた時にこぼしたりしています。
また、特に銅の場合、表面だけ酸化して、中が生焼けだった、ということもあるあるです。なるべく薄く広げることの大切さをひしひしと感じとりましょう。
失敗よりもまずいこと
大事なこととして、教科書とずれていても、実験としては失敗したとしてもそれは価値のあるデータだということは教師側のスタンスとしてもっておきたいところです。うまくいかなかった原因を振り返りることで、本来こうなるという結果を妥当だと納得させれば、その実験をしたことは十分に価値があると思います。(理想的には,その原因を取り除いてもう一度実験したいところですが、そこまでの時間はとれないでしょう)
余談ですが、ある博物館の学芸員さんが、昭和時代を中心に高校の生物部の日誌を集めているそうです。その部活動で調べた当時の植生などのデータは、他では手に入らない、大変貴重なデータだという話を聞きました。たしかにどんなに優秀な科学者がそろっても、令和の今にその調査をすることは不可能ですものね。
そう考えると1年生の生物の最初にやる校庭の生物の観察で、タンポポなどの植物の分布を経年で調べてそれを蓄積すると、とんでもなく貴重な資料になりそうですね。中学生の観察実験データでも、大人顔負けの価値あるデータになりうるということは、先生が生徒に語ってよいかもしれません。
教師が絶対にやってはいけないのは、失敗したデータはムダ、意味がない、というようなスタンスを取ることです。この考え方は確実に生徒に伝搬し、その結果、生徒が先に教科書の結果を見て、それに併せて結果をねつ造するようになってしまいます。それだけは絶対にするな、それやると終わるぞ!ということは、今回に限らず、ことあるごとに話しておきたいです。そのため、きれいな実験結果が得られたかどうかを評価の基準にしてはいけないことも申し添えておきます。
ちなみに私は,うまくいかなかった班には「なーにー、やっちまったなー、ドンマイ!」などと声をかけています。特にこの実験では実験前の説明段階で「この実験はなかなかうまくいかない、うまくいったらご喝采」などと、失敗することを視野に入れていつもここから話しています。
もちろん、うまくいった班は褒めたいですし、ましてやいい感じに4:1や3:2のグラフができたらクラスで万歳したいところです。
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