0682 乾湿計
温度計が2本ついている乾湿計というものがあります。
これはアウグストとかオーガスト乾湿計(August psychrometer)と言われているタイプの乾湿計です。(このほかにアスマン通風乾湿計があります)
どうして温度計がわざわざ2本もついているのか。2本の温度計には何の違いがあるのでしょうか。
それは下の方を見るとわかります。
左側は、ここでは物が温度計の球部にぶつからないように金属のカバーがしてありますが、基本的には空気に接しています。つまり単純に気温を測っています。こちらを乾球といいます。
右側は、球部にガーゼが覆われています。しかもそのガーゼは下に垂れていて、その先は白い水の入った容器にあり、そこからつねに水が吸い上げられ、ガーゼは湿っています。なのでこちらを湿球といいます。
そして、湿球の温度は、乾球の温度(気温)より低くなるか、せいぜい同じ温度で、湿球温度の方が高くなることは、ありません。
これは、ガーゼに含まれている水が蒸発するときに気化熱を奪うからです。注射するときにアルコールで腕などをふくときにヒヤッと感じるのと同じです。
もう少し詳しく言うと、100℃の水を加熱すると、熱を加えているのにもかかわらず、温度は100℃のままです。ただし、液体の水が気体の水蒸気に気化します。このときの水は、加熱器具から熱をもらって水蒸気になります。
水 + 熱 = 水蒸気
と、いうことはですよ。この式を 水= の形に直すと
水 = 水蒸気 - 熱
となりますよね。つまり、水を加熱せずに水蒸気にしたら、周りから気化するのに必要な熱、気化熱を周りからむりやり奪ってしまいます。この結果、周りの温度が下がるわけです。
このしくみで、湿球を覆うガーゼの水が蒸発すると、温度計の球部から熱を奪い、温度が下がるという寸法です。
つまり、水が蒸発すればするほど温度が下がるわけです。
でも、空気の湿度が高ければ空気中に水蒸気はもうそんなにいらないので、蒸発はあまり起こらず、温度は下がりません。一方、空気が乾燥していると、水蒸気をどんどん受け入れてくれますので、たくさん蒸発が起こり、温度がどんどん下がっていくのです。
かくして、湿球温度が気温からどれだけ低いか(と気温)を見れば、湿度が求められるわけです。
それを一覧表にしたのが湿度表です。
湿度は、「乾球温度」と「乾球温度と湿球温度の差」から湿度表をみて求められるのです。
たとえば、乾球温度20℃、湿球温度16℃の場合は、乾球温度20℃と、乾湿示差(乾球温度ー湿球温度)の4℃が交差したところの数字が64なので、湿度64%ということになります。
乾球温度と湿球温度が等しい、つまり乾湿示差が0℃だと100%になります。これは、まったく蒸発していないということですから、空気はもう蒸発して水蒸気がやってくるのを受け付けてくれない、これが湿度100%ということなのです。
乾湿計も、気温を測るときと同じく、地上から約1.5mの高さで、直射日光の当たらない、風通しのいいところで測ります。
おまけ
この乾湿計の温度を簡単に変えられる図と湿度表のセットです
ちょっとマニアックな話。
湿度表の数値はどうやって求められたのか
湿度表の数値は「スプルングSprungの公式」から求めています。
「スプルングSprungの公式」
ε=E’-A(t-t’)×p/755
ε:水蒸気圧(hPa)、E’:飽和水蒸気圧(hPa)、A :定数(湿球が氷結しているときは0.44,氷結していないときは0.50)、 t:乾球温度,t′:湿球温度、p:湿球温度が t′での蒸気圧
相対湿度は、Eを乾球温度での飽和水蒸気圧として、 ε/E×100(%) で求められます。
参考
小林壽太郎;アスマン通風乾湿計の乾湿計公式について“天気”47.10(2010)
乾湿球湿度計公式の考察(芝 ・原口)
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