日本の季節ごとの天気の特徴を知るにあたって、知っておきたいことがあります。
それは、気団についてです。
気団とは、広い範囲にわたって性質(温度、湿度)がほぼ均一な空気の団塊をさします。
大陸や海上など、ほぼ一様な表面をもつ広大な地域上に大気が長期間にわたってとどまり、気団ができます。
なお、日本のような中緯度の地域では偏西風をはじめとする地球レベルでの大気の大循環が激しいため、大気が長期間にわたってとどまることができないので、気団はできません。なるほどね。
そうすると、気団というものは、気団ができた場所で分類できそうです。それも2つの区分原理から分類します。
1つ目の区分原理は「緯度」です。先述したように、温帯の中緯度では気団はできませんから、極(Arctic)、寒帯(Polar)、熱帯(Tropical)、赤道(Equator)の4区分、これは大気の温度と密接に関係します。なお、「極」は、北極と南極に分けることもあります。
もう一つの区分原理は、区分肢でいったほうがいいですね。大陸性(continental)か海洋性(maritime)か。これは大気の湿度に影響してきます。
この2つの区分を組み合わせて4×2=8通り(「極」を北極と南極に分けた場合、南極は大陸だけで海洋はないので9通り)になります。
もっとも、日本付近では、極や赤道から遠いので除外し、北側の「寒帯P」、南側の「熱帯T」のそれぞれに「大陸性c」「海洋性m」を掛け合わせた、cP,cT,mP,mTの4通りになります。
ということで、日本付近には一応4つの気団があります。それぞれの位置は次の画像の通り。
このうち、北にある2つは寒帯P、南にある2つは熱帯Tの気団です。
そして日本列島の西はユーラシア大陸、東は太平洋ですから、西側の2つは大陸性c、東側の2つは海洋性mとなります。
かくして、4つの気団の性質はそれぞれ別のものとなるわけです。
日本では寒帯大陸性気団cP はシベ リアからくるので、シベリア気団、寒帯海洋性気団mPはオホ ーツク海や千島沖から來るので単にオホーツク海気団と呼びます。熱帯海洋性気団mTは、小笠原方面からくるから小笠原気団、熱帯大陸気団cTと言ふべ き ものは,いわゆる南シナでできるから揚子江気団と呼んでいます。
なお、揚子江気団は独立した気団ではないため、掲載してない教科書も多く、中学生に教える必要はそれほどないといえます。
ただしそれを言い出すとオホーツク海気団だってシベリア気団がオホーツク海に移動ながら海面から水蒸気をもらって海洋性に変質した気団なんだけどね。
揚子江気団小ネタ集
その1。2007年に気象庁は予報用語の改訂をしたときに「長江気団」と改称しましたが、学術用語集 気象学編は1987年に「揚子江気団」とした増訂版が出たまま改訂されていないので、文部科学省では「揚子江気団」のままです。
その2。揚子江気団が独立した気団ではなく、シベリア気団が温暖化して偏西風で分離された、という指摘は1939年に
徐長望: Chinese Air Mass Properties, Q. J. Roy. Met, soc., 65, 33-51, 1939.
などでなされています。
その3。それなら、揚子江気団はいつから言われてたのかというと、日本に「気団」という考え方を持ち込んだ 荒川秀俊:日本附近の各氣塊の特性,気象集誌,13(9),p. 387-402,1935.にシベリア気団など他の3気団と一緒に名付けられたのが始まりです。ただし、揚子江気団については、「又亜熱帯大陸氣塊と言ふべきものは,南支那を發源地 とするから,假 りに揚子江氣塊と呼ぶことにする.」と他の気団(当時は「氣塊」と呼んでいた)と違い、微妙に「気団じゃないかも」という自信の無さがにじみ出ているようにも読み取れます。
赤道気団を忘れるな!
で、季節によってこれらの気団の勢力関係が変わり、それぞれの季節の特徴が表れるのです。
おっと、忘れるとこだった。忘れ去られがちだけど忘れちゃいけない赤道気団。南太平洋からやってくる赤道海洋性気団mA(ミリアンペアじゃないぞ)。小笠原気団以上に暑く湿った空気のかたまりで、日本には台風というかたちでやってきます。
そして、赤道気団が、他の日本付近の4気団と違う点として、赤道気団は低気圧だ、という点があります。他の4気団を見て、なんとなく気団は高気圧だ、という誤解が生じやすいので気をつけましょう。
これも見て気団マニアになろう
荒川 秀俊:日本附近に於ける各氣塊の特性,気象集誌,14(7),p. 328-338,1936.
荒川 秀俊:氣塊論の現状.日本数学物理学会誌, 9(8),p. 351-364,1935.
荒川 秀俊:氣塊論ニ關スル最近ノ知見,日本温泉気候学会雑誌,2(1),p.1-3,1936
高橋 浩一郎:海上を渡る際の乾冷氣塊の變形、気象集誌,18(3),p.77-80,1940.…冬のシベリア気団の変質について
荒川 秀俊:南下する氣塊内に出來る積亂雲と北進する氣塊内に出來る霧,気象集誌,18(3),p.81-84,1940.…これは気団論の基本定理である、寒冷・温暖前線と雲の関係を流体力学、熱力学的に取り扱って証明した論文です。
荒川 秀俊:シベリヤ大陸高氣壓,小笠原高氣壓,オホーツク海高氣壓の熱力學的特性,気象集誌,18(7),p213-216,1940.
荒川 秀俊:太平洋氣團の分類,気象集誌,20(5),p.141-146,1942.…徐 長 望: Chinese Air Mass Properties, Q. J. Roy. Met, soc., 65, 33-51, 1939. などで揚子江気団を否定し代わりに上層偏西風を導入していることを紹介。
關口 武:所謂「オホーツク海氣塊」に就て,地理学評論,19(2), p.78-88,1943.…この論文の最後の注に、揚子江気団について、「後にはこれは獨立氣團とは取扱はれなくなつ たやうである。」とある。もうこの時点で揚子江気団はみそっかすだった…orz
《コラム》オホーツク海高気圧 札幌管区気象台 気象庁は一般向けには気団より高気圧で説明することが多いんだよね~
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