一時期、理科×図書館で売り出そうともがいていた時期に書いていた「図書館教育ニュース」の解説版の原稿。編集の方からもネタがないみたいで「次の原稿を書いてくれませんか?」と学校に電話がかかってくるようになりました。ネタがないのはこちらも同様で、やむを得ず、図書委員会の活動とか、貸し出した延滞する生徒と返却を迫る図書館の攻防とかで原稿を書いたこともありました…。
一応言っておきますが、叫んではいません。当時はやっていた「世界の中心で、愛をさけぶ」のパクリです。
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その日は土曜日なので学校は休み。理科教師である私は科学博物館に来た子どもたちに実験教室の指導をしていました。実験教室が終わると、その企画全体を取り仕切っている先生が、私のところに来て、話がある、と呼び止めました。
「今度、都中理(東京都中学校理科教育研究会)で研究発表会があるんだけど、発表してくれる先生がいないんだよ。、やってくれないかな」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ~区レベルではなくて都の発表会でしょ。何かすごく、鬼のように研究一筋の先生が集まりそうじゃないですかぁ。そんなところに私なんか入ったらレベルが低すぎて恥かくに決まってる。だいたい東京都に中学校の理科の先生が1000人以上いるとか聞いたことあるけど、よりによってどうして自分を選ぶんですか~?!というセリフが頭を駆けめぐり、口から出る直前に追い打ちが。
「先生だったら、研究のネタがないんじゃなくて、どのネタを発表するかで迷うんでしょ」
うわ、な、何か大きな勘違いされてる。だいいちここんところ忙しくて発表の準備する時間もないし、そんな研究ネタの宝庫のように思われても…、ま、まずい、とにかく断らなくちゃ…と思いを込めて毅然と答えたのでした。
「いいですねぇ、ぜひやらせてください♪」
あああああ。さてどのネタを発表しようかと、後になって考えてみました。理科といえば実験・観察。新しい実験方法の開発などはいろいろな先生ががんばってやってらっしゃる。そんな中で自分も実験・観察ネタで行くというのは、いわば直球勝負。その中身に相当な自信がないと出せるものではない。そんなネタは、今のところない…。
ではその他のそれらしいネタといえば、先日、研究授業でやった「あなたの町に火力発電所と原子力発電所のどちらかをたてるとしたらどっちがいい?」と個人で判断したり班で合意形成したけれど、それは、別の団体で発表する予定だし…。
そんなとき、以前掲載された「図書館教育ニュース」の付録が目に入ったのです。「そうだ、図書館があるじゃないか!」
そうなんです。この「図書館教育ニュース」を読んでいる方で、理科の先生はほとんどいないと思います。にもかかわらず、今回に限らず私が思いっきり理科ネタを書いているのは、読者層を考慮していないのでは決してなく(これでもおさえているんですよ)、理科教師であるという手口で、他の書き手には書けない「自分らしさ」を出している、すなわち「差別化戦略」をとっているためです。
これを逆に、やってみる。すなわち大勢の理科教師の前で、それも檜舞台である都中理の研究発表会で、司書教諭としての活動をネタにやってしまおう!というわけです。
これはおもしろいことになるぞ、と思いつつも、自分が図書と理科の間をさまよう、ちょうど獣の仲間にも鳥の仲間にも入れてもらえないコウモリであるような気もしてきました…。
それで、理科の授業に図書館を取り入れた実践なら、たくさんあります。中でもこの「図書館教育ニュース」で紹介した「ブックトーク・雲をつかむような話(平成16年4月28日号)」「ブックトーク・月とつきあう(平成17年3月8日号)」「ウソかホントか?環境ホルモン-図書館を利用して安全と危険を考える-(前編:平成18年6月28日号、後編:平成18年7月8日号)」の実践は、資料や記録がそろっているので紹介しやすい。
あとはそこに研究の背景や仮説、効果や課題などを加え、研究として一連のストーリーを組み立てれば、どうしてどうして、それなりに見栄えのするものになってしまいます。
中心となる仮説は「図書館の授業への利用は、図書館、生徒、教師(理科)の三者ともに効果のあるwin-win-winの関係をもたらす」ということ。すなわち、図書館を授業に利用することで生徒は学習内容への興味関心を高め、図書館は資料を活用され、ひいては教師や生徒の図書館への意識を高められるという展開。…いやいや盛り上がって参りました。一人で勝手に盛り上がっているだけだけど。
そして、研究発表会当日をいよいよ迎えました。人数は50人程度でしたが、都中理の関係者である現役・OBの校長先生が多く、結構なプレッシャーです。さらに私以外の3人の発表は、気体発生装置の開発、粒子概念の指導、Webカメラで雲の観察…とどれも非常に興味深いテーマ。もし、ここで私がもってきたのが実験・観察ネタならば、そのしょぼさでいたたまれないあまりに土下座して謝るか逃げ出して帰りたい気分になったことでしょう。それでも微妙に自分だけが異色の存在だけど、気にしない、気にしない…と自分に言い聞かせます。
発表は、まず1枚目の発表者名の肩書きからして「司書教諭」と銘打つ。「今日は午前中に4時間理科の授業をして、そのうち2時間は実験でした。バリバリの理科教師なのですが、あえてここでは司書教諭として発表をさせていただきます」と宣言。
そして本題の研究の話に入り、ブックトークや環境ホルモンの実践を発表。最後に「今回の発表を聞いて、理科の授業に図書館を取り入れてくれる先生が増えてくれるととても嬉しく思います。ありがとうございました」としめる。無事終了~。
講評や他の先生の感想を聞くと、理科の中ではやはり図書館の利用というのは珍しく、おもしろい発表だと聞いて、ひとまずホッとしました。でも、はじめて会う人の中には私が理科の教師でないと勘違いした人もちらほら…
そしてあの日に科学博物館でこの話をふってきた先生もやってきて、「いや、おもしろかったです。先生が司書教諭だってことがよくわかりました。」という言葉に続き「ところで小学生向けの新聞で家庭でできる実験の連載を週1で組むんだけど、原稿を書いてくれる先生がいな…」。即座に身の危険を感じた私は、その続きを聞いてしまわないように、あわてて会場を後にするのでした。
※一部フィクションです
ちなみに最後に出てきた「小学生向けの新聞で家庭でできる実験の連載」というのが朝日小学生新聞の「わくわく理科タイム」という連載です。この連載は、2004年から始まっているので、2006年の発表会を終えた後に話があったわけではないのでここがフィクション、というか、話にオチをつけるために盛ったネタです。
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