「だ液のはたらき」の実験についてはすでに記事に載せていますが、またやってみました。
今回は、現行(平成29年改訂、令和3年施行)の学習指導要領において、第2学年の指導の重点「解決する方法を立案し、その結果を分析して解釈する」を意識してして記事にしています。
ただし、前回の「だ液のはたらき」の実験と同じような画像は写真を撮り忘れ省きました。
ご飯をよ~く噛んで食べているとそのうち甘く感じるという現象があります。これはご飯に含まれるデンプンがだ液によって麦芽糖などに変わったからというわけですが、お話だけだとにわかに信じがたいかもしれません。それを確かめる実験をしてみたいと思います。
課題 だ液はデンプンを麦芽糖などに変えるのだろうか。
計画
だ液がデンプンを麦芽糖などに変えるか、確かめてみましょう。
それには、どのような実験を計画したらよいのでしょうか。
基本戦略
「だ液によってデンプンが麦芽糖に変わる」ことを確かめたい。それには
①だ液があるときはデンプンが麦芽糖に変わる
②だ液がないときはデンプンは麦芽糖に変わらない
の2つを確かめればよい。
そして、デンプンが麦芽糖に変わるか変わらないかを調べるには、
最初にあったデンプンが(だ液を入れて・入れないで)しばらくした後に
(a)デンプンがあるか、ないかを調べる。
(b)麦芽糖があるか、ないかを調べる。
の2つを調べればよい。その結果、
・もし、 デンプン⇒なし 麦芽糖⇒あり なら デンプンが麦芽糖に変わった
・もし、 デンプン⇒あり 麦芽糖⇒なし なら デンプンが麦芽糖に変わらなかった(デンプンのままだった)
と解釈できます。
※ここで、デンプンの量が多すぎると、だ液が頑張っても、麦芽糖に変わりきれなかったデンプンが残ってしまって、デンプン⇒あり 麦芽糖⇒あり ということになってしまうといけないので、デンプンは少なめにするのが良いでしょう。例えばT社の教科書には「水30gに対しデンプン0.1g」、K社は「1%でんぷんのり」、D社では「0.5%デンプン溶液」としています。人生いろいろ、濃度もいろいろ。
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したがって、
1.だ液を入れたときの
(a)デンプンを調べる
(b麦芽糖を調べる
2.だ液を入れなかったときの
(a)デンプンを調べる
(b)麦芽糖を調べる
の4つの実験をする必要があるわけです。
予想通りでないならどのような結果になるはずか
今回、実験の計画に関連して、あまり注目されない、狙った結果以外のパターンだったらどうなるかをかなり丁寧に扱ってみました。問題集なんかで思考力を問う問題とうたわれていても、生徒がその問題を解法・解答ごと丸暗記して本質的には知識再生型の問題に陥りやすい現在、こういう「そうはならんやろ」という結果の場合での考察は、問題集には登場しないので、真の意味での思考力を問う練習になります。以前記事にした、活用問題を作りやすい出題のパターンの一つ「誤りがあるまま話を進める」の一例ですね。

もともと実験ていうのは、ある課題に対する結論がAかBか(選択肢はもっとある場合もある)決着をつけるために行うもので、
実験の結果がaなら、課題の結論はAだ
実験の結果がbばら、課題の結論はBだ
と結果の違いによって課題の結論が変わるようにできています。(そうでないと実験する意味がない)
今回の予想は「だ液によってデンプンが麦芽糖に変わる」なので、上述したように
だ液があるとき デンプン⇒なし 麦芽糖⇒あり (つまり変化あり)
だ液がないとき デンプン⇒あり 麦芽糖⇒なし (つまり変化なし)
となってくれればいいわけですが、実験の結果が違えば、結論も違ってくるはずです。
どんな実験結果だったら、どんな結論が出せるでしょうか。
予想外パターン1
だ液があるとき デンプン⇒あり 麦芽糖⇒なし (つまり変化なし)
だ液がないとき デンプン⇒あり 麦芽糖⇒なし (つまり変化なし)
⇒ 結論 「だ液があってもデンプンは麦芽糖にならない」
予想外パターン2
だ液があるとき デンプン⇒なし 麦芽糖⇒あり (つまり変化あり)
だ液がないとき デンプン⇒なし 麦芽糖⇒あり (つまり変化あり)
⇒ 結論 「だ液がなくてもデンプンは麦芽糖になる」
予想外パターン1・2の共通点は、だ液があってもなくても、デンプンが変化するか否かの結果は変わらないというところにつきます。パターン1では当然だ液にデンプンを麦芽糖にするはたらきはないことが分かりますし、パターン2でも「だ液いらないじゃん」ということで、だ液の働きでデンプンが麦芽糖になることはいえません。
デンプン、麦芽糖の検出法
デンプン
デンプンの有無を確かめる方法は、ヨウ素液を加えればわかります。
デンプンがあれば、ヨウ素液の色が青紫色に変わりますが、なければ変化しません。
※理科の授業やテストにおいては、ヨウ素液がデンプンと反応した時の色は実際には濃くて真っ黒に見えようとなんだろうと「青紫色」と言わなければなりませんが、もともとのヨウ素液の色はというと「茶色」「褐色」「茶褐色」「黄色」などと表現に自由度があります。そのため、ヨウ素液がデンプンがあるときは青紫色になることは強調されますが、もともとの色についてはあらためて触れないことも多いので、「ヨウ素液にデンプンを加えると何色になりますか」と聞くと「青紫色」と答えるのに、「ではもともとのヨウ素液は何色ですか」と聞くと、どう表現しようかと口ごもってしまう生徒が一定数います…、
麦芽糖など
デンプンを分解してできる麦芽糖などの有無を確かめる方法は、ベネジクト液を加えて加熱すればわかります。
麦芽糖があれば、茶褐色の沈殿が生じますが、含まれていなければ青色のままです。
と一般的に言われていますが、麦芽糖濃度が少量の場合、茶褐色というよりは緑色っぽかったりすることもあります。また、沈殿するまで時間がかかります。詳しい(というかマニアックな)実験はこちらをご覧ください。
実験
早速ですが、今日使うデンプンはこちらになります。

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これを1.0gとって300mLのお湯に入れて溶かしてます。
冷えてから2本の試験管1・2に10mLずつ入れます。
試験管1 には うすめただ液2mL、試験管2 には 水2mL をそれぞれ加えてから
37.0℃にセットした恒温槽に入れます。
10分後、恒温槽から取り出し、1の試験管の中身の半分を別の試験管1bに、2の試験管の中身の半分を別の試験管2bにそれぞれ取り分けます。
量の半分になったもともとの試験管1.2をここから試験管1a、2aと呼ぶことにします。
1a・2aにヨウ素液を加えます。
結果 だ液の入っていた1aはもとのヨウ素液の褐色のまま変化しなかった。
だ液ではなく水が入っている2aはヨウ素液が青紫色に変化した。
1b・2bにベネジクト液を加えて加熱します。
結果 だ液の入っていた1bは加熱すると茶褐色になり、あとで沈殿した。
だ液ではなく水が入っている2bは加熱しても青色のまま変化しなかった。
※ベネジクトでの茶褐色の沈殿の正体は銅です。ベネジクト液に含まれていた銅イオンが(高校以降の化学の定義による)還元されて金属銅になるのですが、この銅、時間が経つと試験管にこびりつくので洗うのが面倒になります。実験が終わったらすぐに廃液を回収して、試験管を洗いましょう。
考察
最初にデンプンがあって
1.だ液が入っている場合
1aがもとのヨウ素液の褐色のまま変化しなかったことから、デンプンがないことが分かる。
1bはベネジクト液を加え加熱すると茶褐色になり沈殿したことから麦芽糖があることが分かる。
したがって、デンプンが麦芽糖に変わったことが分かる。
2.だ液が入っていない場合
2aがはヨウ素液が青紫色に変化したことから、デンプンがあることが分かる。
2bは加熱しても青色のまま変化しなかったことから、麦芽糖はないことが分かる。
したがって、デンプンが麦芽糖に変わっらなことが分かる。
だ液があるときはデンプンが麦芽糖に変わり、ないときは変わらなかったので
だ液によってデンプンが麦芽糖に変わったと言える。
結論:だ液はデンプンを麦芽糖などに変える




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