フェーリング液とベネジクト液 (共通事項)
ブドウ糖、麦芽糖、果糖などの還元性のある糖を還元糖というのですが、この還元糖を検出する薬品にフェーリング液とベネジクト液があります。
還元糖溶液にフェーリング液やベネジクト液を加えて煮沸すると、還元糖が酸化する代わりにフェーリング液やベネジクト液の銅(Ⅱ)イオンが還元され、酸化銅(I)の赤色沈殿を生じます。その沈澱の量を基に定量化することだってできます。
糖の検出ということで尿中の糖の量を調べるのに使われます。
なお、普通のお砂糖であるショ糖(スクロース)は還元性がないので検出できません。どうしてもショ糖を検出させたければ、酸を加えブドウ糖と果糖に加水分解をし、さらに酸を中和してから検出させる必要があります(参考文献1・2)
そして意外なことに、どちらも劇物の硫酸銅を含んでいますが、濃度が薄いためにフェーリング液やベネジクト液自身は劇物には指定されていません。
フェーリング液
フェーリング液は高校化学では使われているようなのですが、中学校では登場しないので、中高一貫ではない中学プロパーのうちの学校にはなく、画像もありません。ちなみに、なぜか中学受験の理科では登場することがあります。
フェーリング液はドイツの化学者H.フェーリングによって考案されたもので、「A液」(硫酸銅の結晶69.3gを水にとかして1Lにしたもの)と「B液(酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)346gと水酸化ナトリウム100gとを水にとかして1Lとしたもの)」があり、それを使用直前に等量まぜて使います。
ただし、フェーリング液のA液とB液を混ぜたものは、時間がたつと銅の錯イオンが不安定になるということで保存がきかないため、実験の直前に混ぜなくてはいけません。これは少し面倒です。また、還元糖の他、尿酸と反応すると,白色の尿酸銅塩を沈殿するという問題もあります。フェーリング液は尿糖の定量にも使われますので、余計なもの、特に尿に含まれそうなものと反応してしまうと、尿糖の確認や定量が面倒になるという問題点があります。
ベネジクト液
そこで、1911年にアメリカの化学者スタンレー・ロシター・ベネディクトが、糖尿病の診断用にフェーリング液を改良した試薬を開発しました。ベネジクト液です。保存が利くのでフェーリング液のように使用直前に2つの液を混ぜるようなことをせずに済み、しかもフェーリング液より感度がよいのが特徴です。
ベネジクト液(1000mL)の調製方法
1.クエン酸ナトリウム173gと無水炭酸ナトリウム100gを水600mLに溶かして濾過し、そのろ液に水を加えて850mLにしてA液を作る。
2.硫酸銅(II)・五水和物 17.3gを水100mLに溶かしてB液をつくる。
3.A液に、B液を徐々に加えながらかき混ぜる。加え終えたら、さらに水を加えて1000mLにしてできあがり。
中学理科ではデンプンが唾液で麦芽糖などに分解されるかどうか調べる実験で登場します。教科書では加熱すると赤褐色の沈澱が生じるになるといわれていますが、実際は濃度によって緑~黄色~橙~赤褐色と種々の段階の色を生じます。
ベネジクト液
ところで昭和化学のSDSに尿中のグルコース検査の試験法を発見
・試験液 尿
・試験方法 ベネジクト試液5mLに試験液(尿)0.25~0.5mLを加えて、2分間煮沸する。ぶどう糖が存在する時はその量の応じて、陰性のときは「青色」、2%存在のときは「橙黄色」になり、その間は「緑」~「橙黄色」までの種々の段階の色を生じる。判定にはあらかじぶどう糖の基準液 (1/4、1/2、3/4、1、2%)で呈色させておいたものと比較する。またはしばらく放置後生じた沈殿の程度によって次のように判定する。
陰性(-) 無変化又は少量の青白色ないし白色の混濁(尿酸塩又はりん酸による)
弱陽性(+) 緑色の混濁を呈し、管底に少量の黄色沈殿(ぶどう糖0.1~0.25%程度)
中等陽性(++)やや多量の黄色ないしオレンジ色の沈殿(0.5~1.0%)
強陽性(+++) 管底にオレンジないし赤色の沈殿を生じ、上澄み液は澄明(1.5%以上)
ほほう。これやってみよう。さすがに本物の尿をブログにアップするのはアレなので、ぶどう糖の濃度を0%から2%まで0.2%刻みでベネジクト反応の実験をやってみよう。
ということで、全11本をベネジクトで加熱してみた。まずは動画で。
0%、つまり含まれていない場合。
0.2%
0.4%
0.6%
0.8%
1.0%
1.2%
1.4%
1.6%
1.8%
2.0%
加熱直後の様子。一番左が0%でそこから右に0.2%ずつ増えて、最後は2.0%。
2つに分けて撮影しました。
なお、教科書ではこのような状態の写真を載せといて、「赤褐色の沈澱」とか言っているのですが、生徒が沈澱ってどんなものか誤解するんじゃないかな~と思っています。「沈澱」というなら次の写真のような状態で見せないといけない気がしますが、50分授業で生徒実験となると、こうなるまで待ってる時間はないんだよな。。。難しいところです。
そのまま放置して酸化銅(1)を沈殿させたときのようす。2.0%ともなると、銅イオン(Ⅱ)の色がかなり薄くなっています。
こちらも2つに分けて撮影しました。
銅廃液(2010-07-11)
だ液のはたらきを実験するのにつかったベネジクト液の廃液。
昨日はどう見ても一面にオレンジだったのですが(こんなに変わるんだったら写真とっておけばよかったと激しく後悔)、一晩でこうです。
教科書では赤褐色の沈殿と書いていながら、時間の関係でなかなかキレイに沈殿したのが見せられないんですよね。で、生徒はベネジクトの色の変化は「オレンジ色になる」とか書いてしまって…。いや、たしかにそうなんだけど。
一方、ずっと前に電気分解に使って放置していた塩化銅水溶液。
すごいことになっています。
容器の中で針状結晶ができています。キレー。どうみてもブルーハワイ。医薬用外劇物とはとても思えない。といいたいところですが、色的にアブなさそうに感じる化学科卒の悲しい性。じっさい危ないんだけど
Check it now!
山本. 英十:糖試験などに用いる銅試薬の考察-1-Fehling液を中心に,茨城大学教育学部紀要(20): 161-173.1970
山本. 英十:糖試験などに用いる銅試薬の考察-2-Benedict試薬について,茨城大学教育学部紀要(21): 181-186.1972
藤谷 健:「-CO-CH_2OH は酸化される」でケトースによるフェーリング液の還元が解りますか(教科書の記述を考える 3),化学と教育,44(11),p.718-721,1996
渡辺 洋子:フェーリング液の還元 : フェーリング反応(5分間デモ実験,実験の広場),化学と教育,58(9),p.414-415,2010
野口大介:「フェーリング液の還元」のこれまでとこれから,化学と教育,67(8),p.378-379,2019
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