おっしゃー、じゃあ、この調子で水も分解できるのかなぁ。
ではさっそく、炭酸水素ナトリウムや酸化銀でやったように水を加熱してみようか。
まてよ、水を加熱したら…水蒸気になるだけなよな。無理じゃね?
どうしよう?
そこで電気の力をお借りするのです。水に電流を流すと…
おや、誰か来たようだ。
課題:水に電流を流すとどのような変化が起こるだろうか。
水に電流を流す、と言っても純粋な水では電流は流れてくれません。そこで電流が流れるようにあるものを水に溶かすのです。とはいえ、「あるもの」がここで化学変化を起こしてしまっては元も子もありません。「あるもの」は、それを加えると電流が流れるということと、電流を流してもそれ自体は化学変化しないという2つの条件があります。
教科書では「あるもの」として水酸化ナトリウムがよく使われています。
が、今日はなんとなく炭酸ナトリウムを使ってみましょう。
水酸化ナトリウムは強いアルカリで危ないです。しかし、H字管などで実験すると水酸化ナトリウム水溶液が手につきやすいということで、20年位前、このことが問題となっておりました。これの解決策として、私なんかは水酸化ナトリウムほどアルカリが強くない炭酸ナトリウムや中性塩の硫酸ナトリウムなど、薬品を変える解決策を支持したのですが、時代は電気分解装置を変えるという流れを選びました。ま、その方が教材屋さんはもうかるからな!
ただ、いくら装置を変えても、結局気体を確かめるときにゴム栓を抜いて水酸化ナトリウム水溶液に触れてしまうリスクは残ります。もっとも、炭酸ナトリウムも水酸化ナトリウムほどではないものの、水溶液のpHは11~12で目に入ると失明の可能性は十分にあるので失明リスク回避の効果に大きな期待はしないほうがいいでしょう(と、この実験後に気づいた)。一方、中性塩の硫酸ナトリウムはステンレス電極だと鉄がとけだす上に、実験後に装置をよく洗わないと乾いたあとになんか白い結晶が残るんだよね。そうだ、硝酸カリウムという手もありましたね。今度やるときは硝酸カリウムでやってみようと思います。
電気分解装置としてはいろいろなタイプのものが各教材会社から出ていますが、ここではあえて昔ながらのH字管を使ってみましょう。
実験するに際しては細かい操作が気になるところですが、装置によって異なりますから、そこには本質があるわけではなく「水に電流を流す」準備をしているというとらえ方でよいと考えます。
かくして、こんな回路を作って、スイッチオン。
電圧は15Vにしてみました。水酸化ナトリウムなら6V程度でよいのですが、炭酸ナトリウムだとアルカリ性が弱い分電流が流れにくく、気体がたまるまで時間がかかってしまうので、電圧を上げて少しでもカバーするしかありません。
スイッチを入れるとブワッと泡が出てきます。
ただよくみると2つの電極で泡の出方が違うことに気づきます。電源装置の+極に付けたほうを陽極。-極側に付けたほうを陰極といいますが、陰極の方が泡の出方が激しいです。
電気分解装置では陽極・陰極といい、電池では+極(正極)、-極(負極)と言葉を使い分けています。
たまった気体の量も違います。左は陰極側で12cm3、右は陽極側で6cm3、体積比にして2:1となっています。
この実験では、水素と酸素の体積比が2:1よりも水素の方が多めになりやすいです。むしろきれいに2:1になる方が珍しいかもしれません。
これには理由があって、水素より酸素の方が水に多く溶けるからです。
ここで、えっ?と思った人は1年生の学習をきちんとしている人。アンモニアは非常によく溶ける、二酸化炭素は少し溶ける、でも酸素や水素は溶けにくいんじゃなかったの?
でもね、「溶けにくい」あるいは「ほとんど溶けない」と言う表現は、ひっくり返して言うと「ちょっとは溶ける」わけです。
次の表を見てください。
20℃の水1mlに溶ける気体の体積 (mL)
水素 | 0.0181 |
窒素 | 0.0159 |
酸素 | 0.0312 |
二酸化炭素 | 0.869 |
アンモニア | 0.0312 |
ということで、水素も酸素も溶ける量は少ないですが、
見方を変えると酸素は水素の1.7倍溶ける、ということもできます。
だいたい水中の魚は水に溶けているごくわずかな酸素で生きているわけですし。
そう考えると、酸素の水に溶ける量もバカにできないわけですね。
では、これらの気体はズバリ何でしょうか。
それを確かめるためにこんな実験をしてみました。左側が陰極、右側が陽極です。
教科書の実験操作の手順で、マッチが登場するか、線香が登場するか、石灰水に通すかを読んだところで(実験してないのに)何の気体が発生するか察してしまう生徒がいます。君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
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本来は、この気体は何か予想されてから実験できるとよいのですが、水がH2Oだとかやる前の段階だと、せいぜい「水だから水素かなぁ?」程度で明確な根拠をもって気体の正体を予想できない(あてずっぽうになる)ので予想させる意味がどこまであるのかという点(「水だから水素かなぁ?」程度でいいんじゃない?というお考えもあるとは思いますが…)と、発生する気体の量が限られるので、一発で正解できなかった場合、マッチ、線香、石灰水などと何回も実験するのか、という点に疑問と難しさを感じます。
【考察】
陽極に火のついた線香を入れたところ、炎を上げて燃えたことから、陽極に発生したのは酸素と考えられる。
陰極にマッチの火を近づけてみたところ、ポンという音がしたことから、陰極に発生したのは水素と考えられる。
水→水素+酸素
結論:水に電流を通すと水素と酸素に分解された。
重曹や酸化銀のように加熱することによっておこる分解を熱分解というのに対し、この実験のように電流によって物質が分解されることを電気分解といいます。
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水の電気分解(定番!化学実験(小学校・中学校版)13
谷川直也・森勇樹:水の電気分解の実験条件に関する再提案―電極,電解質水溶液,分解電圧の再検討から水素・酸素燃料電池まで―,聖徳学園大学紀要〈教育学部編〉,65,p. 107-123, 2015
いろいろ水の電気分解でやろうとしていたことを先にやられていた…
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