0136 沸騰石
沸騰石の働き
赤ワインの蒸留実験やベネジクト液で還元糖の有無を調べるときなど、液体を加熱するときは沸騰石を2~3粒、おまじないのように入れておきます。
もちろんこれはおまじないではなく、科学的に意味のあることです。
ゆっくりと、あるいはよく振らないで加熱すると、沸点に達しても沸騰しない状態で留まる事があります。これを過熱(過加熱)とか過沸騰といいます。しかしこれはイレギュラーな状態で、非常に不安定なので、振動など、ほんの少しのきっかけで急激に沸騰を起こします。沸騰ということはただでさえ液体が気体に変化するときに体積が一気に大きくなるので、それが急激に起こるということは、発生した気体の圧力で容器が壊れるわ、液体が吹き飛ぶわ、それをかぶってやけどするわと、なかなか危険です。
理科の実験ではなく、日常生活でもその危険はあります。電子レンジで飲み物を温めるときにこの突沸により事故が起こっています。詳しくは国民生活センターのリーフレットをどうぞ。
そこでこの沸騰石。液体の中にこの沸騰石を2~3粒入れるだけで、液体を加熱しても突沸が起きなくなるのです!
突沸を防げるメカニズム
すばらしい!でもいったいどうして?
その前に過熱状態がどうして起こるかを確認しましょう。
雲を作る実験で線香の煙を入れたように(あのときは過冷却ですが過熱と本質は同じです)、沸騰でブクブク出てくる泡ができるには、泡の「核」になるもの必要です。よく、容器の壁にある気泡や,溶けている物質が核になるのですが、きれいすぎてこれらがない場合、沸点以上の温度にもかかわらず、泡ができないのです。
ちょうど、みんなひそかに泡になりたいなぁと思いながらも、シャイなので誰も勇気をもって「泡になる人この指とまれ!」をしてくれないので、結果として集まって泡になれないような状態です。
このあと、「おい、泡になってないぞ!」と怖い人に怒られて慌てて泡になるのが突沸ですが、それは置いといて。
そうしたら、過熱状態を起こさないようにすればどうすればいいか見当がつきませんか。つまり、最初に「この指とまれ!」をやってくれる人、すなわち「核」を入れておけばいいのです。それを提供するのが沸騰石なのですよ。
沸騰石の「穴」
沸騰石には小さな穴が無数にあいています。液体に沸騰石を入れると,その穴にある空気が「この指とまれ!」をやってくれるのです。そのため,沸点になると、沸騰石付近がゆっくりと沸騰するのです。
ということで沸騰石には小さな穴が無数にあいているか、双眼実体顕微鏡で見てみました。
穴までは確認できませんが、凸凹しているのはわかりますね。
凸凹がわかりやすくなるかと思い、部屋を暗くして一方から光を当てて、双眼実体顕微鏡で観察してみました。どこかの星の写真だ、クレーターがあるね、と説明したら信じる人いるよね。てか、私は信じる。
ということで、沸騰石は、空気を携える穴さえあれば物質は何だっていいのですね。そりゃ水に溶ける物質だったらまずいけど。よく「素焼きのかけら」なんて言われていますが、では、試薬として売られている「沸騰石」は、そこら辺の素焼きのかけらを入れているのでしょうか。
成分は酸化アルミニウム
ということでSDS。
冨士フィルム和光純薬、Sigma-Aldrich、昭和化学、 米山薬品工業とみてみると、揃いもそろってAl2O3酸化アルミニウム。品質管理を考えたら、テキトーにそこら辺の…というわけにはいきませんよね。
最近は、沸騰石の他にも突沸防止ガラスとかPTFE(フッ素樹脂)をつかった沸石もあります。
注意事項
そんな沸騰石ですが、注意する点が2つあります。
その1 熱し始めてから、沸騰石を入れるのを忘れたといって、途中から沸騰石を入れると、そのときが過熱状態だったら突沸を起こすきっかけになってしまいます。熱し始める前に沸騰石を入れましょう。
その2 一度沸騰した液体が冷めた後に再沸騰させるときは、すでに入っている沸騰石の穴にある空気は、1回目の沸騰で出て行ってしまっているため、再沸騰では使えません。新たに沸騰石を入れましょう。
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