1365 色が消える糊の謎(2) pHで色を変える

 昨日は、いろいろな糊が酸性かアルカリ性かを調べてみました。
 そして今日は、糊の色が変わる理由についてみていきたいと思います。

 というと、もううすうすお気づきかと思いますが、色の変化はpHの変化、つまりpH指示薬のような成分が絡んでいるわけですね。

 実際に、消えいろピットのトンボ鉛筆のサイトにも次のような説明が載っています。

貼るまでは色があって、乾燥すると色が消えるのり「消えいろピット」は、pH指示薬を配合することによってできています。つまり製品の状態ではアルカリ性なのですが、空気に触れて二酸化炭素を吸ったり、紙の持つ酸性成分と反応したり、また乾燥して水分を失うなどにより中性化すると言う性質をうまく利用したものなのです。

 そこで、まず一つ実験。青い消えいろピットに二酸化炭素を吹きかけてみよう。

静止画で撮影すると、デジカメが光の加減を調整してしまうのであまり色の違いが判らないな…
でも、多少は白くなったもののまだまだ青いな!

二酸化炭素を吹きかけただけでは、のり自身の水分と反応させて酸性にするので、色が変わるまでちょっと時間がかかる。そこで、先にのりに水をたらし、そこに二酸化炭素をかけてみよう。
するとどうなったか。

これではっきりと白くなったことが分かりますね。

さらに白っぽくなったやつに、こともあろうにアルカリ性の代表選手、水酸化ナトリウムを加えてみよう。

青さを取り戻しました。

さらに、古くなって白くなってしまった消えいろピットに、水酸化ナトリウム水溶液を加えてみました。どうなるでしょうか。

どえらく青くなりましたね。

ということで、「消えいろピット」にはアルカリ性になると青くなるpH指示薬が含まれていそうです。

「チモールフタレイン」のpHによる変色範囲は(無色)8.6~10.5(青)で、スティックのりはpHの値が9くらいなので青くなる途中という感じですね。そう考えると、のりの青さよりも、最後の水酸化ナトリウム水溶液(pH14)を加えたときの青さの違いも説明できます。

ちなみにこのチモールフタレインは、単にアルカリ性で青くなるだけではなく、エタノール溶液は放置すれば無色からトウ黄色に、続いて緑色を経て青色に変わるという性質があり、それはそれで遊べそうな物質です。安全性についてはまだ調べていませんが、のりに使われるくらいだから、色素として使うくらいは大丈夫なんじゃないでしょうか(適当)。

他の色の成分は?

 ところで、青色の正体はチモールフタレインだとして、他の色は別の指示薬だと考えられます。具体的はどんな物質なのでしょうか。

 たとえば、前回も紹介した3Mのスコッチ(R)カラースティックのりのSDSには糊の成分表があります。それを調べれば、紫の成分の正体がわかりそうです。
 しかし、その表に載っているどの物質を調べても、紫とかpHで色が変化するという話は出てきません。中にはかなりマイナーな物質もあるので、ネットにはそこまで詳しい性質は出てこないというのもあるかもしれませんが。ただ、表の最後にあってちょこっとだけ含まれている「3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバマート」という物質の「ヨード」というところに引っ掛かってはいますが…。もともと「ヨード」とはギリシャ語で「紫」(iodestos)の意。

特許公報

 答えそのものではありませんが、ヒントになりそうな情報が特許公報が参考になりました。
特許公報(特許3997260)があります。

【0007】
本発明で用いるケン化度が95%以上のポリビニルアルコールは、スティック糊の軟化防止に効果がある。このようなポリビニルアルコールは、日本合成化学(株)のゴーセノー ルN型(例えば、NH-26、20、18、NM-14や11、NL-05等)やゴーセ ノールA型(例えば、AH-26、22、17やA-300等)などとして容易に入手可 能である。 上記ポリビニルアルコールの使用量は、本発明の固形状接着剤全重量に対し、 0.1~1重 量%とするのが好ましい。 本発明で用いる着色剤としては、分子内にカルボキシル基を有し、水の存在下で緑、青、 紫又は赤に発色する発色性色素を用いるのが好ましく、このうちカルボキシル基を有する アルキルフェノールフタレインPH指示薬を用いるのが好ましい。特に、酸性色が無色であり、アルカリ性色が緑、青、紫又は赤であるものが好ましい。又、水溶性であるのが好ましい。このような発色性色素としては、特開昭48-13351号公報に記載の 2,5 - ジアルキルフェノール(アルキル基の炭素数は、それぞれ独立に1~5の範囲、特に好ま しくは1~3の範囲である)とトリメリット酸無水物をフリーデルクラフト型触媒の存在 下にて縮合させることによって得られるものがあげられる。特開昭48-13351号公 報の開示内容は、本明細書の記載に含まれるものとする。
【0008】
特に好ましい発色性色素は、カルボキシチモールフタレイン(CTP)及びブロモカルボキシチモールフタレイン(BCTP)である上記色素を本発明の固形状接着剤に含有させると、該接着剤を紙などの上に塗布した時に は緑、青、紫又は赤色であり、塗布の状態を目で確認することができるが、塗布後固形状 接着剤が十分乾燥した時に無色となり、接着後に色が残らない。発色性色素の量は任意とすることができるが、発色性色素の量を 0.002~ 0.1重量%とするのが好ましく、より 好ましくは 0.005~ 0.05重量%である。
【0009】
本発明において、上記色素を用いる場合には、固形状接着剤全体をアルカリ性とするのが好ましい。この場合、発色性色素の発色域と一致する場合には、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ剤の添加を必要としないが(必要に応じて 添加してもよい)、固形状接着剤全体がアルカリ性とならない場合には、アルカリ剤を添 加して固形状接着剤全体をアルカリ性にし、かつ発色性色素の発色域と一致するようにするのがよい。

 なるほど確かに酸性色が無色でアルカリ性が色がついてる指示薬だから、のりを塗ったときは色がついてるけど、空気中の二酸化炭素で酸性化すると色が消えるわけだね。逆なら実用上の意味はない。
 でそれがカルボキシチモールフタレイン、ブロモカルボキシチモールフタレインなわけだけど、チモールフタレインでもOKと。そしてアルカリ性のことも触れていますね。

 さらに公開特許公報A 2005-330425も参考になりそう。もともとは消去性水性インキ組成物、おそらくはフリクションなんかに応用されているんじゃないかと。

【0002】
 ある種の染料を炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液によって発色させ、これにトリエタノールアミンやグリコール類等の保湿剤を添加したマーキング用インキとして、古くは特開昭49-127730号公報(特許文献1)記載のヒドロキシピレントリスルホン酸をアルカリ領域で発色させる蛍光黄色インキが知られている。また、特開昭54-131428号公報(特許文献2)には、PH指示薬を着色剤として弱アルカリ水溶液と有機アミンの併用で発色させ、アルキレングリコール等の保湿剤を添加した消色性インキ組成物が開示されている。
【0019】
 PH指示薬は、変色域がアルカリ側にあり、変色域よりアルカリ側では有色であり、酸性サイドでは無色である P H応答指示薬であれば特に制限されるものではない。具体的には、シアニン、α-ナフトールフタレイン、エチルビス(2,4-ジニトロフェニル)アセテート、フェノールフタレインナトリウム塩、1,3,5-トリニトロベンゼン、ニトラミン、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、o-クレゾールフタレインがあげられる。また、これらを変性したものでもよい。なかでも、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、o-クレゾールフタレインは溶解性に優れ、しかも安価に入手しやすいので、好ましい。PH指示薬は2種以上を組み合わせて使用してもよい。

 ここでチモールフタレイン登場、一緒にフェノールフタレインも登場していますが、チモールフタレインの代わりにフェノールフタレインを使えば、赤い「消えいろピット」ができるのではないかと思うのですが、ニーズがないのかなぁ。

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