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0537 アンモニアがH3Nじゃないのはなぜ?

 「化学変化と原子・分子」の授業を見ていた時の話です。物質の分子モデルを見て化学式で表す活動です。二酸化炭素はCO2、うんうん。水はH2O、よしよし。そして、アンモニアは…H3N?
 それちが…いやまてよ、水はH2OなのになんでアンモニアはH3NではなくてNH3なんだ。考えてみれば、説明つかないぞ。

 課題:水の化学式はH2Oなのに、アンモニアの化学式はH3NではなくてNH3なのはなぜか。

 以前、日本語名で後ろにある元素の順に、化学式では先に登場するというルールを紹介しましたが、これは「~化」「~酸」にあたる電気的に陰性の成分を化学式では後ろに置き、陽性成分を前に置くという話です。中学校で電気陰性度などはやらないので「陽性の成分」「陰性の成分」という言い方ができないのですが。
 でも高校化学で、電気陰性度については周期表の右上の方にいくと大きくなるという規則性も学習します。ナトリウムより塩素の方が電気陰性度が大きいので、ナトリウムと塩素原子でできている塩化ナトリウムの化学式はNaClになりますし、水素原子より酸素原子の方が電気陰性度が大きいのでOH2ではなく、H2Oになります。
 そのノリでいえば、窒素原子より酸素原子の方が電気陰性度が大きいので、やっぱりH3Nになるじゃありませんか。どうしてダメなのか。明確な根拠を示して説明できますか。

 化学式の表し方についてなので、これは直接の自然事象ではありません。人間が決めたルールの問題です。しかし、だからと言って勝手にできるというわけではなく、陽性⇒陰性の順というルールがあれば、それに従わなくてはいけません。それを覆せるのは「例外」という別のルールだけです。

 ある「知恵袋サイト」には、非金属元素のみで構成される化合物の化学式において、元素を表記する順序は「C→P→N→H→S→I→Cl→O」だ、というもっともらしい説明があります。しかしその出典が書いておらず、裏が取れません。たくさんの化学式を見て帰納的に導かれた規則性のようにも思えますが、自然事象ならともかく、人間の作ったものなら、そのような書き方をするルールがどこに存在するのかを突き止めたいところです。

そこで召喚したのが
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この本の11ページ、Ⅱ-B 無機化学命名法の基本原理と文法 > Ⅱ-B1 化合物の化学式 によると、

実験式以外の化学式では、電気的陽性成分を前、電気的陰性成分を後に書く.

とあります。電気的陽性・陰性は電気陰性度を使えばわかります。しかし、その後にこう続く。

実際の電気陰性度にはこだわらず、表Ⅱー4に示す順序で元素の電気的序列を定める。

表Ⅱー4というのがこれ。陰性成分の強い順にいうと、17族を上から下へ、次に同様に16族、15族、14族…とそれぞれ上から下へなぞっては、一つ左の列に移っていきます。

そうするとだ。

 その結果、OはF以外のハロゲンに対しても陽性とされ、例えば従来の二酸化塩素chloribe dioxide ClO2 は塩化二酸素 dioxygen chloride O2Cl となる.この原則に従うと水酸化物イオンはHOとなるが、すでに一般化されているOHの使用が容認されている.

 なんやねん。一般化されたもん勝ちか。このルールも大概だなぁ。

 ここで話を戻そう。水はH2OなのにアンモニアはH3Nじゃないのか。水素の電気陰性度は酸素よりも窒素よりも小さいのに。
 ほら、表Ⅱー4だって…あれ?Hが16族と15族の間?君どうしてそんなところにいるの?

その答えは、「化合物命名法」にはなかったが、Hがこの位置だとすれば、たしかに水はH2Oで、アンモニアはNH3になる。ひょっとしたらアンモニアがNH3という化学式が定着したため、それに合わせてHをこの位置に置いたのかもしれない…。信じるか信じないかは、あなた次第です。

 結論:化学式ではN⇒H⇒Oの順で表すので、水はH2Oで、アンモニアはNH3となる。

 さて、冒頭の授業ですが、H3Nと書いた生徒は、その後先生が答え合わせでアンモニアはNH3だというのを聞いて、何の疑問ももたず書き直していました…。素直だねぇ┐(´д`)┌

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