0120 ミョウバンの溶解度は2つある!

今回は某新聞の社説っぽく書いてみます。

 中学入試の理科で、溶解度の問題などもよく出てくる。教科書ではホウ酸などが水の温度によって溶解度が大きく変わる物質の例として出てくるが、食塩なんかに比べると、たとえ水の温度が高くても溶解度が小さい。小さいから実験に使う薬品の量が少なくてすむというメリットもあるが、定量的な扱いがしにくい。

 中学校なら硝酸カリウムがそのポジションにいるのだけれども、あまり身近でないのと、危険物であることからちょっと敬遠。そこでミョウバンが使われだすようになる。小学校の教科書では、ホウ酸を使っているところと、ミョウバンを使っているところがある。

 だがちょっと待ってほしい。生ミョウバンには結晶水が含まれている。
 AlK(SO4)2·12H2O=474g/mol AlK(SO4)2=258g/mol ということは、生ミョウバンの質量の約46%、半分近くが結晶水だ。1パーセントだけなら誤差かもしれない。しかし、これではとても無視できない。

 もっとも、結晶水を含まないミョウバンもある。焼きミョウバンだ。焼きミョウバンと生ミョウバンの溶解度を並べてみた。温度が上がるほどその違いが顕著になってくる。

 本当にこの対応であっているか確かめてみよう。計算がややこしそうだが、なあに、かえって計算力がつく。

 生ミョウバンE(g)中に含まれるミョウバンD(g)と結晶水C(g)は、それぞれの式量から
D = 258 * E / 474
C = 216 * E / 474

生ミョウバンE(g)を100gの水にとかしたときの全水の量B(g)は
B = 100 + C
ということは、結晶水を含めた水100g中の溶解度Aは
A = D * 100 / B
これらからB,C,Dを消すと、
A = 25800E / ( 216E + 47400 ) もしくは
E = 47410A /( 25800 – 216A ) と出てくる。

実際に計算すると、やはりあっていた。

 そういえば、ミョウバンの溶解度が中学入試でよく出題されるという事実も、多少気になるところだが。
 入試で「ミョウバン」と言われて、生ミョウバンというと焼きミョウバンを悩む受験生もいるかもしれない。それどころか、焼きミョウバンの溶解度の表を出しておきながら


70℃の水200gにとけるだけミョウバンを完全にとかした後、水の温度を30℃に下げたところミョウバンの結晶が出てきました。何gの結晶が出てきましたか。

ある中学校の入試問題を一部改変しました

みたいな、不適切な出題をしているケースもたまにみられる。

 どこが不適切か。おそらく出題者の想定した正解は70℃と30℃の溶解度の差を200gだから2倍した値であろう。硝酸カリウムやホウ酸ならこれでよい。しかし、70℃の水に溶かしたミョウバンが、水に溶かそうとすると白く濁ってなかなか溶けないためこの実験に向かない焼ミョウバンだとしても、ミョウバンの水溶液を冷やして出てくる結晶は結晶水を含んだ生ミョウバンであって、決して焼ミョウバンではない。生ミョウバンの溶解度の表でない限り(そして最初とかしたのが生ミョウバンでない限り)基本的に解答はお手上げである。

 だが心配のしすぎではないか。きっと誰もそこまで考えていない。この問題を解く小学生はもちろん、出題や採点をする学校側も。

Check it out!
ミョウバンの溶解度 様々な条件下のミョウバンの溶解度曲線が載っている。
「ミョウバンの結晶づくり」の落とし穴!(1)  京都市青少年科学センター

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