PR

0590 蒸散実験の「鶏と卵」

蒸散についてなんですがね、典型的な入試問題を見てみましょう。
(今日の話とは関係ないので問題の解答・解説は、やりません。)

東京都立高校 入試 2018年 理科 4

<実験2>
⑴ 葉の枚数や大きさ、色、茎の太さの条件をそろえたツユクサを4本用意し、茎を切って長さをそろえた。
⑵ 全ての葉について、表側にワセリンを塗ったものをツユクサA、裏側にワセリンを塗ったものをツユクサB、表側と裏側にワセリンを塗ったものをツユクサC、ワセリンを塗らなかったものをツユクサDとした。なお、ワセリンは、水や水蒸気を通さないものとする。
⑶ 4個の三角フラスコに同量の水を入れ、ツユクサAを挿したものを三角フ ラスコA、ツユクサBを挿したものを三角フラスコB、ツユクサCを挿した ものを三角フラスコC、ツユクサDを挿したものを三角フラスコDとした。その後、図6のように三角フラスコ内の水の蒸発を防ぐため三角フラスコA~Dのそれぞれの水面に少量の油を注いだ。

⑷ 少量の油を注いだ三角フラスコA~Dの質量を電子てんびんで測定した後、明るく風通しのよい場所に3時間置き、再び電子てんびんでそれぞれの質量を測定し、水の減少量を調べた。

 

〔問2〕<結果2>から、葉の蒸散の様子について述べたものと、葉の裏側からの蒸散の量を組み合わせたものとして適切なのは、下の表のア~エのうちではどれか。
 ただし、ワセリンを塗る前のツユクサA~Cの蒸散の量は、ツユクサDの蒸散の量と等しいものとし、また、ツユクサの蒸散の量と等しい量の水が吸い上げられるものとする。

 

 ほかにも2020年の佐賀県立高校の大問3の〔問1〕なんかもそうですね。
 このブログでも、過去にこの記事があります。
 これらの例では、実験の目的は、蒸散は葉の表面、裏面や茎など、どの部分でどれくらい起きているかを定量的に調べるといえそうです。実際に計算なんかさせているわけだし。

 ところが学習指導要領では、趣がちょっと違うんですね。

蒸散については,蒸散が行われると,吸水が起こることを実験の結果に基づいて理解させる。その際,葉の断面や気孔の観察と吸水の実験の結果を分析して解釈させ,吸水と蒸散とを関連付けて理解させる。
中学校学習指導要領解説 理科編 平成29年7月   88ページ

 これに基づいた授業での展開例もこのブログの記事になっています。もちろん教科書もこのパターンです。
 つまり実験の目的は、蒸散量が変化すると吸水量はどう変化するかということなんです。
 この実験では、①葉のついた茎②表側にワセリンを塗った葉のついた茎③裏側にワセリンを塗った葉のついた茎④葉のついていない茎を用意しますが、この操作は、蒸散量の値を4つ、独立変数として設定するためにやっています。つまり、蒸散量が①>②>③>④である(葉の表側より裏側に気孔の多い植物の場合)ことは、実験しなくてもすでにわかっているという前提で実験するのです。
 では、この実験で測定している値、従属変数は何でしょうか。メスシリンダーやシリコンチューブの中にある水の量がどう減っているかを調べています。この水の量は蒸散量でしょうか。いいえ、吸水量ですよね
そして①>②>③>④と結果が出れば、蒸散量の順番と一致したことになります。つまり、蒸散量をワセリンを塗って減らせば吸水量も減る という考察が成り立つのです。

 都立高校の入試問題では、「ツユクサの蒸散の量と等しい量の水が吸い上げられるものとする。」ということを前提に、蒸散は葉の表側より裏側の方が盛んである、という結論を導きましたが、指導要領(教科書、授業)では、蒸散は葉の表側より裏側の方が盛んであることを前提に「蒸散があれば吸水が起こる」となっています。つまり同じ実験でありながら入試などの問題と学習指導要領や教科書、それを踏まえた授業では、前提と結論が逆になっているのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました