0727 理科教師のための作問入門(4) 知識の概念的な理解

「検索」問題

まずは、次の2問を見ていただきたい。

問題A
航太さんは、魚屋で軟体動物を2種類見つけました。軟体動物の組み合わせとして適切なものを、下のアからエまでの中から1つ選びなさい。
  ア アジとイワシ  イ イカとタコ  ウ ウニとナマコ  エ エビとカニ

問題B
日常生活の動作の中で,物体が静電気を帯びるものとして最も適切なものを,下のアからエまでの中から1つ選びなさい。
 ア 手で地面に触れる。
 イ プラスチック製のものさしを布でこする。
 ウ カギ穴にカギをさす。
 エ 金属製のドアノブに触れる。

 「軟体動物」と「帯電」(直接言葉は出していませんが)、対象とするものは違いますが、問題A・Bどちらも特定のカテゴリーに位置づけられている動物や現象を正しく指摘できるかという、分類でいえば「検索」の作業が正しくできるか、という同じパターンの問題です。

 ところが、問題Aは平成30年に出題されたので「活用(適用)」の問題に、問題Bの方は令和4年度の問題なので「知識」の問題とされています。

 扱いが違ったということはありますが、どちらも、「事実的な知識」を既有の知識と関連付けたり活用したりする中で,他の文脈で活用できる程度に概念等を理解しているか、ということです。

 問題Aで言うと、「こういう動物を軟体動物という」という事実的知識をもとに、魚屋さんで見た様々な動物について「これは軟体動物か否か」と活用できる程度に軟体動物という概念を理解しているか、ということです。
 問題Bは、少しひねっていて、「これは物体が静電気を帯びる現象なのか」と活用できる程度に「静電気を帯びる」という現象を理解しているかということになりますが、かえって「帯電」という言葉があった方が「ああ、あの話ね」と想起しやすいのかもしれません。
 つまり問題Aより問題Bの方が、「帯電」という言葉を表に出していない分、基礎的・基本的な知識を活用する度合いが強いのですが、それでも問題Bは「知識」となっています。ということは現在の基準でいうと問題Aはなおさら「知識」の問題とですよね。

令和4年にはこのパターンでもう少しひねった問題があります。

問題C
空気が乾燥しているので,しみ出した水は,すぐに熱をうばって蒸発するため,全体が冷えます。

下線部としくみが同じ現象を,下のアからエまでの中から1つ選びなさい。
 ア かき氷をすくった金属のスプーンの温度が下がる
 イ ラムネ菓子を食べると化学変化で口の中の温度が下がる
 ウ アルコールで手を消毒すると,手の温度が下がる
 エ 氷に食塩をかけると0℃より温度が下がる

 実際の問題は下線、選択肢ともに図やイラストがあってイメージしやすくなっています。
 温度が下がる現象を原因別で分類したとき、下線の事例と同じグループに分類されるのはどれか、と最初の事例がどのグループかを含めて考えていかないといけない、それでも「知識」の問題。でもここまでくると、現役の中学理科の先生でも「これは思考・判断・表現の問題だろう」と思考・判断・表現される人が多いのではないでしょうか。

 この問題でいえば、具体的な現象から概念を正しく抽出し、同じ概念にふくまれるものを探す(4つの選択肢それぞれと比較し異同をチェックする)わけですから、多分に思考・判断が入っているといえます。これが「活用できる程度の概念の理解」を測るということなのです。すげーな。

知識から概念へ

 「炭酸水素ナトリウムを加熱すると、二酸化炭素と水と炭酸ナトリウムになる」「酸化銀を加熱すると銀と酸素に分かれる」「水に電気を通すと水素と酸素が発生する」という個別的・断片的な「知識」が集まると(なんだったら集まらなくても)、「一つの物質が複数の物質になる化学変化が分解なんだ」と、分解という「概念」が見えてきます。そうすると、2H2O2 → 2H2O + O2 なんて化学反応式を見たら、仮にH2O2が何かというような「知識」がなくても、「あ、分解だな」と新しい場面で活用ができるわけです。
 と同時に「一つの物質が複数の物質になる化学変化が分解なんだ」というのは「知識」とも言えます。分解をはじめとする様々な化学変化のパターンの知識のほかに、原子の知識や質量の変化に関する知識などが集まり、「つまり、化学変化ってこういうこと!」という概念が構成されていく。「化学変化」という知識が他の知識と手を組んで新しい概念が生まれ、その知識と…と、いうなれば「知識と概念」とは単に具体的な方が知識、抽象的な方が概念、という相対的な「概念」なのかもしれません。なにこの合わせ鏡を見るような無限感…。でも、もしそうだとすると、「事実的な知識」と「知識の概念的な理解」はあるところを基準にきれいに分けられる、というものではなく、一定のグレーゾーンが存在すると考えた方がよいでしょう。

「事実的な知識」と「概念的な理解」の問い方の違い

 中学プロパーな先生は中学校理科の「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(長いので以降、「参考資料」と呼びます)は読んでいても、高等学校理科の「参考資料」は中学と発行時期がずれていたこともあり、読んでいない人も多いのではないでしょうか。
 ただ、高等学校理科の「参考資料」の88-89ページ(pdfでは98-99/154ページ)は事実的な知識を確認するための問題形式と知識の概念的な理解を問う問題形式が整理されていて、中学の理科教師にも十分役に立ちます。
 特に高校の生物だと細かい知識量が勝負のザ・暗記科目みたいなイメージがいまだに根強い感じがします(※個人の感想です)。グルカゴンとかチロキシンのようなググればわかるような細かい知識をたくさん知っているのが偉いんじゃなくて、「つまり、ホルモンってどういうものなのよ?」というざっくりした特徴の理解(概念)を押さえておくべきじゃないの?ということなんだと思いますし、その通りだとも思います。

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